悲しい習性
その頃人間界では、なっぴが「ギリーバ」に追いつめられていた。「オモチャ箱」のアイテムはなっぴには初めて見るものだった。
「ブンブンごまって、なんなのよ。それに紐がないわよ、このまま投げつけるしかないじゃない。『テンテン』ったら!」
「落ち着いて、何かしかけがあるのよ、あっそれ何?」
ヨーヨーの側面の大きなくぼみに『テンテン』がいち早く気がついた。
「分かった、こうするんだ!」
なっぴは『コマ』をくぼみに入れて、『グリーン・ヨーヨー』とセットすると、思いっきり『ギリーバ』の触覚の間を狙って投げた。『ギリーバ』はヨーヨーをたたき落とそうと触覚をしならせた。しかしヨーヨーは直前で逆回転をして、なっぴの元に戻る、『コマ』を『ギリーバ』の頭に乗せたまま……。
「何だこんなもの」
『ギリーバ』が頭を振って、『コマ』をはじき飛ばそうとした。しかし『コマ』は外れない、回転が止まるまで外れそうもなかった。音の代わりに、『ギリーバ』の体内の虹のしずくのパワーを『コマ』は放出しはじめた。
「おのれっ、熱い。俺の頭がコマの摩擦で熱い」
「グリーン・ヨーヨー、シュート」
強力なヨーヨーの一撃が、顔面、胸部、腹とたて続けに食い込んだ。しかしさすがは『ギリーバ』だ。触覚がすぐにヨーヨーの紐を捉えた。そして大アゴでその糸を噛み切った。ヨーヨーに続いて『コマ』が回転を止め『ギリーバ』の足下に転がる。そのときなっぴは思った。
(あの触覚さえなければ、随分戦いも有利になるのに)
「由美子なら、どうやって戦うかしら。空を飛んで真上からでも、戦うのかな?」
「もうオモチャは品切れかい、お嬢ちゃん」
「よおし、こいつでやってみよう」
なっぴは最後にオレンジ色のクラッカーを取り出した。それを持ったまま、腕を上げ下げして、「カンカン」と鳴らす。その度にくすんでいた色が次第に綺麗に輝きはじめた。
「これって、使えるかも……」
『ギリーバ』は、「カンカン」と鳴るクラッカーの玉を、目を上下させて追っていた。
「それっ」
一瞬止まった触覚の根元を狙って、なっぴはオレンジ・クラッカーを投げた。
狙い的中。クラッカーは触覚の根元にからまり、二本をぐるぐるに巻き付けて回転出来ないようにさせた。
「ストライクね。ここでヴァイオレット・キュー!」
触覚にクラッカーがからまっているうちがチャンスだ、なっぴはキューで『ギリーバ』の厚い胸板を打つ。
「うぐっ、お、おのれっ」
「バッタ召還、セット・アップ・グラス・ホッパー」
高く飛び上がったなっぴは、天井を蹴り、真下の『ギリーバ』の頭を狙った。一本の触覚が根元から折れた。それでも『ギリーバ』は倒れない、
「おのれ、天井など使いおって、こしゃくなやつ。それならもっと広いところで戦ってやる。」
そう言うと『ギリーバ』は屋上に向かって音楽室を出た。
「『ギリーバ』は階段の途中でクラッカーの紐を噛み切った。紐を見ると、つい噛み切ってしまう。だが以前より少し、切れ味が悪い気がして来た。
「まてよ、まさか?」
「ご明答、これはね。本当は紐の部分が武器なのよ。カミキリムシの習性ね、この紐をつい噛み切ってしまったでしょう。ふふふっ」
そう説明したのは、コマンダーの中の『テンテン』だった。




