第五章 ムシビトの星
ー混沌の中から生じた最初の生命体から、長い年月のはてに進化の頂点に立った『昆虫型知的生命体』の星、『ゴリアンクス』と『ルノクス』。やがて星の寿命が尽きようとした時、『ルノクス』の虫人たちは『ゴリアンクス』に移住した。『ゴリアンクス』にはまだ再生する可能性があったのだ。かつては『ゴリアンクス』と敵対していた『ルノクス』の虫人の中で最も恐れられていたのが『ミルノータス』『クルノータス』そして『ゲルノータス』の三虫人、彼らは『三騎士』と呼ばれていた。『ゴリアンクス』王家と『ルノクス』王家が合議し、今後の対策を練る城、『キャステリア』は『ゴリアンクス』にあった。しかしこれと言って妙案はないまま時間だけが過ぎていく。すでに両星の虫人たちは星の最後をひしひしと感じていた。『ルノクス』では先日最後の女王「リリナ」がとうとう没し、まだ若い姫が王族最後の生き残りになっていた。一方『ゴリアンクス』ではすでに王妃は没して久しく、それ以来病床の王は最後に二人の王子を枕元に呼びよせた。『キャステリア』はただの城ではなかった。母船として外宇宙を航行できるシステムを取り入れていた。ある科学者の最高の科学力と知恵の結集だった。王家の最後の王と王子たちは窓から城下の町をながめていたー
「皮肉なものだ、これだけの科学力と知恵があっても、種としての寿命がまさに尽きようとしている。われわれの使命が終わったのだろうか?」
王が二人の王子に語った。兄王子の『ゴラゾム』が答えた、彼は精神エネルギーを追求していた。この困難を越えるにはたった一つ、宇宙の神秘に近づくしかないと信じていた。
「父上、もう少しです。若々しい生命エネルギーを呼び戻せる日も近いのです」
「お前はまだそんなことを言っているのか? あの『ルノクス』の姫の持つ力は『禁呪』なのだ、確かに『ルノクス』の王は一度甦った。しかしその代わりに先日女王「リリナ」は没してしまった……、女王の霊力でさえ、王を一年と甦らせることはできなかった。お前が『ヨミ』を操ることは、お前が死んでしまうことと等しい。宇宙の神秘に近づくにはまだまだわしらには無理なのかもしれない」
「兄上の研究の成果ももう少しかかるでしょう。私は代わりの星を移住先として各方面を調べさせております。『キャステリア』はギリギリまで『ゴリアンクス』に留まっています。なあに外宇宙にまで行けば、同じような星があるかも知れませんよ、父上」
弟王子の『ビートラ』は王を安心させようと嘘をついた。情けないが、『ゴリアンクス』には外宇宙に飛び出す勇者はすでに誰も残っていない、王はとっくにそれを知っていた。
「そうか、まあよい。『キャステリア』には『ルノクス』の虫人を乗せても十分航行できる、それに双方の星では、日ごと国民は減り続けている。『ゴラゾム』おまえの力で同じ種同士を融合して食い止めるのだ。そして『ビートラ』は遠い星へ調査に行ったものを即刻呼び戻すのだ。いつ消滅するかわからないこの星にいるのは無意味だ。そしてもうひとつ、『ルノクス』王家の姫を妃として迎え再び我らのふるさとをこの宇宙の何処かに興してくれ。これがわしの最後の頼みじゃ」
王はそう言うと、遂に力つきたのだった。その悲報を『ルノクス』王家の最後の姫『リカーナ』は三騎士から聞いた。中型の星間航行船『レムリア』が完成したばかりのことだ。
「参りましょう、もはや『ルノクス』も『ゴリアンクス』もありません。何としても我らは、この試練を乗り越えるのです」
姫は三騎士を連れ、『キャステリア』に向かう決意をした。
「『ルノクス』のように美しい星がきっとどこかにあります。信じましょう」
城の外には、この星の残った命を満喫しているかのようにトレニアが一面に咲き誇っていた。
「ああ、なんて美しいのでしょう、この星は」
『リカーナ』はしばし見とれていたが、やがて三騎士に振り返って言った。
「お前たち、決して忘れてはなりませんよ。この『ルノクス』の美しさを」
『ルノクス』の虫人たちは『レムリア』ごと『キャステリア』に向かい、曳航されたまま『ゴリアンクス』を離れたのだ。
「何たることだ、父上の本意とは違うではないか、兄上は正気か!」
『ビートラ』には『ゴラゾム』の行った『レムリア』への深い考えは理解できなかった。
その頃『キャステリア』の花園には若い王子と王女がいた。
「本当に、曳航したままでいいのか? よいのだぞ、『キャステリア』に皆が移って来ても」
「いえ、これでいいのです。食料もエネルギーも、この『キャステリア』に無尽蔵にある訳ではありません。もしものとき、両国民にいらぬ感情が芽生えないとも限りません。その際は……」
「……その際は『レムリア』を捨てろとでも言うのか?」
『ゴラゾム』は『リカーナ』にそう尋ねた、彼女は笑って答えた。
「そんなことをあなたがする訳がありません、あのワイヤーにあなたがどれだけ強力な念波を練り込んでいることか私にはすぐにわかりますわ、それに」
「それに、なんだ。『リカーナ』?」
「先日、不正を働いた食料大臣を処罰されたではありませんか、『レムリア』のために」
「ああ、こっそり配給分を減らしていた件か、本当にすまなかった。だがあいつもいまでは後悔している、あの程度の処分で許してやってくれ」
「もちろんですわ、公正な『ゴラゾム』様の姿が私にはとても素晴らしく思えます」
二人はこうして時には、『キャステリア』の花園で、恋人として逢っていた。
「私たちはきっとまた昔のように戻れる。決して滅びはしない」
彼はそう言い残すと花園から立ち去った。確信を持った、力強い王子の言葉を『リカーナ』は熱い抱接の余韻の中、何度も繰り返していた。彼女はしかし、彼の言葉の中にもうひとつの『覚悟』があることまでも汲み取っていた。
(ゴラゾム様、どうかお気をつけて……)
仰向けのまま、彼女は涙をこぼすと、やがてゆっくり上半身を起こした。二人が遠慮がちに踏み荒らした『トレニア』は笑っているように見えた。その姿をそっと見ていたのは、彼女に心を寄せる、もう一人の王子『ビートラ』だった。彼もまた初めてあった時から、彼女に心を奪われていたのだった。




