月の世、終と現実
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輝く月を見上げる、叔母わらし――。
私は不意に気になり、振り返ってみた。
皆一様に、宴会の途中で止まっていた。
目を見開き、口を開け、歌の途中のまま。
私につられて、二人も振り返る。
「凄いですね……皆さん、動かないですよ。
真希ちゃん」
静かに、しかし興奮を隠せない様子で凛さんが言った。
マッキーも続く。
「本当に、なんなんですかね? これ?」
十三人の大人達が、動かずに止まっている光景は、異様だった。
私は小声で言う。
「何かの……術的な、催眠とか?」
マッキーは興奮気味に答える。
「一瞬でしたよ。指をパチッて」
「私達も、夢の中なんでしょうか?」
その言葉に、私の鼓動が一瞬、大きく鳴った。
「凛さん、怖いこと言わないでよ」
二人は私と目を合わせ、ニヤリと笑う。
「「夢の中かもしれないですぅ〜」」
悪寒が走り抜け、私は思わず叫んだ。
「キャー!」
マッキーと凛さんは、「馬鹿このっ」とでも言いたげに、私を睨む。
その叫び声に反応した叔母わらしが、こちらを見る。
「なんだい、緑坊や。気色悪いねぇ」
少し引いている様子だった。
「そうだねぇ……動きが出た時のためだ」
「凛や……これを渡しておくよ」
着物の懐から、古銭を取り出す。
「用がある時は、それを指で弾きな」
「それで分かる。あたしからも、呼べる」
凛さんは受け取ったものの、困惑している。
「わ、私ですか?」
「真希は、亜子から何か貰ったろう?」
マッキーは頷いた。
「坊やに渡すのは、なんだか嫌さねぇ」
マッキーは「やっぱりな」と言いたげに、私を見る。
私は……敗北感に襲われた。
「あたしらも、視ておくからさ……」
「何かあれば、知らせなねぇ」
「開」
そう言って、指を鳴らす。
――パチン。
止まっていた時が、動き出した。
「わらし様、フォ〜!」
私達は席に戻り、終わりを見届ける。
最後に、私達三人を見渡し、
「また次の月の世に、会おう」
そう言い残し、叔母わらしは月明かりに溶けるように消えていった。
近藤一族から礼を言われ、分厚い封筒を受け取り、私達も屋敷を後にする。
来た道を戻る車内で――。
古銭を月に向けて見上げる凛さんが、ぽつりと言った。
「これから、何が起こるのでしょうか?」
「分からないけど……何かが」
マッキーは、私が預けた分厚い封筒を三つ抱えながら、
「緑屋の仕事は、変わりませんよね?」
そう言って、私を見る。
「そうですよね、緑さん?」
女性は、現実主義だな。
私は二人の強さが、少し羨ましくなった。
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その後、近藤一族の繁栄の秘密が、
まさかの座敷わらしだったと知った凛さんは、
「そんなものですかねぇ」
と、社会の不条理を嘆いていた。
話しながら車を走らせる。
あっという間に二人の住む高級マンションに着き、私は言った。
「明日はもう、休みにしよう」
二人は眠そうに、
「「お疲れ様でした〜」」
そう言ってマンションに帰って行く……。
私は一人、事務所に戻り、
今日の出来事をまとめた。
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日記
座敷わらし……
通称、叔母わらし。
四つの山を狙う、元帥山の主の動向を視ていたようだ。
多分、リスを使って。
山が鳴いている――意味は分からないが、
何かしらの予兆が出たのだろう。
これから先のことは、はっきりとは分からない。
だが、私たちの仕事は変わらない……。
不思議な術を使う存在。
人間には、有効的みたいだった。
そして私は、
何かを奪われ、代わりに何かを持った。
青鬼イワオは、鬼神……。
青ギャルのすぅは、雷神。
多分、そうだろう。
山の主が全員倒されれば、
次は街にも手を伸ばすはずだ。
近いうちに、仁さんにも話をしなければならない……。
すべて、はっきりしない。
物の怪という、曖昧な存在が関わるものだ。
そういうものだろう。
ただ一つ……確かなこと。
夢や希望も大事だが、
先立つものが、何をするにも必要だ……。
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