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神代の魔法使い  作者: 伊月雅臣
20/29

レイムリア

冴島と惨跛弐式(ざんびにしき)接敵(せってき) ほぼ同時刻

南極 米軍調査地 


 米国が発掘、調査していた南極の遺跡は葛城武尊(かつらぎたける)の部下に強襲され全滅していた。基地は全壊し、警備していた軍人たちは冷たく凍り、降った雪の下で見えなくなっていた。

 氷の壁に縦にひび割れたクレバスの外側を青白く光った光のドーム状のものが覆っていた。その光の壁の内側には、極寒の南極の風景を見ているかのように、1人の魔術師が立っていた。

陽炎(かげろう)、様子はどうだ?」

 背後から渋めの低い声をかけられて、陽炎は振り返った。この場所を強襲して数日が経っていた。

石舟(せきしゅう)様、特に変わりはありません」

 遺跡を警備している地上の軍隊を強襲する魔術師を率いていたのは、石舟という初老の魔術師だった。

「これから夜になりますから、もう来ないでしょう。それに首都が惨跛(ざんび)の術で大混乱しているのに、こんなところに援軍を送る余裕などないはずです」

「大国はわからないぞ」

「来たとしても、この遺跡の価値がわかる人間は強力な破壊兵器を使って攻撃などさせないでしょう。機械式の魔術防壁と私だけで充分です」

「そうだな。だが遺跡が稼働したら他の国の連中も動き出すかもしれないぞ」

「そのために高度な軍事力を持つ国で惨跛(ざんび)の術を発動させたのではないですか」

「歳をとって心配性になったかな」

武尊(たける)様のためを思えばのことです、石舟様。それに100歳は人生の半分にも達していませんよ」

「それもそうだな」

 笑いながら2人はクレバスの内部に入っていった。石舟の斜め後ろを陽炎が大股でゆっくりとついていく。

 クレバスの中は縦5m、横3mほどで、奥行きは30mほどあった。ここまでが氷で覆われた部分のようだった。そこから緩い傾斜が続いていた。入り口近辺は氷の地面だったが少し進むと黒っぽい金属のような床が現れた。

 傾斜部分を下って50mほど進むと中途半端に開いたような分厚い扉があり、そこを通り抜けると突然広い場所が眼前に広がった。

「何度見てもすごいな、霊牟璃堊(レイムリア)の遺跡は」 

 そこには高さ70mほどの黒く鈍い光を放った巨大なピラミッドが、石舟(せきしゅう)陽炎(かげろう)を待ち構えていた。その四方の辺には高さこそ半分ほどだが底辺は同程度の大きさのピラミッドが取り囲んでいる。ピラミッドの周囲は床と同じような素材の巨大な円形のドームで覆われていた。ドームの内側がうっすらと光っていて照明が必要ない程度の明るさだった。

 ピラミッドの間の細い通路をを抜けて、中央の大きなピラミッドの正面にたどり着くと、幅2m、高さ3mほどの(くぼ)みがあり、そこにツナギのような服を着た数人の男が大型の機械や手持ちの器具を使って作業をしていた。

