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神代の魔法使い  作者: 伊月雅臣
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精霊魔術師

 加多弥(かたみ)愛梨(あいり)たち3人に簡単に挨拶(あいさつ)をしてから、自分の護衛達を紹介した。その場で自分達が何者であるか説明するところだったが、冴島(さえじま)となにも打ち合わせができていないこともあり、3人には部屋で休んでもらうことにした。

 綿津見(わだつみ)はそれぞれに用意した部屋に3人を連れていくと各部屋でボディスキャナーを使用して彼女達のボディーデータを取得した。そのデータを基にして滞在用の服を作成している間に、部屋に設置してあるかまぼこ型をしたドーム状のタンク内で休憩しながらリフレッシュしてもらうことにした。そのタンク内では身体の表面状の洗浄および老廃物除去と機械的な魔術制御による細胞活性化システムによるメンテナンス処理が行われ、肉体の万全な体調管理が行われる。

 綿津見は3人が長時間の緊張と精神的な疲労により、タンク内で熟睡しているのを加多弥の部屋から確認すると、タンクの稼働モードを数時間の睡眠モードに切り替えた。そして彼女達が起きてきた時のために食堂に無線で指示を出した。タンク内の彼女達の睡眠深度をモニターし、目が覚める時間に合わせて食事が完成するようにするためである。


 一方、加多弥は冴島と今後について話をしたいようだったが、戦闘続きで疲れていたこともあり、明日の朝早くに打ち合わせをすることにして冴島は早々に自室に戻ることにした。とはいえ、今日中に確認しておきたいこともあったので、シャワーを浴びて着替えを終えると、加多弥に気づかれないように静かに自室を後にした。

 冴島は今日の戦闘による魔術と魔法の知見(ちけん)を基にして、今日中に龍脈孔(チャクラ)法力(ほうりき)の流れの確認をしたいと思っていたのだった。

 それを行うのに、特訓の時に使った真っ暗な部屋に籠ろうと冴島は思っていた。この部屋は光が全くなく音もせず音の反響もしない、完全な漆黒(しっこく)だった。人間はこのような場所にいると気が狂うと言われているが、短時間であれば感覚が鋭敏になり身体の中を流れる体液などの動きや電気的な信号の流れすらわかると言われている。冴島は以前、この漆黒の中で機械的に無理やり活性化させられた龍脈孔と生成される法力、そして宿禰(すくね)の魔法によって変化していく湊大地(みなとだいち)の身体の変化と格闘した経験があった。

 今であればなかなか開かない胸の中心の龍脈孔の状態の確認と、戦闘用の魔法が思うように使えない原因が、ここに(こも)ることでわかるのではないかと考えたのだ。


 考え事をしながら漆黒の間に向かう通路を歩いていると、途中の壁に精霊魔術師の琥珀(こはく)がもたれかかってこちらを見ているのに気がついた。

 琥珀は冴島に手を振っていた。

 琥珀は不思議な少女だった。綿津見(わだつみ)は冴島のサポートをするために積極的に声をかけてきたが、琥珀は冴島に興味がある様なそぶりで声をかけてきた。同じ護衛の阿修羅(あしゅら)夜叉(やしゃ)のように無言の2人とは対照的だった。


 琥珀(こはく)と何度か会話をすると、見た目と内面が異なっていることに冴島はすぐに気がついた。 

 外見自体も、当初は白人だと思ったが、白人と日本人のミックスのような見た目と、琥珀という名に(たが)わない黄色みを帯びた茶色の瞳、そして先端が外側に(とが)っている長い耳とウェーブのかかった赤毛が特徴的な風貌(ふうぼう)の少女だった。

 冴島の感覚では中学1、2年生ぐらいにしか見えない。

 だが、会話をすると人生経験を積んでいるようにしか思えないことを言うのである。


(じん)、ちょっといい?」

 ここで冴島のことをファーストネームで呼ぶのは琥珀だけだった。加多弥(かたみ)がいるところでは丁寧(ていねい)な言葉を使うが、加多弥がいないとこのような言葉遣いになる。冴島も琥珀に合わせるようにしていた。

