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第96話 知れば知る程に


「……別にー。従姉妹なのに先輩呼びなんだなー、って。名前とかあだ名で呼ばないんだなって思っただけ。私の場合は従姉妹からお姉ちゃん呼びされてるから、へーって思っただけ」


「ああ、それなー。俺も昔は真からお兄ちゃんって呼ばれてたんだけど、中学入ってもお兄ちゃん呼びだったから、そろそろ呼び方変えないかー? って頼んだらこうなった感じ」


「あー、なる。学校でお兄ちゃん呼びは色々面倒そうだもんね」


「お兄ちゃんって呼ばれる度に兄弟じゃなくて従姉妹でー、みたいな説明するのも面倒かもなー、って。それで、今ではプライベートでも先輩呼びが定着した感じ」


「なるほどねー」


 要するに、私は鹿島の従姉妹相手にバリバリに警戒して、更には機嫌悪くなってそそくさと退散した、と。


 ……穴があったら入りたい。


 心の中は羞恥で染まっていたけど、どうにか平静を装った私は、鹿島と一緒に駅地下から地上に出た。


 でも、そうだよね。


 従姉妹だとしても、知らない女子が鹿島にくっついていたら警戒するのは当たり前、当たり前のはず。


 それに従姉妹同士なら結婚出来ると聞いた事もあるし、警戒は大切。うんうん、そうだよ。


 目的のお店までの道すがら、雑踏に紛れて会話は続いた。


「えっと、って事は後輩ちゃんの家に遊びに行くのはオジさんの挨拶とかそんな感じ?」


「んー。まあ基本そうかな。同じ校区つっても俺と吉永の家より少し距離あるからさ」


「上の方?」


「そそ。ギリギリ石中いしちゅうの校区かすめてるような場所だから、定期的に元気な顔を見せに来いって言われてて、それで遊びに行ってるんだよ」


「そうなんだ。親戚仲良いねー」


「だろう?」


 何気なく発した私の言葉だったけど、それはもう嬉しそうに返事をした鹿島は、無邪気な笑顔を浮かべながら全力で私の言葉を肯定した。


 だから、笑顔を浮かべながらこちらを見てくる鹿島にドキドキしつつも、私はこの時にやっと、彼の事が何となくわかったような気がした。


「父さんの方のお祖父ちゃんお祖母ちゃんも、母さんの方のお祖父ちゃんお祖母ちゃんもどっちも元気なのはもちろんなんだけど、父さんにも上に兄が一人と下に妹が一人いて、母さんは上に兄と姉がいてさー」


「えー、多くない? ふふふ」


「だよなー、俺もそう思う。どっちも三兄弟って。それでもまあ、元々仲は良かったんだけど、父さんが入院してからはそれはもう皆して鬱陶しいくらい構ってきて──」


 鹿島が誰とでも仲良くなれる理由。


 彼がいつも前だけを向いていて、相手の良い所をきっちりと見つめる人である理由。


 それは多分、鹿島を取り囲んでいた親戚の人達の影響なんじゃないかな。そんな気がする。


「──だから、父さんの兄貴と妹さんの家族が一家揃って応援に来て賑やか通り越してうるさいわ! って事もあって──」


「何それー! あはは」


 鹿島の周りにいた人達が沢山の愛情を注いで支えたから、彼の中にはいつでも他者に対する思い遣りが溢れているんじゃないのかな。


 家族について話す彼の表情は、いつも本当に楽しそうで、とても穏やか。


 たった一年前に亡くなったばかりのお父さんの話をする時ですら、何でも無いように優しく笑う。


 小学三年生の時からずっと、徐々に衰弱していく親と向き合う生活……。


 それはたぶん、私が考えているよりもずっと、辛い毎日だったはずなのに。


 鹿島の幼少期には色々な苦労とか、辛い思い出もあったはずなのに。


 それでも、鹿島からはそんな雰囲気は一切感じない。


 私なら、どうだろう。


 もし親が亡くなった直後に、私みたいな面倒そうな女が部室で泣いてる現場を見たとしても……関わりたく、ないかも。


 そもそも、親が死ぬ事なんて考えたくもないし。


「──ってのもあるあるな。そんでまあ、それもあるけど、俺の所って従姉妹いとこが女子ばっかりで、男は俺と後一人だけなんだよ」


「へー? あでも、私の所も女の子ばっかりかも?」


「でも、吉永は女子だから女子同士全然いいだろ?」


「あー、だねー。ちょっと歳離れてるから可愛いんだよね」


「いいよなー。俺なんて親戚で集まっても男が全然いないから、毎回玩具にされてるわ」


「そっかー。従姉妹さんって何人くらいなの?」


 ついでに、鹿島が妙に女子に慣れている理由もわかったかもしれない。


「何人だろ。えーっと? 一、二の──全部で七人だな。一番上は二十一歳だから大学三年だったかな? そんで、一番下が小学六年生で、こいつが唯一の男の従兄弟だから、大きくなるのが今から楽しみなんだよな!」


「そうなんだ? 従姉妹が多いと親戚で集まる時楽しそうだよねー」


 交際経験も無いはずの鹿島が、クラスの女子に囲まれても話し掛けられたりしても、異様に落ち着いている理由。


 それは、年上のお姉さん達に囲まれて過ごしたからなのかもしれない。


「楽しいけど疲れる事もあるかなー、ははは。小さい時は色々願掛とかも試したりしてさ。少し髪伸ばしたりしてた時期もあったりで、だから、その頃は会う度に従姉妹の姉ちゃんに代わる代わる髪型弄られたりしてさー、女子の服まで着せられて完全に着せ替え人形だったわ……」


「え、なにそれなにそれ! その時の写真って残ってたりする? ちょっと見たいかも」


 何それ見たい! 


 昔を思い出したようで、何処となく疲れた顔を浮かべる鹿島には悪いけど、見たくて堪らない。


 女装した鹿島とか! 見たくて堪らないんですけど!


「探したらあるだろうけど。キッズスマホ使ってた頃だから、少なくともこのスマホにデータ移行してないな。悪い」


「えー、そっかー。ちょっと見たかったなー」

 

「まあ、おっけ、わかったよ。そんなに見たいなら、家に帰ればその頃に使ってたキッズスマホあるから、今度学校に持っていこうか?」


 ちょっと残念だなと思っただけなのに、私のそう言う空気を感じとったようで鹿島がすぐに提案を口にしてくれる。


 今のは本当に気を遣わせるつもりじゃ無かったんだけど、でもやっぱり、鹿島のこう言う所は好きかも。


 でも、今はそう言うのは我慢しよう。


 気を遣って貰うだけの関係は嫌だし、頑張るって決めたから。


「──ううん、わざわざ学校に持って来なくても、今度鹿島の家に遊びに行った時に見せてくれたらいいよ」


「あー。まあ、吉永がそれでいいなら」


「うん、それがいいよ」


「はいよ。おっけー」


 この夏は頑張ってみよう。鹿島の事を沢山知って、少しでも近付けるように。

鹿島の事が好きになっていく自分がいる。

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― 新着の感想 ―
従姉妹の危険性に気付いて さりげなくまた自宅へ遊びに行く約束を取り付けたな いいぞ〜その調子だ
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