「どうだ?」

「動力伝達が正常に行えていないようなんです」

「封印してあるとはいえ、いつでも動くようになってる遺跡じゃなかったのか? 地上の連中に破壊されたのか?」

「はい、そのはずなんですが。それに、そもそも奴らの工作機械で破壊できるとも思えないです」

「鍵はどうなんだ?」

 石舟が尋ねる。

「形はピッタリですし、この鍵を通して制御脳の彌俐葩(ミリア)にやっと接続できたのであと少しだと思います」

 作業員風の男が石舟に見せたのは、勾玉(まがたま)と言われているものと同じ形をした翡翠(ヒスイ)色の物体だった。

「壊れているわけではないのだな?」

「はい、もう少しお待ちください」

 周囲を見回しながら陽炎が問いかける。

「あそこの入り口はどうやって開けたんだ?」

 陽炎が自分達が入ってきた入口を指差した。

「なにかの衝撃で開いた形跡があるのです。連中が開けたわけではなさそうです」

「とにかく、あまり時間もない。動力の問題なのか、故障なのか、原因を早く見つけて対処してくれ」

「はい、わかりました」

「それよりも、あっちの方はどうなんだ?」

 石舟がピラミッド群から少し離れた場所にある、小型のピラミッドの土台部分程度の台形型の構造物を指差した。

「あれも彌俐葩(ミリア)の制御下なのでもう少し待ってください。隣の方は別制御になっているので、すでに扉は開いております」

 隣と言っているのは、台形型の構造物の隣に建っている、平家のアパート程度の小型の建物だった。

表面には扉状のもの以外ない。

「そうか、陽炎ちょっと見にいこう」

 石舟と陽炎は、ピラミッドから少し離れて改めてピラミッドを遠目で見てから、クレバスの外とは打って変わって暖かいドーム状の空間を見回した。そして、小型の構造物を目指して少し早足で歩いて行った。

 扉状のものに触れると自動ドアのように横にスライドして扉が開いた。

 内部は壁が発光しており思っていたより明るかった。2人が中に入ると、奥に扉と、奥まった部分に手すりと階段があるように見える。

 手すりがあるところに行くと降りの階段になっていた。2人で降って行くと地下10階分ぐらい降りていったところが終点だった。

 階段室から出ると巨大な空間が広がっていた。目の前には巨大なプールがあり、冷たい水が満たされている。そしてその中央には長さ180メートルほどはありそうな巨大な古代の潜水艦が2隻係留(けいりゅう)されていた。

 その巨大な潜水艦は、南極の海中で待機している武尊(たける)が乗っている潜水艇では行かれない、深海に行くことができる唯一の潜水艦だった。

「陽炎、潜水艇で待機している技術者を呼べ。これをすぐに稼働できるようにするんだ。急げ!」

「はい」

 スマートウォッチタイプの通信機で陽炎が技術者に連絡を取り始める。

「これで先に進むことができるぞ。武尊様にもお伝えしなければ」

 沈着冷静で表情をあまり変えない石舟の表情が勝ち誇ったような笑みに変わったのを、陽炎は会話を続けながら無表情に見つめていた。陽炎は武尊に助けてもらった恩を返すために、彼についてきたが理由はそれだけではなかった。実際は武尊についてくることで、魔術によって人を殺すことができるからだった。陽炎は魔術で殺人をすることしか興味がない男だった。





現在

NTBSビル15階


 すでに気持ちを切り替えている冴島(さえじま)だったが、屋上の戦闘のことを話すことになるので、あまり尾上(おのうえ)のことには触れたくなかった。銃を使った普通の戦闘ではなかったからだ。

 冴島は、伊吹(いぶき)を部屋の中にいざなうと、控室のドアを閉めた。

(みなと)さん、こちらは石川アナウンサーです。私と神前(かんざき)さんの先輩です」

 この女性は病室のテレビでよく見ていた。見ていて安心できる安定感のあるアナウンサーという印象だった。朝から晩まで番組に出ずっぱりという感じで、それで仕事をさせすぎでやつれ気味なのではないかと心配になるようなアナウンサーだった。30歳を少し過ぎたぐらいだろうか。

「湊です。お世話になった知り合いに神前さんを助けるように頼まれて、ここに来たんです」

「そうなんですか」

「さっきも言いましたけど、湊さんは他にも用事があったらしいんですけど、尾上さんと屋上に行ってたんです」

「ええ、ヘリポートは損傷は軽微ですから、軍のヘリコプターは着陸できますね」

「尾上さんが亡くなったと先ほど...」

「はい、屋上近辺はゾンビが大量にいて、尾上さんを助けることができませんでした。でも尾上さんのお陰でヘリポートまでのドアは、全部開放できているので軍がヘリを寄越せば基地に行くことは可能かもしれないです」


