ひまわりの見当違い
少年は満面の笑みで勢いよく突進してくる。
「あそぼあそぼ~!」
お腹をドスンと突かれて、ウッと息を漏らす。いつもコレされてるんだ、つばきくん…大変そうだな…と他人事のようなことを思いつつ、ひまりは少年の方を見てできるだけ優しく喋りかけた。
「えー、うーん、兄ちゃん忙しいなぁ」
「え〜、遊ぼうよー」
少年は訴えるような表情になってひまりを見る。
ひまりが困っていると、その背後からついてきたであろう神さまが楽しそうにけらけら笑っていて、視線に気づくと、もっと楽しそうに笑った。
『遊んであげればいいのに〜』
なんだかひまりは苛つく。こんな状況で、しかもあなたが作った状況なのになぁ…と思う。
どんな反応をしてもどうせ面白がられるだけなので、ひまりは無視して少年に集中することにした。
「…あの、そろそろ、わた…おれ」
「さく、やめてやれ。迷惑だろ」
鋭い声が割って入った。スポーティーな少年が、さくとよばれた少年の襟首を掴んで引き剥がす。さくは不満げな表情をする。
「あの、ゴメン、兄ちゃん」
スポーティーな、きくと呼ばれた少年が気遣わしげにこちらを見た。
ひまりは全然大丈夫、という風に首を振る。
「えっと、ありがとう。きく」
「ううん」
兄弟にしてはやけに遠い態度だな、最近はそんなものなんだろうか、とひまりは思う。
そのままタイミングを逃したのか帰ろうにも帰れない、くらいの空気感になる。
これは、ひまりが帰るのが正解なのだろうか。
さくは手持ち無沙汰にしていて、きくは気まずそうに空を見ている。
しんとした部屋には室外のセミの音が大きく聞こえる。また、暑そうな日差しが広がっている外とは反対に、クーラーのひんやり冷たい空気が広がっていた。
沈黙が堪えたのか、おずおずときくが口を開く。
「あ…あのさ兄ちゃん、今日って、時間とか、ある?」
「え、どうかしたの?」
きくは真一文字に口を引き結んで伏し目がちになる。
「ゆっくりでいいよ」
ひまりがそう言うとやっと顔を上げてこちらを見る。
「あの、その、一緒に、遊び、たい…と思って」
そんなに溜めるようなことだったかな、とひまりは思う。
まぁ、人には人の事情というものがある。ひまりが思う普通ときくが思う普通は違うのだろう。
「い、忙しかったら全然。…あ、あはは」
きくはゆっくりとこちらを向いて、もしかしたらという表情をして上目遣いでこちらを見る。
いつもだったら断らないのだが、現状では時間が全くない。に加えてひまりはつばきではない。
情報収集のため、もとい元に戻るため、勇気を出してくれたところ申し訳ないが断るしかない。
「ごめん、今日は…ちょっと」
「そ、っか、ごめん。迷惑だったよな。俺、いつも…」
『いつも』
ということはつばきはいつも断っているらしい。
ひまりはひとりっ子なのでよく分からないが、やはり、不自然なほど距離があるような気がする。
きくの瞳は諦めを帯びた表情になる。
――可哀想だなぁ
ひまりはそう思いながら全く反対に、可哀想って気持ち悪いなぁと思った。
可哀想とは、勝手に想像したものだ。勝手に妄想して、憐れみを向けて、なんと傲慢なのだろう。
「きく」
「…えと、何?」
慈悲ではなければいいのだろう。
これが最後ならばつばきではなくひまりが受け取っているのだから、マイナスで終わってしまう。せめてつばきが判断すべきだ。
ひまりの心的にも現状的にも最善手だ。
ひまりはにこやかに笑ってきくに話しかける。
「…誘われて嫌なやつは、多分、いないと思うから、また、誘ってくれる?」
「え…」
そう言ったひまりに、きくは驚いた猫のように両目を見開いた。
ミニミニ設定コーナー
ひまりは絹ごし豆腐が好物です。




