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それは、それとて  作者: 明日


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一章 別れと入り口と迷信







「よし!」


私は事務所の、私の机の中に封筒を入れ、

玄関の横にある、皆で撮った写真をみつめた。


緑屋も、一人だったのに大きくなったなぁ。


「カチャ」

鍵をかけ、駐車場に向かう……

マッキーに凛さん、摩里が待っていた。

「私の車で神社に向かいますね」

「うん、マッキー、気をつけて」

「緑さんも、気をつけて下さい」

「凛さんもね、仕事は任せたよ」

マッキーも凛さんも笑っていた。


「あんた、気をつけなさいよ」

「あぁ、摩里、先生によろしくと」

「分かってるわよ」


「じゃあ皆、危なくなったら逃げよう」

「いってきます」

「「いってらっしゃい」」


さぁ行こう。

それぞれ車を走らせた……。


イワオとすぅには、昨日鏡越しに話しておいた。


何時でも呼べと、力強い言葉をくれた。

小さな子供がいて、名をふぅと言う。

普通に話すし、歩いていた。

人の感覚とは違うようだ。鬼って凄いなぁ。


そんな事を考えながら車を走らせていると、

助手席に白い着物の亜子が座っている……。


「おはようございます」

「あぁ、別れは済ませたか」

「死ぬみたいじゃないですか」

「はっは……そうじゃのぅ」

まぁ……正直、帰れる気はしないな……。


「緑の坊や……敵の腹の中に入るからね」

「わらし様も、気をつけて下さい」

「おたがいにねぇ」


…………どうやって乗ったの?

全く気づかなかった。震える手で車を走らせる……。


ちょうど十時か。時計を確認して、

元帥山の麓、入り口に着いた。


山を見上げた……。

まるで人の手が入らない、暗い雰囲気。

どこまでも深い、不気味な山だった。


車の前で、亜子が山を見上げ、私に言う。

「行くぞ、緑」

叔母わらしも続く。

車のエンジンを切り、私も後を追いかけた……。


白髪、白い着物の女性。

古い着物で小さい、フルメイクのおばさん。

おしゃれ作業着の私が山を登る。

他の人が見たら、驚くだろうな……。


どうでも良いことを考えながら歩くと、

木々の隙間から、人の影が揺れている。


視られているな……あれが、この山の目か。

「視られておるな。もう気づいておる」

亜子が横目で影を確認した。


「物の怪と言うより、人に近い感じがしますね。この山は」


疑問だった。

黒い女も元人……元帥山は、

強い物の怪の気配が無い。

あの影も不気味で、どちらとも取れない存在……。


「大猿が言ってたのは、物に落ちた存在ってことさぁね」

「物に落ちた……」


物に落ちる?嫌な考えが過る……。

「神とかですかね……まさかですね」

笑ってしまった。流石にな……。


亜子と叔母わらしは、私を睨んだ。

「落神かも知れぬぞ……」

「この山の気配は、物のそれではないさ

ねぇ…」


おい、おい……元神とか冗談だろう……。

冷や汗が流れた……。


日が差し込むのに暗い山を、黙々と登る。

静寂が、足音を響かせる。

藪も岩も、塞ぐものは何もない。

導かれるように、進む方向を辿る。

息が上がりかけた頃、


白い霧が一面を覆う……私達は立ち止まった。

「霧ですか?」


亜子は鋭い目を霧に向けて、

「散」

と呟き、片手を振った。

霧は一瞬消えたが、

直ぐに、どこからともなく溢れ、また覆う。


叔母わらしは険しい顔で、

「通せんぼかねぇ……進むしかないね」


私達は歩きだし、霧を抜ける。

「霧は、なんだったのでしょうか?」

「分からぬな」


またしばらく歩くと、

霧が一面を覆う場所に辿りついた……。

「また霧ですね」


私が歩き出そうとすると、亜子が手で制した。どうしたのだろうか?


亜子が地面を見ながら話しかけた。

「緑……下を見ろ」


私は亜子の視線の先を辿る。

「私達の足跡……!」

「迷信かい? 古い手を使うじゃないか」


叔母わらしは目を細め、笑っている。

「わらし様、迷信とはなんですか?」

「山に取り込む時に使うもんさぁ」


亜子は霧を視つめたまま、

「山で人を迷わせる時に使うのだろう」

「迷わせる、なんのためですか?」

「喰うためだったり……遊ぶためだったりな……」


亜子は私を見ながら、笑っていた……。

純粋に怖いな……人の身からしたら。


「はっは……物のあたしらに使うとはねぇ。遊んでるのさぁ」

「緑の坊や……火はないかい?」

「火ですか?」

「山は火が苦手さ。燃やされちゃかなわないからねぇ。

 特にこの霧は」


「我は火は使えん。緑、中央を散らす程度でよい。

 それで消える」

「亜子様、わらし様、少し後ろへ」


下がるのを確認してから、右手の手袋を外した。


袖をまくり、黒い腕――赤く染まる指先が、

亜子と叔母わらしの目を引いた……。


軽く拳を握り、刻んだ呪印が繋がる。

「キュイン」

音を鳴らして呪印の力が、拳に集中する


真横に右腕を振るった。

前方一面に押し出す様に。

赤い指を擦り、呪印の力に着火する。


「ゴウッ」

一面の霧が燃え上がり、四散した

熱風が周りの木々を揺らし、

散った無数の葉が一瞬で燃え尽きる


後ろで視ていた亜子や叔母わらしは、

口元を歪め、……笑っていた


ーーーーー





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