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大お弁当大会



「ホルモンだな……」


(ありがとう町田。オマエが幼なじみで本当に良かった。本当にありがとう町田)


 モルモットの肉を食べる所もあるだろうが、日本にはそんな習慣は無い。しかし相手は魔女四姉妹。そういうコアな選択があるかもしれなかった。

 もし町田が居なければ、俺はそれをモルモットだと信じて食べる事になっていただろう。

 そのドキドキ感はちょっと想像したくなかった。

 ホルモンなら焼き肉店で何度か食べたこともあるし、料理自体に全く問題は無かったが……。


「焼き肉、焼き鳥、とんかつ、ホルモン……」


「すごい! なにこれ!? 彼女が作ったの!? もしかして実家、焼き肉屋さん!?」


「あはは、いえ、お姉ちゃんが料理に詳しくて」


「ちょ、ちょっとわけてもらってもいい? こっちの弁当と交換で」


「ひ、ひろくん、どうする?」


「俺はいいよ……っていうか、すごいギャラリー!」


 これだけの良い匂いが辺りに広がれば、興味をひくのも仕方無いだろう。

 しかも見た目はプロが作った様な出来映えで、品数も多かった。


「そ、それじゃ、適当につまんでいきますー」


 各自、弁当箱を持参した者達は、それなりに気を遣いつつ、自分達のおかずと、頬白の作った肉料理とを交換して去っていく。

 その結果として、まるでおせち料理のような豪華な物になってしまっていた。


「なんだか随分と、豪華になっちゃったね」


 頬白がにこにこしながらそう言った。


「うん、みんなで食べようよ。すごいご馳走だよ」


「俺……こんなにすごい料理を食べるのって、かなり久しぶりかもしれない」


 あまり裕福ではない町田が、思わず本音を漏らしていた。


 まずはせっかく作ってもらった物から、と思い、肉料理から箸を付けた。

 どの料理もとても上手にできていて、本当に美味しかった。


「これだけ上手なら、調理師にもなれそうだ」


「あは、お世辞でも嬉しい」


「俺もそう思う。こんなに料理ができるなんてすごいよ。同い年とは思えない」


「喜んで貰えて良かった。また今度、頑張って作ってくるね」


 心から嬉しそうにそう言う頬白の顔を見て、俺と町田はお互いに顔を見合わせた。


(次も……このサイズなんだろうか?)


(弓塚……止めた方がいいんじゃないのか?)


 それは魔法など使わなくても、長年の友人同士ができる以心伝心というやつだった。


「うん、楽しみにしてるよ」


(いいのか弓塚?)


(無理だ、俺にはいい言葉が思いつかないよ)


「あ、頬白、次はお弁当箱サイズでお願いするよ」


「あ、うん、ちょっと作り過ぎちゃったね、あはは」


(ありがとう町田、俺には上手に言えなかった)


(もう一度これが来たら、俺は食べきれる自信が無かった)


 言われてみて、町田が小食な方だという事を思いだした。

 俺はこのぐらいの量なら大丈夫だが、いつもパン二つ程度しか食べない町田にとって、この豪勢な弁当は三日分ぐらいの量があったかもしれない。


 その証拠に、あの町田が五時限目に居眠りするという、授業始まって以来の出来事が起こってしまった。

 先生も周りの生徒達も、あの町田が居眠りをするなんて、よほど疲れていたんだろう、と逆に気を遣ってしまうという微妙な空気が教室を満たしてしまっていた。


(町田、お前は良くやった。今は眠ってくれ)


 何もできなかった俺は、せめて町田が怒られそうになったら、適当な理由をつけて自分の責任にするつもりだった。

 しかし別段その様な事もなく、無事にその日は授業を終える事となった。


「はぁ……なんだかみんなには気を遣わせてしまって、申し訳ない」


 授業が終わる頃には、胃の中の食べ物も無事消化できた様で、町田の顔色もよくなっていた。


「お弁当が空になったから、荷物がとても軽くなったよ」


「重かったんだな、言ってくれれば良かったのに」


「今回は量も含めて色々失敗したから、次は上手くやるね」


「何か失敗した? 気づかなかったけど」


「……ホルモンはお弁当には合わなかった……皆、ホルモンだけは交換していかなかった」


「ああ……まぁ……そうだね……」


 頬白の言う通り、誰か一人だけホルモンに興味を示して交換していったが、その他の生徒達は誰もホルモンの箱には手を付けなかった。

 味に問題はなかったし、単に見た目で避けただけ、だとは思う。


 さて帰ろうか、と三人揃って教室を出て校門まで来た時、見知った顔が居た。


「あっ、来島さん、どうしたの?」


「かしこ、来るならメールしてくれれば良かったのに」


「あー……ちょっとね……友達がね……」


 来島さんにしては珍しく、困りはてた表情をしていたので、何事かと思ったら……。


「弁当を買ってきたの! 皆で食べよ!」


「リザリィ?」


 校門の影に隠れていたリザリィが、何やら大皿の袋を抱えて飛び出して来た。


「いやあ、まさか……本当に悪魔が居るなんて……」


 来島さんはどうしていいやら、という感じで、顔をしかめていた。


「どうしてリザリィが小塚丘学園の制服を着てるんだ?」


「頬白と弓塚が通っている所と間違えて、転入してしまった」


「どうしてそんな間違いを……」


「コイルだ! あいつがこの学園だと言ったのよ。もーあいつ全然駄目! ダメダメだ!」


 コイルというのは、あの怖い男性の名前だった筈だが……。


「しかもこの女、私の事を見抜いたのだ、ただ者ではないぞ」


 来島かしこは頬白の魔法によって作られた、縫香さんの人間バージョンだった。

 色んな意味で魔法がかった存在であり、一般人とは違っていたが、悪魔を見抜くとは思わなかった。


「私、ちょっとこの子は苦手で……強引な女の子ってダメなのよね……」


「別に危害を加えた訳ではないぞ、頬白と弓塚の通う学園に案内してくれと頼んだだけだ」


「それまでにも色々あったでしょ……料理の作り方を教えろとか、美味しい弁当はどこで売っているかとか……私、今日一日のスケジュールが全部ダメになったのよ」


「それぐらい許してよ、礼はするし。それよりもお弁当でしょ。この街で一番美味しい料理店に作らせた、超美味しい弁当なのよ?」


 リザリィはやってやったぞ! と言わんばかりに、ドヤ顔で弁当の包みを広げた。

 そこにはプロの料理人が作ったらしい、豪勢なオードブルが入っていた。


「いや……ちょっと今日は……無理かな……」


「お弁当は、お昼に食べるものだしね……」


「今から食べたら、夕食になっちゃうね」


「なぁんでよ! どーゆーことなの? おいかしこ、私に分かる様に説明して!」


「どうして私が悪魔の下僕の様な事を……ああ……なんで、こんな事になっちゃったんだろう……」


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