・・・軍が機能していればな・・・


「湊さんは軍にいらっしゃったとか」

「はい、ヘリパイ...ヘリコプターのパイロットでした」

「それじゃあ、ヘリコプターがあればここから...」

「ヘリがあれば...ですね。あったとしても、私は軍の基地には行くつもりはないです」

 3人とも不思議そうな顔をした。

「もともと、このゾンビ騒動がなければ退役(たいえき)していたんです。実家に行って、退役する途中で騒動に巻き込まれた」

 実際は退役ではなく自殺だったが。

「それなのに私を助けに来てくれたんですか?」

 愛梨(あいり)が大きい目を見開いて自分を見つめている。

 その目を見ると一瞬言葉を失ってしまう。

「頼まれたのを思い出したから...とにかく行かなければって思って」

 愛梨だと、なんと言っていいかわからなくなる。

「でも、そのおかげで沢田さんも神前さんも助かったんだから、お礼を言わなくちゃ、ね?」

 石川美織(みおり)は3人の中で一番年上ということもあって、この場を上手くとりなそうとする。

「湊さんは私たちはここで軍の人が来るのを待った方がいいと思う思いますか?」

「いえ、軍は来ないでしょう。そんな余裕ないと思いますよ」

「どうしてですか? 報道とネットでは、ゾンビ騒動は日本では東京と大阪だけで起きてるって」

「先の大戦で人員や装備が補充できてないんです。戦争になったら真っ先に狙われるのは軍の施設ですから。市ヶ谷だってまだ完全ではないはずです」

「それじゃあ、軍は当てにならない?」

「戦後じゃなければ良かったのかもしれないですね。今は警察と消防に任せることになるでしょう。警察と消防の救助の優先順位がどうなっているかは俺にはわからないです」


・・・国防軍の救出の優先順位の最上位は要人だ。今の疲弊した国防軍が回せる人員で、一般人を救出していたら、彼女たちに順番が回ってくるのはいつになるか・・・


「そうなると、湊さんについて行くのが良いのかな...? 2人はどう思う?」

 石川が良い方に話をリードしてくれそうだった。

「湊さん、強いし、私の手を治してくれたから...湊さんについていった方が安心かなって...」

 石川美織は2人についていくというスタンスのようだった。沢田伊吹は雰囲気的に自分を頼りにしているのがわかっていたから問題はなかった。

「じゃあ、私も...」

 先輩2人がついていくという感じだから仕方なくという雰囲気だが、愛梨さえついて来てくれれば冴島はそれで良かった。


・・・気が変わらないうちに移動しよう・・・


 腕を前に掲げて通信機の表面をタッチする。

綿津見(わだつみ)さん、空間接続してください」

「わかりました」

 控室の壁が楕円形に色が抜けたようなグレーになると、その中心部分が(ゆが)み、中心に吸い込まれるように(うごめ)いた。そして、突然外周部分に広がるようにして壁に空間がポッカリと開いた状態になった。

 3人は目の前で何が起きているのかわからずに呆然(ぼうぜん)としていた。

「さあ、行きますよ」

 冴島は先頭に立って、その壁に開いた空間に入っていく。

「さあ、早く入って」

 中から3人を促す。

「あ、はい」

 伊吹が真っ先に中に入っていく。3人が中に入ると空間がゆっくり閉ざされて、控室の壁は何事もなかったかのように普通の壁に戻っていた。


 接続されたのは冴島が夜叉(やしゃ)と訓練した部屋だった。そこには加多弥(かたみ)綿津見(わだつみ)阿修羅(あしゅら)夜叉(やしゃ)琥珀(こはく)と全員が(そろ)っていた。

 綿津見は真っ先に愛梨達に翻訳機を手渡すと、耳への付け方と使用方法を日本語で説明し始めた。綿津見は翻訳機などなくとも、日本語を話すことができる。彼女達に手渡している翻訳機以上に精度の高い翻訳機能を搭載しているからだ。おそらく、辞書データも凄まじいのだろう。日本人より日本語を知っている可能性すらある。


 冴島はその様子を見ていると、夜叉が何か声を荒げているのに気がついた。どうやら、全員が両手(もろて)()げて歓迎というわけではないようだった。特に夜叉は冴島を指差しながら文句を言っているようだった。

