第46話 新たな敵を求めて
「はぁ、はぁ……みんな、後ろは任せたから……後は僕を信じてほしい」
「リオン……。大丈夫だ。死んでも守ってやる」
「後ろを越えられなきゃ、俺たちの勝ちだ」
僕はヴィリムくん、そしてポランくんと視線を交わし笑みを浮かべた。
ゴブリンとの激闘から二年半。僕たちは仲間としての篤い信頼関係を築いてきた。
今ではまさに背中を預けるに相応しい仲間だと、僕は胸を張って言える。
そんな僕たちは今、絶体絶命の危機の渦中にあった。
それは目の前の人物。いや、人かどうかもわからない生物が僕たちの前に立ちはだかったことから始まった。
僕はボロボロになった指先を見つめ、そして最後の悪あがきとして石を握り込んだ。
球状に近い握りやすいその石に、僕は全てを託すしかなかった。
どうしてこうなってしまったのか。
僕は苦い記憶を辿る旅に出た。
◆
エクルットさんが示した期限がもう半年後にまで来ている。
だというのに、僕は自分の人生の岐路を未だに選べずにいた。
どういうわけか、僕はひとつ年上の子たちのリーダーになってしまった。こんな僕がだ。
流れ的にも断れないままズルズルとリーダーに居座り続ける僕。
その優柔不断さが、自分でも嫌になる。
それでも僕はリーダーとして彼らの先頭に立ってきた。
今ではすっかりぬるくなってしまった山狩りでも、あらゆるハンデや戦況の想定を
設けて訓練を積んできた。
そして僕たちは今ではエクルットさん一人を相手に全員で戦闘を行えるまでに成長することができていた。
「お前らも連携が良くなってきたな。だけどまだまだ練度が足りないな」
僕ら八人を纏めて相手にしても全く息を切らさないエクルットさんは、改めて化け物だと思い知る。
全員肉体強化に加え魔術も組み込みながら戦っているにも関わらずだ。
なんならエクルットさんは僕たちに肉体強化すらまだ見せていない。
リーチの差は覆しようがないとはいえ、単純な腕力なら肉体強化した僕たちの方が断然上だというのにだ。
僕たちの攻撃は全て巧みに流される。まるで風や柳を相手にしているような感覚だった。
「流石エクルットさん、です」
息を切らしながらもヴィリムくんはエクルットさんにキラキラとした目を送っていた。
最近では盾を持った訓練もしているというのだから、その憧れは本物なのだろう。
「隙が無さすぎる……全く見えない」
放心しているポランくんの戦闘勘は以前に比べてもその鋭さを向上させている。
自信があるのだろう。それにも関わらず一撃も入れられない現実を前にうわの空のまま仰向けに倒れ込んでいる。
「最後までまともに立っているのは……リオンだけか」
「ぜぇ……ぜぇ……」
そして僕は皆が倒れる中、最後までエクルットさんからのヘイトを「はぁ、はぁ……みんな、後ろは任せたから……後は僕を信じてほしい」
「リオン……。大丈夫だ。死んでも守ってやる」
「後ろを越えられなきゃ、俺たちの勝ちだ」
僕はヴィリムくん、そしてポランくんと視線を交わし笑みを浮かべた。
ゴブリンとの激闘から二年半。僕たちは仲間としての篤い信頼関係を築いてきた。
今ではまさに背中を預けるに相応しい仲間だと、僕は胸を張って言える。
そんな僕たちは今、絶体絶命の危機の渦中にあった。
それは目の前の人物。いや、人かどうかもわからない生物が僕たちの前に立ちはだかったことから始まった。
僕はボロボロになった指先を見つめ、そして最後の悪あがきとして石を握り込んだ。
球状に近い握りやすいその石に、僕は全てを託すしかなかった。
どうしてこうなってしまったのか。
僕は苦い記憶を辿る旅に出た。
◆
エクルットさんが示した期限がもう半年後にまで来ている。
だというのに、僕は自分の人生の岐路を未だに選べずにいた。
どういうわけか、僕はひとつ年上の子たちのリーダーになってしまった。こんな僕がだ。
流れ的にも断れないままズルズルとリーダーに居座り続ける僕。
その優柔不断さが、自分でも嫌になる。
