境界線と禁
この裏山は広大だ。
広すぎて、何があるのか分からない。
今までは、人が入らないことで、
向こうからも干渉されなかった。
この神社が、山と人との境界線。
その役割を果たしてきた。
「緑、見てみろ。
また、増えてんな」
「……まぁ、敷地外ではあるが。
今まで、こんな事は無かったな」
手入れされた神社の庭。
そこから数メートル先。
山との境目に、
山烏の死体が無数に転がっていた。
「この山ではな、山烏は
危険を知らせる番人なんだ」
「これ以上入るな。
近づくな。
山の入口から最深部まで、
警告する役割がある」
ざっと見て、五十羽前後。
頭が無い。羽が無い。
くちばしが無い。目が抉られている。
原因は、分からない。
「何かに……襲われてますね?」
仁さんは、ゆっくり頷いた。
「そうだな。だが、何だろうな?」
「噛み千切る、突き刺す、抉る……
傷が、バラバラだ」
ますます、謎だ。
獣は基本、食うために殺す。
これは、明らかに違う。
欲のために殺す物の怪もいる。
だが――私の知る殺し方では無い。
「……分からない、ですね」
仁さんは首を振った。
「さっぱり分からん。
禁を犯した覚えも無いしな」
この山のルールは、単純だ。
無断で入るな。それだけ。
必ず山烏が警告する。
敷地外でも、触れれば禁を犯す。
だから今まで、
境界は守られてきた。
仁さんが、ちらりと私を見る。
「俺は、山と人間専門だ。
意味不明なのは、お前の専門だろ?」
……いや。
意味不明なのは、私も分からない。
「……一旦、戻りましょうか」
「そうだな」
そう言って、
私たちは神社の方へ引き返した。




