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第7話『魅惑』

流転の國における私の名はルーリ。そして、お前は……

「あっ…僕、寝てた…?」

「見なかったことにしますぞ」

隣で寧々が声を潜めて言う。

(まだこの世界か…)

流転の國に顕現する前にいた世界に似ているこの世界。正直、あまり長居はしたくない。

(そういえば、この世界の姫も病を抱えているんだろうか…)

流転の國に顕現した時も、姫の病気のことは覚えていた。しかし、この世界に来てからは確認していない。

(でも、あまり触れたくはないな…)

本人がその話をしない以上、純は病気のことに関して聞くべきではないと思った。


その日の昼休み。

珍しく皆は外出しているらしい。

オフィスには純と瑠璃が残っている。

「…純、聞きたいことがあるんだが」

突然、瑠璃が話を切り出す。

「何?瑠璃さん」

「私達は流転の國に戻れるのだろうか」

いつになく難しい表情の瑠璃。

「僕もそれは凄く気になってる。きっと、社長も気にしているはずだ」

「そうだよな。この世界に来てから既にかなり時間が経っているように感じる。…どうにも私にはこの世界は居心地が悪くてな」

瑠璃はそう言って苦笑する。

「…実は僕が流転の國に顕現する前にいた世界に似ているんだ。…仮に同じ世界だとしたらろくでもない場所だよ」

「そうか…では、マヤリィ様の元いた世界にも似ているということになるな。…っ」

「マヤリィ様…?」

瑠璃は思わずそう呼んでしまった。

純はそれを聞き逃さなかった。

「瑠璃さん、それは…流転の國における姫の名前なのか!?」

「っ…聞いてしまったんだ。ご本人から…」

純の眼差しが鋭くなる。

「では、自分の名前も分かっているのか?」

「ああ。流転の國の私の名はルーリ。そして、お前は…お前は……」

その先が出てこない。

「全てを思い出したわけじゃないってことか。…君の名前がルーリと言うなら……」

「お前の名前も、恐らくは流転の國にいた時と似た名前だろう」

ルーリは言う。

「だけど、ここでは魔力は使えない、か…」

この世界に魔術は存在しない。

しかし、マヤリィは流転の國の雷系統魔術の名を記憶していた。その名前は確か……

「『流転の閃光』」

ルーリがそう呟いた刹那、文字通り純は雷に打たれたような感覚に陥った。

オフィスの中は何も変わりないが、

「ジェイ……」

純が頭を押さえつつ、小さな声で呟いた。

「…今、なんて言った?」

「ジェイ。流転の國における、僕の名だ」

「ジェイ……!」

その時、ルーリの頭の中に皆の名前が次々に浮かぶ。

「二人共、思い出したみたいね」

気付けば、ドアの所にマヤリィが立っていた。

「マヤリィ様!!」

ルーリが駆け寄る。

「…どうやら、この世界が少しずつ綻び始めているようなの。今のルーリの魔術がジェイに影響を与えることが出来たのも、きっとそのせいよ」

マヤリィは流転の國こそが自分達が本来存在するべき場所であり、この世界は虚構であると信じ続けていた。

「ルーリ。もう少し近くに来て頂戴」

「はっ。失礼致します、マヤリィ様」

その光景を見ても、純もといジェイは不思議に思うことはなかった。

「…これをつけなさい」

そう言って、ルーリにイヤリングを渡す。

ルーリは黙ってそれを装着する。

「これは…!宙色の耳飾り…!?」

「なぜこれがここに…!?」

ジェイも驚いている。

しかし、マヤリィは何も説明することなく、

「これは流転の國にしか存在しないはずだった貴女にしか出来ないわ、ルーリ。宙色の魔力を発動させ、流転の國に戻るのよ」

流転の國に戻る鍵はルーリ。

マヤリィはずっとそう思っていた。

「畏れながらマヤリィ様、私は宙色の魔力を扱ったことがございません…!」

ルーリが困惑した表情で言う。

「いつもの貴女の魔術でいいのよ。宙色の魔力があれば、どんな魔術でも使える。たとえ禁術であろうと、容易く発動出来る」

マヤリィが使役しないというだけであって、実はこの世に存在する数多の魔術を発動出来る宙色の魔力。流転の國においてそれを扱いこなせると定められたのは確かにマヤリィだが、ここNIPPONでは違う。

マヤリィは流転の國に戻ることを願い続け、信じ続け、この世界に綻びを生じさせる所までしか出来なかった。元いた世界に近いNIPPONにおいて、神崎真綾は無力に等しい。

「ジェイ、覚悟はいいわね?この世界を吹っ飛ばすわ。ルーリの…『魅惑』の力で」

えっ?流転の閃光じゃないの??

「…畏まりました、ご主人様。皆を私の魔術に巻き込み、必ずや流転の國に帰還させてご覧に入れましょう。…國に戻った暁には、私の部屋にお越し下さいませっ♪♪♪」

(そうだった…!ルーリはサキュバス……!)

ジェイは思い出す。

金城瑠璃の正体はとんでもない人だった。

「ええ。約束するわ」

既に流転の國に帰ったも同然のルーリの台詞に動じることもなくマヤリィは女神のような微笑みを浮かべる。

「では、発動して頂戴。頼むわよ」

「はっ!」

その瞬間、世界は魅惑の風に包まれた。

ルーリは最初から流転の國にしか存在しない者。

だから、彼女でなければならなかったの…。

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