最終章:キッポと一緒!
「キッポ兄ちゃんだ!」
「おかえりー! 宝珠は手に入ったの?」
「また、『ぐるぐるぶーん』して!」
わ! ちびっこが集まって来た。キッポは、
「ただいま。これから老師と大切なお話があるから、その後でね。――母さんや兄さんたちは?」
「おうちにいるよ。ね? 宝珠見せて!」
「あたしも見たい!」
ちびっこたちに囲まれながら、キッポは白い種子の形をした宝珠を、ポケットから取り出して手に置いた。わずかに明滅を繰り返してるのが、遠目にも見て取れる。
『すごおい!』
みんな眼を丸くしている。
アルムテを発ってどのくらい過ぎただろうか。やっとキッポの産まれた部落に、わたしたちはたどり着いた。思っていたより大きな部落で、中心を貫くように川が流れている。果樹園や畑もあり、聖堂も立派なものに見えた。
「じゃあ、老師と会って来るね。続きは後で」
『はーい』
部落の外れにいたわたしとルカスに、
「一緒にお願い出来るかな?」
「いいのか?」
「大事な話なんでしょ?」
「だから」
わたしとルカスは顔を見合わせ、うなずき合った。
「人間のお兄ちゃんとお姉ちゃん! キッポ兄ちゃんと旅したの?」
どんな種族でも、幼子は無邪気だ。抵抗無く話しかけられた。
「そうよ。一緒にいろいろなところを、冒険して来たの」
「キッポは大人気なんだな」
「だって、キッポ兄ちゃんやさしいもん」
「たくさんたくさん、遊んでくれるんだよ?」
「『ぐるぐるぶーん』してくれるんだよ?」
「お魚釣りも上手なの!」
うわ。キリが無い。
「ほらほら。お兄ちゃんとお姉ちゃん、困ってるよ? みんないい子だから、お話が終わるまで待っていられるよね?」
『うん!』
揃ってうなずく。カワイイなあ、もう。
「じゃ、リムノ、ルカス。来て」
わたしたちはキッポと共に、聖堂の前まで来た。ぞろぞろと、ちびっこたちが付いて来る。キッポはノックした。
「見習いドルイドの旅を終えました。キッポです」
「どうぞ。入りなさい」
老いた者特有の、しわがれた声で返事が来た。
「失礼致します」
わたしたちは聖堂に入った。やはり香が焚かれていて、薄いもやになってる。壁面にろうそくが灯されて、炎がゆるやかに揺れた。
「おかえりなさい、キッポ」
「無事に旅を終えられました。こちらはリムノとルカス。共にしてもらいました」
「ようこそいらっしゃいました。このような辺鄙なところまで。御礼申し上げます」
わたしたちは会釈した。でも、老師はこちらを向いていない。疑問はすぐに晴れた。
「不躾な態度で申し訳無い。老いのため、眼の力を失っております。それでも、心やさしい方々と、波動が告げております。本当にありがとうございました。キッポ独りでは、成し得なかったことでしょう。――キッポ」
「はい」
「宝珠を祭壇に捧げなさい。共に力を固めるのです」
キッポはつややかな黒曜石で出来ている祭壇に、そっと宝珠を乗せた。老師の隣に座る。わたしたちは見習いドルイドの旅、最後の締めくくりに付き合うことになった。じっと見守る。
『キッポの宝珠よ。揺ぎ無い物となり、其が持つ力永久となれ……。了!』
老師と共に唱えたキッポの声が、聖堂に反響し、そっと消えて行った。宝珠はまばゆく光り、また明滅を繰り返す。
「キッポ。よくぞ終えられた。さあ、宝珠を手にして。ドルイドとし、恥じぬ生き方をするのですよ。――人間様。全て終わりました。キッポも御両親と兄上に、知らせに行きなさい」
「はい!」
キッポと私たちは聖堂の外へ出た。うわわ! フォクスリングがたくさん!
「おめでとう、キッポ!」
「必ず成功して戻って来るって、信じてたわよ」
「キッポ兄ちゃん! もう、どんな魔法も使えるんでしょ?」
キッポはにこやかに笑うと、
「みんな、ありがとう。でもね? ボクだけの力じゃないんだ。仲間がいてくれたから、ここまでやって来られた」
みんなの視線がわたしとルカスに向けられた。少し動揺しちゃうわね。
「ちょこっと、お手伝いしただけです」
「逆に教えられたことの方が、多かったな」
ふふ。ルカスが緊張してるわ。
「じゃあ、母さんと父さん、兄さんたちに会って来るよ。リムノとルカスも来てね」
わたしは、
「家族水入らずの邪魔にならない?」
キッポは首を横に振った。
「紹介したいんだ。伝えたいんだ。こんなステキな仲間と旅したことを」
キッポの実家へ向けて歩いて行く。途中で何回も、『おめでとう!』を言われ、その都度キッポは笑顔で返事をした。
「ここ。ただいま」
素っ気ないなあ、キッポ。
『失礼致します』
わたしとルカスも、アタマを下げて導かれるまま、家の中に入った。
「まあまあまあ、キッポ! 良く無事で帰って来られたわね。おかえりなさい」
「待ってた。良くやったな」
お母さんとお父さんに、
「うん。ボクだけで出来たわけじゃないよ? この仲間、リムノとルカスがいてくれたから。母さんも父さんも、変わり無かった? 兄さんたちも」
「大丈夫よ。みんな元気。――あらヤだわ。お客様がいらしてくれるって分かってたら、掃除をしておいたのに。ごめんなさいね、こんな散らかった家で」
ルカスが、
「お気になさらず。こちらこそ突然御訪問して、申し訳ありません」
「ちょっと。お父さんも。ちゃんと御挨拶して」
「あ、ああ。ありがとうございました。緊張してしまって」
そうよね。わたしだって緊張してるもの。
「兄さんたちは?」
「さっき、山菜と薪取りに南の森へ行ったところ。分かってたら、出かけさせなかったのにねえ」
「そっか」
そんなに落胆せず、キッポは返事をした。
わたしは、いよいよ近付いて来た別れの時のことを思って、胸が詰まって来た。いけない、泣きそう。でも、しっかり受け止めなきゃ。
「じゃあ、ちょっと相談したいんだ。母さんも父さんも、いいかな?」
「オレたち、外に出てるぜ?」
「ううん。一緒にいてくれないと、始まらない話だから」
わたしとルカスは、キッポの突然の切り出しに、顔を見合わせた。
「とりあえずお客様。座ってくださいませ。今、お茶を」
「いえ、お構いなく」
「わたしたちこそ、失礼なことをしていますから」
「まあまあまあ。本当にお恥ずかしい」
キッポのお母さんはあたふたして、お父さんは緊張したまま固まってる。やっぱり、家族っていいなあ……。
「ボクね? 母さんと父さんが反対じゃ無ければ、もっといろんな部落を回って、情報を交換して。そんな『旅をするドルイド』になりたいんだ。この地にいるだけじゃ、ドルイドとして開かれた眼を持てないもの。老師には後で相談する。どの道、ボクはいてもいなくても、あんまり関係無かったでしょ? だから、旅を続けたいんだ。仲間と一緒に。もちろん、コマメに帰って来るようにする。新しい情報を手にして。――どうかな?」
――!