「加多弥様、こいつだけでも私は反対なのに、なぜこんなに大人数を加多弥様の周囲に置くのですか。身の危険を考えてください」

「精霊達は大丈夫って言ってるよ」

琥珀(こはく)がこう言ってるんだから大丈夫でしょ。精霊は嘘をつかないわよ」

 加多弥は精霊魔術の使い手の琥珀の意見を聞いて、ため息をついている。

「地上の武器を持たない、魔術を使えない彼女達のどこに危険があるんだ?」

 阿修羅(あしゅら)も夜叉の不満が理解できないという顔をして意見を言った。

「申し訳ない。2人と言っていたのが3人になった」

 冴島はあまり申し訳ないと思っていなかったが、言葉だけでも申し訳ないといっておこうと思い、口だけで謝罪しておいた。

「人数は関係ない。貴様だけでも面倒なのに...」

「夜叉! 黙りなさい!」

 加多弥が一喝した。

「湊さん、ごめんなさいね。なんだか夜叉の機嫌が悪くて」

 冴島は愛梨達を横目で見る。綿津見と笑顔で翻訳機について会話を交わしていた。

 翻訳機をまだ着けておらず、会話に集中していることから、こちら側の不穏(ふおん)な空気には気づいていないようだった。

「いえ、良いんです。私が無理を言っているんですから。護衛する彼からしたら不審者が増えるのが我慢ならないのは理解できますから」

「だいたい、加多弥様のそばにはいつも綿津見がいて、琥珀が契約している精霊が周囲を監視している。敵意のあるものが近づいたら精霊が攻撃するだろう。何が心配なんだ?」

「阿修羅殿、危険と思われるものは最初から排除するのが護衛の仕事です!」

「そうかもしれないが、そもそも、この中に加多弥様と戦って勝てる者がいるのか? お前は愚か、私でも加多弥様には傷すら負わせることはできないぞ。湊大地だってそうだ。無意味な問答はやめろ。そんなに加多弥様が心配なら部屋の前で寝ずの番でもすることだな」

「阿修羅と琥珀が言ってるように、どう見てもこちらの3人が危険とは思えません。私の決定です。良いですね?」

 さすがに(あるじ)にそのように言われては反論することはできず、夜叉は反論するのを諦めたようだった。だがまだ不満そうな顔をしている。

「ですが、さえじ...あ、湊大地(みなとだいち)は外を探し回らなければならないわけで...この女達はここで何をして過ごすのか...」

「何を言ってるの? 綿津見が彼女達が飽きないように何か考えてくれるわよ。あなたが気にするようなことではないわ」


 愛梨達が翻訳機を耳に取り付けてこちらの方に近づいてきた。

 加多弥は夜叉を睨みつけ、この話はこれで終わりという表情をした。そして冴島と愛梨達3人に向かって微笑むと、

「みなさん、よくいらっしゃいました。歓迎いたします。ちょっと過剰に反応しているものがいますが、気にしないでくださいね」

 冴島は、加多弥が3人に挨拶している隙に綿津見に目配せをすると、手招(てまね)きして彼女の耳元で(ささや)いた。

「この3人がいるところでは冴島とか冴島陣(さえじまじん)という名前が出てきたら湊大地に翻訳するというようにできないですか? 今、夜叉が冴島って言いそうになったので」

 綿津見は表情を変えずに小声で応えた。

「もう、そのように設定してありますから、心配しないでください」

 冴島は有能な秘書を見るような驚きの視線を綿津見に向けた。綿津見は一瞬の間を取り、何か言いたそうな顔をした。だが、何も言わずに微笑んだ。


・・・ん? なにか言いたそうな感じだったが、気のせいか?・・・


 綿津見は武尊(たける)の行き先の予測について、冴島に相談してみたい衝動に()られたが、先に加多弥に話すのが筋ではないかと考えて言葉に出すことをやめた。

 綿津見の電子頭脳の中では、このシミュレーションは何億万回もやっているのに、答えは一向に出ていなかった。

【後書き】

今回は南極の続きと、NTBSビルの続きです。

南極は遺跡が稼働しなくて先に進めずにスケジュールが押してる感じですね。まだ余裕があるのでイライラしてる感じではないみたいです(笑)

NTBSビルの方はゾンビ化の術を解除させてもらえないから、しかたなく加多弥のいるところに娘達を連れて行かざるを得なくなったという展開です。

とはいえ、術を解除できたとしても死体がゴロゴロ転がってるし、死体が腐って病気が蔓延しそうだから加多弥のところに避難するのが一番なのかなとは思いますねー。

一番良いのは術を解除して炎で焼き払うのが一番なんでしょうね。そういえば、ゾンビ映画ではゾンビの腐敗による病気の蔓延みたいなのって見たことないんですよね。話がややこしくなるからなんですかねー。


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