レムリアの子
「二人とも、空を見て!『マンジュリカーナ』様が戻ってこられたわ」
由美子が二人の虹色テントウに声をかけた。彼女の背中の青い羽根は由美子の『ブルー・ストゥール』、『天羽の羽根』を変形させている。『マンジュリカーナ』は地上に立った巨大な悪魔『ゴラゾム』を取り囲んでいる五人の戦士を見て、『カブト』に話した。
「カブト、見て下さい。今、『レムリア』はひとつにまとまっています」
「おお、見える、見えるとも。『レムリアの子』たちがあの悪魔と戦っている。彼らの命を武器にして。『イオ』、『アギト』わしらの王子たちと一緒にだ」
『ゴラゾム』は群がる彼らをものともせず、なぎ払い、打ちつけそして蹴り飛ばしていた。『ラクレス』は蹴り上げられて宙に舞った。『コウカ』は地面に逆さに突き立てられた。『ゴラゾム』は『エレファス』のツノを握ると巨大な鎚の代わりにして、『コウカ』をまるで杭でも打ち込むようにその身体を打ちつけた。それでも彼らは立ち上がり『ゴラゾム』に挑んでゆく。ついに『ゴラゾム』の片足に三人がしがみついて止めた。かけ声とともに彼らは『ゴラゾム』の片足を持ち上げた。バランスを失い、『ゴラゾム』がひっくり返った。その隙を狙って『アギト』が大アゴを『ゴラゾム』の両脇に差し込んだ。
「ぐっ、放せ!」
『ゴラゾム』は両手の指を組み、『アギト』の頭を打ちつけた。しかし『アギト』はひるむこと無く大アゴに力を込めつづけた。
「ぐうるるるるっ、何のこれしき」
『ゴラゾム』は両腕を大アゴの間に差し入れ、大きく息を吸い込み力を入れた。そしてアゴを握ると凄まじい力でそれを広げて外した。『ゴラゾム』はそのまま『アギト』を振り回し投げ飛ばした。『ゴラゾム』の背中に向けて今度は『イオ』がツノを打ち込んだ。振り返った『ゴラゾム』は異形な三本のツノで『イオ』のツノを受けた。
「バキッ」
『ゴラゾム』の頭部の二本のツノのうち、片方が見事に折れた。しかし『イオ』の腹には次の瞬間『ゴラゾム』の大アゴが深く打ち込まれた。
「ぐっ」
短い声とともに、『イオ』はついに力つきその場にうずくまった。
「さすがは『ビートラ』の名を継ぐもの、わしのツノを持っていったか」
「おのれ、『ゴラゾム』!」
『アギト』が背後から胴を大アゴで挟んだ。そしてそのまま『ゴラゾム』を持ち上げて後ろに逆エビのように反り返った。真後ろへの捨て身技だ。衝撃が頭の中を駆け巡り、『ゴラゾム』はしばらくは動けなかった。それは『アギト』も同じだ、遂に『アギト』『イオ』はその動きを止めた、もう、戦えるものはいない、息も絶え絶えの『ラクレス』はそれでも空を見上げて『マンジュリカーナ』に向かって叫んだ。
「俺たちはまだ戦える、『マンジュリカーナ』、今一度力を与えてくれ」
『マンジュリカーナ』が唱えたのは、しかし降霊の術だった。
「レム・キャステリア・リカーナ・ナトゥーラ」
三つの落雷が起こった。落雷のひとつは『セブリア』の王、『ラクレス』を貫く。
「『ミルノータス』、ここに」
ひとつは『テラリア』の王『コオカ』を貫いた。
「『ゲルノータス』、ここに」
そして最後のひとつは『ゴラリア』の王『エレファス』を……。
「『クルノータス』、ここに」
「おお、忘れもしない三騎士たち、お懐かしい」
『マンジュリカーナ』とともに『虹のほこら』に着いた『黄金のカブト』はそうつぶやいた。
「『ゴラゾム』、まだ認めないのか、お前は間違っていたのだ」
クワガタ系の『ミルノータス』が口を開いた。
「この裏切り者めが!、この星を征服するどころか『キャステリア』にまで、弓を引き、『ビートラ』そしてこともあろうか姫まで、たぶらかしおって!」
「『ビートラ』も姫もそして『ゴラゾム』、お前もすでにこの世にはいない。いや、いてはならんのだ」
コガネムシ系の『ゲルノータス』が低い声でそう告げた。
「『キャステリア』の本当の復活は、力だけでできるものではないのだ」
アゲハ系の『クルノータス』が諭すように、そして寂しげに言った。




