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ひまわりの死に損ない

 苦しい


 毎朝、起きるたびそう思う。涙が出てきそうなくらい苦しい。違和感が頭の中をぐるぐる回る。

 どうして私だけが、と考えれば考えるほど苦しくなって、眠れなくなって、朝起きて、だるくて、つらくて、苦しい。


「ひまりちゃーん?起きてるー?」


 階下から響く母の明るく薄く怒気を含んだ声。一瞬その態度に苛つくがすぐに切り替えて返事をする。


「はーい!起きてるよー!」


 自分でも感心するほど元気な声だ。

 半袖の犬がついているお気に入りのパジャマをぽぽいと脱ぎ捨て、ワイシャツのボタンを留め、膝丈程度の黒よりの深緑色のチェックのスカートを穿き、半袖のワイシャツをきて、リボンを着け、オシャレになるように着崩し、いつもの髪飾りを身に着け、鏡の前に立つ。

 肩より少し上ほどのセミロングの髪を整え、校則違反にならない程度の薄いメイクをして、にっこりと笑顔を作る。


「今日も笑顔で元気に頑張ろう!」


 そう自分を鼓舞してお気に入りのキーホルダーのついたリュックを背負う。


 ドアから階段まで、勢いよく歩く。

 いよいよリビング、というところで片足のつま先を階段の丁度出っ張っているところにひっかけ、頭からジェットコースターよりも早く落ちる。


―――あれ、私、死んじゃうのかな。


 そう考えるや否や手すりをつかもうとするがもう遅い。

 眼前がゆっくりと動き出し、今までの思い出が流れ始める。

 ああ、これが走馬灯かなどと呑気なことを思う。もうちょっと親孝行しとけばよかったかなとか、お腹空いたなとか、さまざまな後悔が脳内を流れる。


 ドンッ、と大きな音が鳴り、鈍い痛みと共に現実に引き戻される。腕と頭がジンジンして、考えるどころではない。涙で視界がにじむ。母の焦ったような声が聞こえる。視界がかすみ、意識ももうろうとしながら思う。


―――もし……もし、次に生きられるとしたら


 母が作ったトーストと目玉焼きとスープのいい匂いが台所からする。

 朝のつけっぱなしのお天気ニュースが今日は青空が広がる洗濯日和だと言っている。

 温かいリビングとは裏腹に、母が救急車に電話している緊迫した声が聞こえる。


―――こんな私でも、幸せになれるかな



『いいよ』


◇◇



「わああああああああ!!」


 ひまりの口から想定以上に低い声が聞こえる。

 しかし、そんなことを気にする暇はない。目の前が慟哭し、息もままならない。


「はっ、はぁっはっはっはぁ」


 さっき打った自分の腕も頭も痛くない。


「…い、いき、てる」


 それどころか今すぐ走り出せるほどにエネルギーが満ち溢れている。

 キョロキョロと辺りを見渡す。


「…っ?」


 玄関前の廊下にいたはずのひまりは見たこともない紺色のフカフカのベットに寝かされている。


「知らない部屋…」


 辺りを見回す。

 シンプルな時計、小さめの衣装棚に、ひまりが寝ていたベット、勉強道具がいくつか置いてある机、フックに掛かったリュック、椅子には男性物と思わしき大きいサイズの上着がかかっていて、床には少しばかり資料や年季の入ったボールなどが散乱している。

 生活感があり、あたかもさっきまでいたような風貌だ。

 間違えなくひまりの部屋ではないし、病院という風な感じもない。


「どこだよ、ここ」


 そう眉間にシワを寄せながら、動くとひまりのセミロングほどあった髪がスッキリと片付いていることに気がついた。

 事故で切れてしまったのだろうか、それならちょっとショックかも、とひまりはどこかで呑気なことを思いながら髪を触る。


「…ん?」


 そうやって触ったひまりの髪はちくちくしている。そこまでは良かったのだが、首を触るとこころなしかいつもより太い。

 さらに触るとなんと喉仏まであったのだ。


「…は?」


 部屋に気を取られて気付かなかったが、確かに手もゴツゴツしていて肩もがっしりしている。

 そもそも、ひまりはれっきとした女の子で、喉仏は小さめだし、こんなにガタイもよくない。


 嫌な予感がしてズボンを下ろしてみる。

 ぞわりと鳥肌が立つ。

 ひまりは昨夜男性もののパンツは履いていないし、こんな股間の膨らみも無かったはずだ。

 しかも、ひまりのあったはずの胸のふくらみもない。


「え、きっ…え?」


 意味不明な状況だ。ひまりは反射してる窓を見てみる。


「…?」


 思考が一度止まる。


「こ、れ…」


 元の体とは全くかけ離れた顔立ちに体つき。

 そこそこ短めで邪魔にならない程度の髪の毛。

 ヒョロでもガリでもない体つき。

 ひまりはあまり人の顔の違いが分からないので当てにならないが悪い方ではないと思う。

 というか、ひまりの知っている顔だ。

 同じ学校、同じクラス。あまり関わり合いは無かったが大人しめの生徒だったと記憶している。


「冬木、つばき…」


 隣の席はおろか、同じ班にすらなったことがない。

 出席番号もたいして近くないやつだ。


『びっくりした?』


 キンキンの高い声が横から出てくる。


「…えっ?」


 見えた姿はネズミのような兎のような、ハムスターのような、なんともよく分からない見た目のなにかだった。

 ひまりはそいつに、鳩が豆鉄砲を食らったようなマヌケな返事しか返すことができなかった。

見て下さりありがとうございます。

ミニミニ設定コーナー

このコーナーでは小さい設定などを書いていきたいなと思います。本作の主人公、ひまりはインドア派です。

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