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それは、それとて  作者: 明日


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三章 朽ちた、願いの残骸






村や集落の名残であろう場所を歩き出した。


建物の形跡はないが、石で囲われた、朽ち果てた井戸は確かにあった。


「石垣や井戸が数ヶ所……人が暮らしていたんだな。もうみる影もないが……」


「時の流れさぁ。今この時代に、こんな山奥で暮らす人など、いないよぉ」


叔母わらしは遠い目をする。

「遥か昔は、山の恵みを受け、人や物、

 神々が、山で生きていたんだがね」


時の流れと共に変わるものもあれば、

こうやって朽ちていく……

終わりを迎える場所も、当然ある。


無言で先頭を進む亜子の背中を追った。


ちょうど中間辺りを歩いていた頃、

人を形どった影が、一つ現れた。

何をするでもなく、ぽつんと私達を視ている。


気にも留めなかったが、影が増える……。

一つ、また一つ。私達は足を止めた。


「こ、これは?」

増え続ける影に、焦りを隠せない。

「ここで我らを、喰らうつもりか?」


まるで水面に立つ波紋のように、

辺り一面、黒い影が覆い尽くした……。


叔母わらしは周囲を見渡して、

「仕掛けてきたねぇ……この数は、ちと」


亜子が叫んだ。

「わらしっ、壁は作れるか?」

「この数だ……長くはないよぉ」


亜子と叔母わらしが、私の前と後ろに立ち、

両手を前に出して、

「壁」

と呟き、透明な円形の壁を作った……。


「緑、長くはないぞ。力を溜めておけ」

亜子は険しい顔で、辺り一面の影を視ていた……。


一体の影が、ゆらゆらと向かって来る。

近づくと姿が鮮明になり、黒い人形のようだった。


顔の部分に、ぽっかりと目と口らしき穴が空いている……。


パクパクと口を動かし……。

一体に呼応するように、


まるで黒い波となって押し寄せてくる……。


亜子は冷笑した。

「まるで海じゃな……影の海……」


影と透明な壁がぶつかる。

「バキンッ」


音を立て、壁に張り付き、覆われた。

「クッ……多すぎる」


透明な壁を引っ掻き、押し潰そうと蠢く数千の影達。


冷や汗が止まらない。

「あぁ……雨を降らせて……」


なんだ? 急に影が……。

「あの人と結ばれますように……」

「子が健康でありますように」


一斉に言葉を口にする。

「あいつが、死にますように」

「苦しんで、病で倒れますように」


これは……もう聞き取れない……。


叔母わらしが、汗を滴らせながら、

「人の願いと欲の塊さぁ……

 受け皿が消えて、行き場を失くし、形を成した」


願いと欲の塊……?


亜子も気づいたように、

「身勝手なものだな。必要な時は

 祀り称え、願う……この影達は吐き出された。

 祀られた物が力を失ったからな」


朽ちた像の後、集落、影、神――

いたんだ。称え、祀り、人が作った神が……

人が消えると同時に、忘れられた神が――。


「緑っ! 我らでは手に負えんぞ!」

「坊や、もう、ここしかないよぉ」

……分かっている。


出来れば呼びたくはなかった。

神社にいる皆を、守ってもらいたかったからな……。


私は胸ポケットから鏡を取り出し、

「イワオ、すぅ……すまない。手を貸してくれ……」


小さな鏡に波紋が立ち、

青い巨体が、姿を現した……




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