「ああ、どうしたんだ?」

「夜叉のことなんだけど、許してあげてくれる?」

「許すもなにも、あんなの気にしてない。あいつの立場からしたら不満に思っても不思議じゃないからな」

「そう...良かった。陣は大丈夫だと思うんだけど、夜叉はしばらくは引きずりそうだから」

「俺は平気だ。軍でも外人部隊でもいろんな奴と関わってきたからな」

「あのね、精霊達が3人が心配って言ってるの。私から見ても夜叉はいつもと違う感じなんだよね」

「3人に注意を払えと言う意味か...」

「うん、夜叉がかなりナーバスになってるみたい」

「夜叉は愛梨のことは知ってるのか?」

「3人の中に陣の娘がいるっていうのは知ってるよ。アカの他人だったらもっと騒いでるよ」

「それもそうだな。ということは、誰が娘かということまでは知らないということだな」

「うん、夜叉だけ知らない。ガキだからね」

「知らない方が良いという配慮なんだな」

「そうだね。綿津見も夜叉の身体データから興奮状態が収まらないから教えない方が良いって助言してたよ。精霊も心配してたしね」

「武器も持っていない、戦う力もない女性になんでそんなに神経質になってるんだ?」

「ここにいるみんな、阿修羅も夜叉も私も...綿津見も、みんな加多弥のところしかいるところがないんだよね。だから、ここを守りたいんだよ」

 国の王女を呼び捨てにする護衛など見たことがない冴島は、かなり驚いたが、2人の関係性がそうさせているのだろうと思った。

「私から詳しいことは言えないから、みんなから聞いてみるといいよ。阿修羅のことは有名だから聞けば本人が教えてくれると思うし」

「綿津見さんも? 人間じゃないのに?」

「そうだよ。綿津見は人造人間...自動人形ともいうけど、それの最新型のテストボディだったんだけど、正式型に採用されなくて破棄されることになったんだよね。最新型はさらに性能が高くなったのと、ある機能を新たに搭載(とうさい)することになったからっていうのが理由。綿津見を破棄することを知った加多弥が前国王の弾正(だんじょう)様に頼み込んで引き取った」

「なるほど...その辺の経緯は知っているわけだ」

「加多弥が子供の頃から王城に精霊魔術師として出入りしてたからね」

「子供の頃から?」

 琥珀はニコッと微笑んで(きびす)を返すと、

「話は終わり。じゃあ、おやすみ」

 と言って、自室の方に歩いて行った。

 だが、数メートル歩くと、琥珀は振り返った。

「加多弥たちヒト人種の女性の寿命は250歳、私のような長命種(エルフ)は男女とも500歳。私は82歳だから若い個体に入るけど、加多弥からしたらかなり年上だよ。加多弥も陣の常識からしたら見た目以上の年齢かもね」

「おい、見た目中学生なのに、俺より年上なのかよ......」

 琥珀に聞こえないぐらいの小さい声でつぶやいた。

 呆然(ぼうぜん)としている冴島に言い忘れたというように琥珀が重ねていった。

「陣、言い忘れてたんだけど。私のこと、絶対に精霊使いって言っちゃダメだからね」

「精霊魔術師だろ?」

「魔法使いと魔法師、法術師みたいに、精霊魔術師と精霊使いっていう言葉があるんだけど、私は精霊魔術師だからね」

「わかったよ。絶対言わない。一応、理由を聞いていいか?」

「精霊使いは精霊を道具みたいに扱ってるみたいだからだよ。精霊は友達だからね、道具じゃない」

 自分は音の響きや感覚で、魔法使いという言葉に良い印象があるだけだが、琥珀は精霊に対する敬意から精霊使いという言葉を嫌っていることがわかった。

「そうか。今度、時間があるときに精霊と精霊魔術について教えてくれないか?」

「うん、わかった。でも、陣は精霊と対話できないし力を借りたりできないよ。もちろん契約なんて絶対できない」

「ああ、琥珀の友達に興味がある。教えてほしい」

 琥珀は嬉しそうに微笑んだ。

「陣は優しいね...そういえば、気づいてないと思うけど、愛梨に精霊たちがまとわりついてるよ」

「愛梨に?」

「うん、愛梨はもしかしたら精霊の声ぐらい聞こえてるかもしれない」

「精霊魔術師以外には何か悪い影響とかあるのか?」

「それはないよ。まあ、普通はヒト人種に精霊が(なつ)くことってないんだよね。稀にヒト人種にも精霊と契約できる人がいるらしいけど、私は今まで見たことはないかな」

「そんなに珍しいのか?」

「私たち長命種(エルフ)は、ヒト人種の中で精霊と対話できる者の遺伝子を操作して造られたんだよ。だからヒト人種が精霊と対話できること自体不思議じゃないかな」


 遺伝子を操作して生物を作るというのは、今の時代でも禁忌(きんき)とされている。それを動物ではなく人間にまで行っていたという事実を、さも当たり前のように話している琥珀に、冴島は驚きを禁じ得なかった。