それでも僕はリーダーとして彼らの先頭に立ってきた。
今ではすっかりぬるくなってしまった山狩りでも、あらゆるハンデや戦況の想定を
設けて訓練を積んできた。
そして僕たちは今ではエクルットさん一人を相手に全員で戦闘を行えるまでに成長することができていた。
「お前らも連携が良くなってきたな。だけどまだまだ練度が足りないな」
僕ら八人を纏めて相手にしても全く息を切らさないエクルットさんは、改めて化け物だと思い知る。
全員肉体強化に加え魔術も組み込みながら戦っているにも関わらずだ。
なんならエクルットさんは僕たちに肉体強化すらまだ見せていない。
リーチの差は覆しようがないとはいえ、単純な腕力なら肉体強化した僕たちの方が断然上だというのにだ。
僕たちの攻撃は全て巧みに流される。まるで風や柳を相手にしているような感覚だった。
「流石エクルットさん、です」
息を切らしながらもヴィリムくんはエクルットさんにキラキラとした目を送っていた。
最近では盾を持った訓練もしているというのだから、その憧れは本物なのだろう。
「隙が無さすぎる……全く見えない」
放心しているポランくんの戦闘勘は以前に比べてもその鋭さを向上させている。
自信があるのだろう。それにも関わらず一撃も入れられない現実を前にうわの空のまま仰向けに倒れ込んでいる。
「最後までまともに立っているのは……リオンだけか」
「ぜぇ……ぜぇ……」
そして僕は皆が倒れる中、最後までエクルットさんからのヘイトを受け持ち、その攻撃を捌き続けた。
フットワークの量は攻撃と攪乱のために動き続ける皆に比べたら少ないが、一撃一撃が意識を刈り取るほどの威力を持ったエクルットさんの重たい攻撃を受け続けた僕の腕と精神はすでに限界に達していた。
立っていられるだけで、僕はもうとっくに動けない。
「……良い根性だ」
褒めてくれているその言葉。
しかし、どこか憂うような色を帯びる彼の言葉の意味を、僕は知っている。
そして陽が沈み、ようやく長い訓練の終わりを告げたエクルットさんが最後に僕たち全員に明日の指示を飛ばした。
「喜べお前ら。ゴブリン相手の山狩りをぬるいと感じ始めていたお前たちのために新たな舞台を用意してやる」
「新たな舞台?」
僕にとってはこの訓練が一番、心穏やかなままで居られるのだが。
生き物相手には未だに慣れない。
「今まで行くことを許していなかった渓谷の奥地への許可を出す」
僕が最初に父に連れられて行った渓谷はまだ浅い箇所。
その奥へは「ヴィリムくんスヤスヤ大作戦!」でも訪れたことがない。
「そこには新たな魔物が出没する。そいつらはゴブリンよりもよっぽど強い。中にはホブゴブリンもいるが、それよりも強い魔物も多数存在する。腕が鳴るだろう?」
歯を見せて笑うエクルットさんに、疲れて倒れていた子たちが一斉に飛び上がると、跳ね回って喜び始めた。
まるでクリスマスに最新機種のゲーム機を貰った子どものような反応だ。
おかしいでしょ……流石に。
エクルットさんもまるで「転売のせいでなかなか売っている所を見つけられなかったんだぞ」と苦労を口にするお父さんのように額の汗を腕で拭ってアピールを見せていた。
なんのアピールだ。
この人は本当に僕と似たような人格の持ち主なのだろうかと、疑心暗鬼を抱いてしまう。
「リオン!早速明日狩りにでるぞ!」
「ポランくん!」
ポランくんが肩を組んできた。
汗がすごいがそれも仕方がない。
「俺も行くからな」
「え、うん」
ヴィリムくんが当然のようにそう言った。
彼はポランくんの有無に関わらず大体一緒だからわざわざ言わなくても……といつも思う。
「おまえ……なんで俺とポランでそんな態度が違うんだよ……」
レア度?
僕がリーダーになってからも、大人たちのポランくんへの期待値はこの中でも飛びぬけている。
そのため彼は良く上の世代と一緒に訓練を積んでいることが多く、合同訓練以外で一緒に行動することが滅多にないのだ。
そう言った理由だから他意はない。
ヴィリムくんのことも好きだよ?
