表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
36/63

千客万来


「おいこらシドニー! ごちそうを持って来てやったのだ。出迎えに出てこんか」


 頬白家の玄関先に着くなり、リザリィは玄関のチャイムをズガガガと連打しながらそう叫んだ。

 滅茶苦茶、面倒な女の子だった。


(確かに面倒だって言ってたなぁ……あれは、こういう事だったのか……)


 縫香さんは何度も何度も面倒な子だと言っていたが、人として、悪魔として、とても面倒という事だった。


「シドニーって、誰?」


 頬白に尋ねると、作り笑いをしながら玄関の扉から出てきたアレを指さした。


「どうして家まで来ちゃうのかなぁ、この子は……」


 玄関の扉を開けて顔を出したのは縫香さんだった。


「もしかして、みんな、魔法の世界と人間界では名前が違うの?」


「うちの家はちょっと特殊だから、かな」


 特殊と言われても、今更、何が特殊なのかなんて想像もつかない。

 既にその存在自体が特殊だというのに、これ以上まだ何かあるのだろうか。


「あのな、私はこっちでは縫香って名前なんだ。そう呼ぶまでは家の中には入れない。さ、みんなは中に入って」


 そう言いながら縫香さんが玄関の扉を大きく開けて、皆を迎え入れてくれた。

 頬白に続いて家の中に入ろうとした時、目の前に背の高い黒服の男が割り込んできた。


「おっと失礼」


 その高そうなダークスーツには見覚えがあった。記憶よりも先に身体が反応し、背筋に寒気を感じる。

 動物的な恐怖感に全身が硬直していた。その俺の眼前を、ポケットに両手を突っ込んだ長身の男が歩いて行く。

 しかし前回と大きく違う点があった。今、俺が身動きできないのは、経験から得た恐怖であって、魔法によるものではない。以前の様な、心臓が凍てつく恐ろしい感覚は無かった。


「おいおい、ご主人様より召し使いの方が先に入って来てるけど、いいのか?」


 縫香さんがそう言うと、リザリィが両手をあげて、ぷんすかしながら叫んだ。


「コイルゥ! どーして先に入るのよ! 早く私をエスコートしなさいよ!」


「私はお兄様の命でこちらに来ているだけで、お嬢様の面倒までは申し使ってはいませんよ」


 振り返りもせず、ずかずかと家の中に上がろうとしたコイルが、縫香さんの目の前で突然歩みを止めた。


「図々しいにも程があるんじゃなくて? 私はあなたをこの家に入れてもいいなんて、言った覚えは無いわよ」


 縫香さんの後ろから、脇の下を通って襟亜さんの腕が伸びていた。

 その手には、あの銀でできた白い刃の剣が握られている。


「そいつじゃ私は斬れないよ、わかってるだろ? クロービス」


「あら、気づかなかったのかしら? この前は『食べさせなかった』だけよ」


「おっ!?」


 日本刀のような形をしたその剣は、束の部分の装飾に蔦が絡まっている様な、洋風の剣の装飾が施されていた。

 襟亜さんが切っ先を翻した時、その束の部分から刃先へと銀の蔦が絡まりながら伸びていき、刀身に銀でできた蛇が絡まりついていた。

 その銀の彫刻の蛇の一匹一匹が生きていて、鋭い牙をもった口を開けていた。

 もはやそれは剣には見えなかった。


 俺の位置からではコイルの背中しか見えないが、彼は両手を軽く挙げて降参を現すポーズをしていた。

 それを見た襟亜さんは、縫香さんの脇越しに突き出していた剣を引き戻して言う。


「こちらでは頬白襟亜という名前なの、中に入りたいなら、こちらの名前で呼んでくださいね」


「はぁ……斬られるのは好きだが、喰われるのは面白くない。言う事を聞きますよ、襟亜さん」


「ちゃんと眼鏡もしておいてね。あなたの邪眼で死人が出ないように」


「ま、それはこちらに来た時から心得てるんで、ぬかりありませんよ。彼はこの前、あやうく私と眼を合わせようとしたので、止めましたがね」


 と言ってその男は俺の方を振り返って、にっこりと笑った。

 初めて見たその顔は、サングラスをかけた二枚目の優男だった。

 不自然に右目を閉じていて、まるでウインクをしている様だったが、襟亜さんの言葉から察するに、その右目が邪眼なのだろう。


「ちょっともー、おねーちゃん達! お客様が来てるんだから物騒な事しないでよ!」


 縫香さんと襟亜さんの後ろに硯ちゃんの姿があり、腕を組んで怒っていた。


「とりあえず、意識を飛ばしたから、そこの二人を運んで」


 そう硯ちゃんが言うので、何の事かと思って後ろを振り返ると、町田と来島さんが地面の上に倒れていた。

 今の襟亜さんとコイルの一件を見せない為に、気絶させたのだろう。


「あ、硯ちゃん、記憶の操作の事なんだけどー……」


 縫香さんの隣を通り家に上がった頬白が、硯ちゃんに向かって両手をあわせてお願いしていた。


「うん、どうにかしないといけないね……どうしよっか……」


「さぁ、ダーリン、一緒に中に入りましょうか」


 最後までその場に残っていたリザリィが、コイルに先を越された俺の腕を握ってきた。


「お兄ちゃん! その二人を運んできて!」


「お、おう」


 言われて返事をしたは良いが、お世辞にも俺は力持ちじゃない。

 倒れている町田の方に行き、肩を貸す形で持ち上げてみるが、ものすごく重くて持ち上がらない。人一人がこんなに重いとは思わなかった。


「ご、ごめんリザリィ、その手を離してくれる?」


「はいはい。人間の力なんてそんなものよねー」


 そう言ったリザリィは、腰に両手を当てたまま、フワフワと二人の人間の身体を宙に浮かせて運び始めた。


「すごい! そんな事できるんだ?」


「もっちろんよー私を誰だと思ってるのー? 常闇の令嬢、リザリィ様よー?」


(ああ、この子、面倒だけどお世辞で持ち上げるのは割と楽そうだ……)


「さすがだなぁ、俺、ただの人間だから……」


「なになに、ちょっとは見直した?」


「うん、かなり」


「そ、そう!? 私ちょっとマジで頑張る」


 おだてにのせられて意識の無い二人と持ってきたオードブルを運ぶリザリィを見て、縫香さんも襟亜さんも苦笑していた。

 この二人の言う通り、とても面倒くさい性格だけども、悪魔の割には素直な女の子らしかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