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それは、それとて  作者: 明日


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四章 青鬼家族








鏡の表面が、歪んだ水面のように揺れ、

次の瞬間――


目の前で、影の海が割れた。

踏み込む音。地面が沈み、石が跳ねる。


立ち上がった“それ”は、

私より遥かに高い位置に影を落としていた。


青く威圧感を放つ身体。

呼吸ひとつで、周囲の影が押し返される。

影の波が、近寄らない……近寄れない。


低く、腹に響く声が落ちた。

「緑……遅いぞ」

私を見つめ、笑いかけた。青鬼――イワオ。


「イカヅチ……」


聞き慣れた声と同時に、群がる影達は

黄色い光とともに、消し飛んだ。


「みどりん、激ピンチじゃん、ワロタ」


青く締まった身体にショートパンツ、

へそ出し、ピアスにブーツ姿の鬼ギャル――すぅ。

長く伸びた髪を後ろで結んでいる。

実際に会うのは久しぶりだな。


一つ変わったのは、すぅの腕に抱かれた、

六歳くらいの子供がいたことだ。

イワオとすぅの娘――ふぅだ。


「イワオ、すぅ、ふぅ……すまない。

 手を貸してくれ」


黒い影の海。

その中央だけが、ぽっかりと穴を空けていた。


あれほど騒がしかった影達も、

鬼の登場で動きを止め、静まり返っている。


山の主である亜子も、叔母わらしも、

格の違いに動けない。

いつの間にか、透明な壁も消えていた。


イワオとすぅが、私に歩み寄ってくる。

「物の争いに、巻き込まれたな、緑よ」

「あぁ。この山の主が、街を狙ってる」

イワオは、やれやれと苦笑した。


「みどりん、まだ先があるんじゃない?」

「多分……頂上だと思うんだが」

「ここは、うちらに任せなよ」

「すぅ……行けるのか?」


イワオとすぅは顔を見合わせ、笑った。

何を言ってんだと、すぅは私に――

「余裕」

と、親指を立てた。

私は、思わず笑ってしまった。


これだけの数、数千はいる影の群れを前に、

そう言えてしまう。余裕、か……。

「ふぅも、ごめんな」

「余裕」

青くて可愛らしい子供が、

すぅの真似をして親指を立てた。


「とりあえず、みどりん。

 この変な奴らの外まで飛ばすよ?」

「あ、あぁ……頼む」

飛ばす、とはよく分からないが、任せよう。


すぅが睨みを利かせながら言い放つ。

「おい……狐と座敷わらし。

 みどりんの邪魔したら、

 お前らの山ごと消えるからな」


亜子も叔母わらしも、頷くしかなかった。

「「……分かった」」


イワオは周囲を見回し、吠えた。

「オォォッ――!」

筋肉が膨れ上がり、青く燃えるように熱を持った煙が立ち上がる。

歩くだけで、周囲を後退させる圧がある。


「緑よ、先に行け。」

「ありがとう」


「ふぅ、みどりんと、

 あのバァバァども、向こう側まで飛ばしちゃいな」


「わかった~」


ふわりと、ふぅが浮かび上がり、

私の後ろに回り込んだ。


私の側を指差し、ふぅが言う。

「ばぁばぁども、こっち来て」

……ふぅ一応、山の偉い物の怪だからね。


亜子も叔母わらしも、

言われるがまま私の隣に立った。


この場に似つかわしくない、可愛らしい声で――

「パパ~、どこかわかんな~い」

「目印を出す。待ってなさい」

「イワ……ふぅに分かるように、全開よ」

「……分かっている」


動けない影達を正面に捉え、

頂上へ続く道を睨むイワオ。


拳を握り込み、地面に手首をめり込ませ、

一閃――振り上げた。

轟音とともに影の海が割れ、

抉れた地面が、針の山のように真っ直ぐ続いた。


それを見たふぅが、

「みどりん、行くよ~」


ふぅ、なんか……嫌な予感がした。


私は慌てて、近くのすぅに――

「マッキーと凛さんも頼む……」

「任せなよ~」

相変わらずの軽口が、やけに頼もしい。


ふぅが両手を突き出し、

「突風」

と呟いた瞬間、爆発的な風で押し出された。

「な、な……嘘だろ」


針の山の上を、ものすごい速度で飛ばされる。


山の斜面にぶつかりかけた、その時――

「軽」

亜子が、私達を浮かび上がらせた。


「なんとも、豪快な鬼の童子よな」

「とんでもないねぇ……」


私達はしばらく振り返り、

黄色い閃光と爆音が鳴り響く広場を見つめていた……。




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