ポランくんの戦い方はまさにこのグラント族の伝統というか理想に近いスタイルであるために、守り一辺倒の僕や万能型のヴィリムくんよりも一目置かれているのだろう。
それなら僕がリーダーであることにも異論を叩きつけて欲しい所だ。
そして次の日の生臭遠足にさらに二人が参加を表明し、僕たちは明日に向けて早い休息に入った。
◆
翌日。
僕とヴィリムくん、そしてポランくんの三人に加えて二人の計五人で渓谷の中を進んでいた。
少し前から、僕たちはハウルたちを引き連れて連携を取る戦い方を試している。
グラント族の昔からの伝統らしい。
事実、ハウルたちの戦力は馬鹿にならない。
しかし僕はハウルではなく、特別にアザレアを連れている。
中型犬弱ほどの大きさにまで成長したアザレアは猫科特有の高い肉体能力に加え、魔法にも優れた精獣へと成長を遂げた。
正直、ハウルたちよりもポテンシャルは上かもしれない。
まだまだ、先住犬のあの子らの方が強いと思うけど。
そんな僕たち五人と二頭のハウル+アザレアを加えた一団が向かう場所は、当然エクルットさんから立ち入り許可が下りた渓谷奥地。
雪が残る岩に囲まれた大自然の道を歩き始めて一時間弱の時間が経過していた。
「ねぇリーダー。この先ってどんな魔物が出るんだろうね」
ハウルたちと戯れながら進むせいで、一番足が遅くて最後尾にいる僕の隣までやってきた少女が、その綺麗なソプラノボイスで僕に話しかけてきた。
「どんな魔物だろう。ホブゴブリンしか聞いてないからね」
首を傾げてそう答える。
リーダーなのに知らなくてごめん。
でもエクルットさん教えてくれないから。
「エクルットさんも意地悪だよね。情報くれないなんて」
唇を尖らせて拗ねる姿が可憐なその少女の名前はパルマ。
細身の体に合わせて二本の細い身軽な剣を使う双剣使いだ。
正直カッコ良くて憧れる。
「そういうのも自分たちでどうにかできるようにってことなんだろうね。あ、そこ気を付けてパルマちゃん」
「わっ、ととっ……」
雪の下に隠れた小岩を指して注意したが少し遅かったようだ。
苔なんかが生えてて滑りやすくなった小岩に足を取られたパルマちゃんが、体勢を崩して手をあたふたさせる。
正直かわいい。
僕はそんなことを思いながら咄嗟に彼女の腕を掴んで腰に手を回した。
「ありがと。リーダー」
「大丈夫?ここら辺こういうの多いから気を付けて……あ!ご、ごめん!」
バランスを取り戻したパルマちゃんの腰から手を急速旋回させて自分の背後に慌てて格納した。
僕は他意などないことを必死に身振り手振りで伝える。
わざとじゃないんです。許してください。
「……」
僕の弁明は伝わらなかったのか、彼女が僕をその冷たい目でじーっと見てくる。
うぅ。冷たいのは雪とヴィリムくんだけにしてほしい。
「ねぇ、リグラン。リーダーがまたボクを女の子扱いしてくるんだけど」
不満気な声で後ろを振り返ったパルマちゃんが今回加わった最後の一人に僕のセクハラをチクってしまった。
「いつものことだろ。頭の色だけじゃなく頭の中まで変だからなそいつ」
「酷いよミシュランくん!」
「おうおう。腹減ってんだな。ほらこれ喰らえ」
「はぐぁう……はむはむ」
呆れた様子のミシュランくんが慣れた手つきで僕の口の中に干し肉を突っ込んできた。
「突然なにするのさ!リグランくん!」
「ほらな、パルマ。こいつの頭の中は腹の虫に操られてる。変な奴なんだ」
「あはは!やっぱりリーダーは面白いね!」
腹を抱えて笑い始めたパルマちゃん。
なにか面白いことがあったらしい。
やっぱり笑顔の素敵な女の子は特に可愛いね。
「おーい。馬鹿なことやってないでもうすぐ着くから準備しろよー」
張り切って先頭を歩いていた二人が僕たちに向かって大声でそう教えてくれた。
ポランくんの声は良く響く。
二人もその指示に素直に耳を傾けると、スッと剣を出して小走りで二人の前に向かった。
……僕よりポランくんの方がリーダーに向いているのでは?
僕は複雑な気持ちを抱きながら遅れてその戦列に加わった。
───ぐるるるぅ。
「ハウル?」
僕たちの目の前に現れたのは、六匹の狼。
体格はハウルたちにやや劣るものの、剥き出しのその獣性は危険を感じさせるに相応しい。
当然野生のハウルが友好的なわけもなく。
「ガウ!ガウ!」
ハウルたちが吠え始め、それに相手も応戦。
そして遂にボス格らしい敵ハウルが遠吠えを始めた。
それは群れへの狩りの合図。
「戦闘準備!敵!野生のハウル!」
渓谷奥地。
初めての戦闘が幕を開けた。
大変お待たせして申し訳ございません。
第三章「騒乱に押される背中」今日から投稿を開始します。
今章は完全に書き上げておりますので、三章最後まで投稿することをお約束します。
三章は28話。通算して73話までとなっており、文字数はおよそ12万字ほどです。
これまでの章に比べ長くなっておりますが、最後までお付き合い頂けると幸いです。