「造られた?」

「うん、今は禁止されてるけど、すごい昔にね。他にもヒト人種の遺伝子を使った生物がたくさん造られてる」

「科学が発達すると、時代は違ってもやることは変わらないということだな」

「まだ地上と地下に分かれる前の話だよ。すごい昔の話。自分のことだけど、あんまり昔のことすぎて、なんとも思わないかな...」

「そうか、それならいいが...ところで、話は戻るが、愛梨に精霊がまとわりついているのは心配しなくていいんだな?」

「うん、心配はしなくて大丈夫だよ。今度、まとわりついてる精霊たちとお話ししてみるよ」

「ああ、頼むよ」

 琥珀は少し考えるように間をとって、斜め横を見てから冴島の方に視線を向けた。

「気まぐれだけど、力強い風の精霊だから契約しなくても、仲良くなれれば愛梨を守ってくれるはずだからね」

 冴島を安心させるように微笑みながら言うと、今度は振り返らずに通路をまっすぐ歩いて自室のドアの中に消えていった。


 冴島は琥珀が自室に入った後もしばらく彼女が消えたあたりを見続けていた。

 そして夜叉に対してどのような対策を取ろうか考えながら、漆黒の間に入っていった。






仁徳(にんとく)天皇陵(てんのうりょう) 地下世界との出入り口周辺

愛梨達が保護された日の22時頃


 地下世界との出入り口を、3人の男達が遠巻きにして夜の闇に隠れて監視していた。

 太い木に寄りかかっている若い魔術師の男は、何の変化もない日々に飽きが来ていた。6人で24時間体制の警戒中、数日後に葛城加多弥(かつらぎかたみ)が護衛を引き連れて現れたが、この5名は命令通りに何もせずに通過させていた。それ以降はネズミや鳥などの小動物ぐらいしか目にしていない。もう追手は来ないのではないか、若い魔術師はそう思い始めていた。少し離れたところに、リーダーの村雨(むらさめ)が自分と同じように木にもたれかかっている。

「村雨様、もう誰も来ないのではないでしょうか」

「ああ、だとしても惨跛(ざんび)の術の期限まではここを守らなくてはならない」

「でも、ここを守る必要はあるのでしょうか」

「あるさ。武尊(たける)様を国王にするためだ。それに、なんといっても、父上が立てた作戦だからな」

 若い魔術師は少し年上の村雨という魔術師に対して、不満そうな表情を変えようとしない。

叢雲(むらくも)様のことは尊敬しております。ですが、一般の魔術師も、王族ほどではなくても盟約(めいやく)に縛られております。しかも、地上に出てくる鍵を持っていません。もう24時間体制で警戒しなくても...」

「お前の言い分もわからないではない。だが、我慢しろ。何のためにここまで来たんだ」

 そのように言われると返す言葉がなかった。別の話題に変えるしかない。

「加多弥様は王族であるが(ゆえ)に、(いにしえ)盟約(めいやく)に強く縛られています。どうして地上にいらっしゃったのでしょうか」

 一瞬迷った顔をした村雨(むらさめ)だったが、不満を少し解消してやろうと内緒の話をすることにした。

「父上は俺にだけ話してくれているが、どうやら加多弥様は皇帝陛下から別の任務を与えられているらしい」

「皇帝陛下から直々にですか?」

「ああ、どうやら地上の皇帝陛下の護衛をするためらしいぞ」

「地上の皇帝ですか? 地上にも皇帝がいるのですか?」

「お前、魔術の勉強だけじゃなくて、少しぐらい歴史の勉強もしておけ」

「は、はい...善処(ぜんしょ)いたします」

「幼年学校で習っただろ。地下と地上が別れた時に、地上には当時の皇帝陛下の兄君が残られたと。加多弥様が盟約を破ってまで地上に来たのは、その御子孫を守護することが目的らしいぞ」