キッポ! それって……!
「リムノもルカスも。――どうかな?」
しばし、沈黙が訪れた。咳払いをしたキッポのお父さんが、
「それでこそ。よく決心したな。大きくなった」
お母さんも、
「まあまあまあ。いつの間にこんな立派なことを言う子に育ったかねえ……。もちろん賛成よ。老師も賛成してくださるに決まってるわ」
ルカスが、緊張を押し隠しながら、
「キッポ。それは……、オレたちと。ってことか?」
「仲間って、わたしたち?」
「もちろんそう。だから一緒にいてもらったんだ」
じゃあ。じゃあ!
「わたしたち、さよならしなくていいのね? まだまだ一緒に旅が続けられるのね!?」
「お父様、お母様。『かわいい子には旅をさせよ』、ですか?」
お父さんが大きくうなずいた。
「御仁のおっしゃる通り。手のかかる息子、私の息子なので至らぬ点も多いと思いますが。旅を続けて、もっと大きくなるお手伝いを願えましょうか? な、母さん」
「本当に。――キッポ。母さんは嬉しいわ。立派なドルイドを目指してちょうだい。そして。いつでも帰って来ていいのよ? あなたの家はここなんですから」
わたしは嗚咽を抑えられなかった。
「キッポ……、キッポ。嬉しい。すごく」
一旦、鼻をすすって、
「一緒に旅をしましょ? もっと大きな広い世界へと!」
「そうだな。オレの弟。――リムノ。泣くな。みっともないぞ」
「だって、だって……」
「じゃあ、老師に決意を告げて来るよ。――リムノ、ルカス。これからもよろしくね?」
そう言うキッポのつぶらな瞳を見ていたら、涙がぼろぼろ出て来た。
「こちらこそ!」
「お父様、お母様。御子息、お預かり致します」
キッポは、
「じゃあ、今夜だけ泊まるよ。兄さんたちにも、一応挨拶しとかないといけないし」
お父さんは無言でうなずき、お母さんは、
「まあまあまあ。お客様をお泊め出来るような家で無いのに。狭くて汚い家ですけど、どうかキッポと泊まってやってくださいな。お好きな食べ物はございますか? こんなことなら、準備しておくべきでしたわ。今は山菜が美味しいので、天ぷらを作りましょうか? それとも」
「母さん。落ち着きなさい。お客人を困らせてどうする」
「まあまあまあ。本当ですわ。いつも叱られてばかりですの。お恥ずかしい」
わたしたちは笑ってしまった。キッポは、恥もいいところとばかりに、呆れた表情を浮かべている。そして、
「聖堂に行くね。老師にも言わないと。リムノ、ルカス。またいい?」
「もちろんだ」
「当然よ。行きましょう?」
「しっかり話して来なさい」
お父さんが言った。キッポはうなずく。
歩きながら、挨拶を繰り返す。そんなキッポは、
「何だか、恥ずかしいところばっかり見せちゃったね」
「いいじゃないか。あったかくて」
「そうよ。いい御両親ね。――キッポ」
「うん?」
「言おう言おうと思ってたの」
「なあに?」
「わたしたち……」
鼻をすすって、
「いつだって。ね、ルカス?」
「ああ」
「いついつまでも」
「ああ、そうだ」
しっかりとキッポの顔を見て、わたしとルカスは、今一番最高の笑顔と共に。
『キッポと一緒!』
了
そんなわけで、お届けしました『キッポと一緒!』、いかがでしたでしょうか?
何せ初めての『小説家になろう』、初めての連載、とあって、戸惑うことの連続でした。未だに、システムが良く理解出来ていないありさまだったりします。感想とかの開示って、どうすればいいんでしょうか?
ともあれ、ひとまずは無事に完結出来て、安堵のため息。はーふー。
こんな拙作ですが、どうかご感想をお聞かせください。今後の参考・励みにさせて頂きたいと思っております。ご評価の方も、頂けると幸いです。
本当にここまでお付き合い頂き、ありがとうございました。
今後とも、ろくべえの拙作を宜しくお願い致します。




