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それは、それとて  作者: 明日


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122/129

前夜、向かう前







あれから――


みんなと集まった緑ビルの事務所で、

亜子と叔母わらし、そして私が元帥山へ向かうことになった。


マッキー、凛さん、摩里、先生は、

鏡心神社で仁さんと共に待機する。


私は上の空だった。

それでも、起こる現実に踏み留まっていた。


「神社にいれば、守りは出来る」


気がつくと仁さんがそう話していた。

叔母わらしと亜子は「二日後に」と言い残し、姿を消していた。


先生が小さく息を吐く。

「まさか、王の争いに巻き込まれるとはな……しかも街ごとだ」


全員の表情に不安が滲み、

室内に重たい沈黙が落ちた。


黙り込む私に、摩里が睨みつける。

「ちょっと、あんた。何か言いなよ」

「ああ……すまない。

 仁さんの神社にいれば守りはある。……大丈夫だ」


「緑」

仁さんが静かに呼ぶ。

「お前、何かあるな。……芯が無い」

――さすが神主だ。


私は何度も記憶を辿った。

だが、最後には何も残らない。


あの日、川に落ちる前の私。

父や母はいるのか。どうやって育ったのか。

写真も、形跡も、記憶もない。


刻は……何か知っているのだろうか。

まぁ、どちらにせよ、また会う。


隠しても仕方がない。死ぬかもしれないしな。


「仁さん」

私は、思ったより静かな声で言った。

「私は……誰なんでしょうか」


一瞬、空気が止まる。

「あんたは緑でしょ」

摩里が言う。


「緑は字名だよ

本名も、過去も、ある時点から無い」


摩里は、口を閉じた。


「あいつが言ったんですよ」

私は続けた。

「忘れ物を、思い出せたらいいなって」


……言葉にして、ようやく実感が追いつく。


一日考えた。答えは出なかった。

私は疲れていた。だから、思ってしまった。


――今、生きてる。

それでいいか。飽きたし考えるの

顔を上げると、全員が、私を見ていた。


……重い、空気が…


マッキーが、優しく言う。

「緑さんは、緑さんですよ」

凛さんも頷く。

「緑屋の社長です」


――うぅん?合わせよう、そうしなければ


「わ、私は……緑……」

仁さんが被せる。

「そうだ。お前は緑だ」

先生も続く。

「ここにいる全員が知っている」

「……そうだ。私は……緑」


私は、つい斜め上を見上げていた。

摩里が眉を寄せ

「……何で、上見てるの?」


マッキーも首を傾げる。

「薄目なのも、気になります」

「い、いや……」


凛さんが、真っ直ぐ私を見る。

「緑さん。今の記憶は、あるんですよね?」

――沈黙。


飽きたなんて言えない、もう一度だ

「……私は、緑…」


全員の視線が、冷えた。

次の瞬間、先生が呪符を放る。

「雷」

「アババァァ……すみません……」


その後、私は正座で詰められた。

「あんた、何だったの今の」

「皆に気を遣わせないでください」

「ごめんなさい……」


私は正直に言った。

「凄く悩みました。でも、途中で飽きてしま

って……

 特に害は無いので……さっき、どうでもよくなりました」


「アバババァァァ」


こうして私達は、

それぞれの不安を抱えたまま、

戦いに挑むのであった……。




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