夜永な月世 二章
「ちょっと前にねぇ、白夜の亜子と目を通して、話をしてね」
叔母わらしは、手のひらの上にネズミを出した。
いきなり現れたネズミに、私達は驚く。
主というのは、皆マジシャンなのだろう。
「坊や、あんたの事を言ってたよ」
「歪だってねぇ」
目を細め、私を見た。
いや……**視た**のだ。
「まぁ、あたしに触れた時に歪さは感じていたが……
今は“鬼の加護”が、さらにねぇ」
鬼の加護?
想像はつく……青鬼だろう。
「真希も凛もね、“鬼の加護”がついとるわ ねぇ」
なぜか嬉しそうに話す、叔母わらし。
「わらし様……歪とは? 私ですよね」
叔母わらしは、愉快そうに笑う。
「緑の坊や、あんたは半分無いよ」
「半分無い? とは?」
「何かに、奪われてないかい?」
奪われた――摩里も言っていた。
「奪衣婆に、片目の色を……」
叔母わらしは、腹を抱えるように笑った。
「あっははぁぁ、愉快だねぇ」
「駄賃を払わないとねぇ」
私はその時、何も持っていなかった。
事故だったのだ。
「何も、持っていなかったので……」
「奪衣婆は、門番さね。
川 の入り口、魂が行く場所だよ」
――そう、疑問だった。
私は、生きていた。
「私は……死んだのでしょうか?」
「いんや。肉体があるから戻された」
「駄賃に、半分持ってかれてねぇ」
私は、いったい――
「な、何を奪われたのでしょう?」
「命とか、魂とか、そういうものさねぇ」
「あたしら、物には無いものだねぇ」
「こっちに戻る時、欠けた分を補う為に
吸収したんだろうねぇ」
吸収?
魂や命の代わりに?
「……吸収ですか?」
「あそこは、何がいるか分からない」
「死んだものや、鬼、また別の……
神すらいるのかもねぇ」
叔母わらしは、また酒をあおり、
「そんな場所で坊やは、戻る為に」
「生きる為に、半分補った……」
「あっはっはぁ」
「何かは分からないよぉ」
「ただ――緑坊や、あんたは、歪になった」
ニヤつき、愉快そうに笑った。
…………!
よく分からない。
何かを補った、としか言えない。
チラッと横を見る。
二人も同じような、うわッ、コイツ的な
顔をしていた。
――事故、だから。
凛さんが、考え込むように口を開く。
「わらし様、その……加護というのは?」
「そのまんまさぁ。“鬼の加護”」
「あたしらみたいな物は、やすやすと
近付けないよぉ」
「守られている、という事でしょうか?」
「まぁ、守護か、呪いかは自由さね」
凛さんは、少し顔を引きつらせた。
「呪いですか……」
マッキーは、不思議そうに首を傾げる。
「……私も、ですか?」
叔母わらしは、マッキーをじっと視て、
「真希……あんたは……」
「亜子の匂いも、あるねぇ」
「亜子さんの……」
マッキーは、私と目が合った。
――鈴だ。
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「まぁ、亜子はあんたらに興味を
持ったんだろうねぇ。分からんでもない さ」
叔母わらしは腹を抱え、私達を見ながら、
「ヒッヒッ、あっはっは〜」
「歪な物と、加護を持つ人間……愉快さねぇ」
「特に、あの鬼達はね……」
引っ掛かる言い方に、私は問う。
「青鬼達は、何かあるのですか?」
叔母わらしは私達を見回して……
「あれはね、あの鬼達は、人間の世で
鬼神や雷神と言われる物さねぇ」
「化け物だよ。格が違う」
……! 鬼神、雷神……神様ですやん。
マッキーが、ボソリと。
「すぅちゃん、雷神さんなんですね」
私は同意する。
なんか雷神っぽいよね、すぅ。
「大猿亡き今、あれが目覚められると
厄介さねぇ」
私は亜子に聞こうとした。
「何かしらの動きが……」
叔母わらしは頷く。
「鳴いてるよ、あの山がねぇ」
「予兆かも知れないねぇ」
鳴いている、とは分からないが、
変化があるということだろう……
「仁さんにも……“鏡山の”、
主にも伝えた方が良いでしょうか」
難しい顔で、叔母わらしは言う。
「神の恩恵を受けちゃいるが……
あの場所、あの山でしか……ねぇ」
「あたしや亜子の範囲の、外さね……」
「主が全部倒れたら……次はどこだい?」
「緑の坊やぁ?」
……!
四つの山の次――
「麓にある、この街でしょうか?」
叔母わらしは、私達を見る目を強める。
「関わらざるを得ないさねぇ」
「緑の坊や、真希、凛」
酒を煽り、窓際へと歩く叔母わらし。
小さな背中が、少し哀愁を漂わせる。
窓から空を見上げ、にこやかに――
「今日は、月が綺麗さねぇ……」
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