 休憩中の魔術師が村雨に音を立てずに近づくと小声で報告した。

乙拠点(おつきょてん *1)、定時報告ありません。こちらから何度も通信を送りましたが反応ありませんでした」

「わかった。休憩に戻れ」

 報告に来た魔術師は同じ経路を使って、音もなく戻っていった。

「やられたようだな」

「しかし、唯一の出口は私たちが見張っています。加多弥様が?」

「いや、加多弥様が惨跛(ざんび)の術を解除する理由がない。地上の軍隊だろう」

「地上の軍隊が、惨跛の術の存在を知っているとは思えません」

「だが、地上の魔術師は(はる)か昔に絶えていると聞いている。予備の探査機はないから、確認することもできないな」

「乙拠点の惨跛の術は必要だったのですか?」

「さあな、父上の案らしいが俺は知らない」

「地上に魔術の知識がないのであれば、惨跛の術を解除するために軍隊が動くとは思えません。では誰が乙拠点を攻撃をしたのでしょうか?」

「さあな、俺にはわからない」

「加多弥様が地上の皇帝陛下をお守りするために惨跛の術を解除したとは考えられませんか?」

「それはあり得るな。加多弥様自らではなく、阿修羅(あしゅら)殿と精霊使いが乙拠点を攻撃したというのが真相というところかもしれないな」

「阿修羅殿というと...一級化外剣闘士(けがいけんとうし)の?」

「そうだ、黒き獣と恐れられている一級化外剣闘士だ」

「阿修羅殿でしたら武闘会で兄弟子に紹介していただいたことがあります。優しく思いやりのある方でしたが、いざ武闘会が始まると、殺意の気配凄まじく、黒衣に黒き肌があいまって離れて見ているのに自分が殺されるような錯覚に陥るほどでした」

「あの方は、弾正(だんじょう)様からの護衛になる要請を断ったらしいからな」

「国王からの? 特級になる絶好の機会ではないですか」

「特級になれば家門を継ぐことができるが、人間を捨てることになる。それを嫌ったらしい。それで加多弥様を頼って、加多弥様の護衛になったと聞いたぞ」

「人間を捨てるというのは、どういうことですか?」

「お前は、何も知らないのだな。魔術師と化外剣闘士は切っても切れない関係なのだぞ。この任務が終わったらお前の師匠に魔術以外の勉強をさせるように言っておくからな。覚えておけ」

「はい、申し訳ありません...」

「良いか、特級の化外剣闘士(けがいけんとうし)は遺伝子の次元から身体を強化するんだ。骨格、筋肉、腱といった身体を動かす部分だけでなく、身体を高速で動かすことにより、体液不足に陥った状態の身体異常に耐えられる臓器、例えば脳であったり心臓であったり。そういったものを強化することを強制されるわけだ。しかも高速で身体を動かすための司令塔である脳を強化するだけでなく、加速装置と補助脳を搭載する必要もある。有機体ではあるが、機械を取り付けられ戦うために存在する戦闘生物に生まれ変わるわけだ。戦闘狂でなければ特級なんかになりたがらないだろうな」

「戦闘狂といえば、霊牟璃堊(レイムリア)の遺跡に向かった陽炎(かげろう)様も...」

「ああ、陽炎殿も戦闘狂だな...禁止されている刺青(いれずみ)を身体中に入れるような人だからな。無詠唱(むえいしょう)で多数の魔術を発動させるためとはいえ滅茶苦茶(めちゃくちゃ)だよ、あの人は」

「そのために魔力に反応して浮き上がる染料を無許可で作らせたと噂で聞きました」

「そうらしいな。誰もやらないだろうが、刺青を使った魔術文を身体に刻むのは陽炎殿がやったことで禁じられたし、染料を作った者も罰せられて牢屋送りだからな」

「あの...噂ですが、陽炎殿は殺人......」

「言うな! あの人は、今は武尊(たける)様を支える(ほこ)のお一人だ。噂程度の話で(さげす)むような発言はするな」

「はい、申し訳ありません」

 だが、村雨は噂だけでなく、父親の叢雲(むらくも)から陽炎(かげろう)のことを聞かされていた。

 あの男は、魔術で人を殺すことを楽しんでいる殺人狂だということを。

【後書き】

更新間隔が空いてしまったので長めになります。

今回は冴島と精霊魔術師琥珀との会話が中心です。それと、仁徳天皇陵のゾンビの術を守っている魔術師たちの会話から化外剣闘士の阿修羅が加多弥のところにいる理由が語られます。

戦闘はもう少々お待ちくださいませ。


*1《乙拠点》

NTBSビルの屋上のヘリポートでゾンビの術を守っている3人がいる拠点のことです。


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