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それは、それとて  作者: 明日


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121/129

たどる、記憶と空白







私が憑かれてから、時折、視線に気づく。


――視られている。

建物の影や、木々の隙間から……

人でも、物の怪でもない。

あの女の視線みたいで、不気味な視線……。


「ねぇ、見た? ニュース。電車で刺されたってやつ」

「見た、見た。怖いよね」


「ありがとうございました~」

コンビニの駐車場に止めた車に乗り、事務所へ向かう。


通りの街を眺めながら、ぽつりと呟く。

「増えたかな……」


街に住まう物の怪や、霊的な存在が増えた気がする……。



事務所のドアを開けて入る。

「おはよー」

「「おはようございます」」

先に二人が来ていて、私が最後だった。


「緑さん、ニュース見ました? 電車で刺されたの」

「見たよ。危ないよね」

「最近、物騒になりましたね」

……この街での違和感や視線。これは、もう


――。

「コン、コン」


「朝からお客様ですね」

「凛さん、私が出るよ」


玄関へ向かい、ドアを開けた。

六十代くらいの、スーツを着たおじいさんが立っていた。


「緑さんは、おりますかな?」

「はい。緑は私ですが?」

「少し話がありまして……」

話……依頼かな?

「中へどうぞ」


不安を与えないよう笑いかけ、事務所に通す。

ソファに案内すると、マッキーが気を利かせてくれた。

「お茶です。綺麗な着物ですね」


「ありがとうございます」

おじいさんは、マッキーに笑いかける。


…………着物?

スーツを着たおじいさんしかいないはずだが。


「黒子が……お世話になったようで」

黒子?

……誰だ、という言葉を呑み込む。


背筋がざわつき、私は二人に振り向いた。

「鏡を出して!」

そう叫ぶと、二人は私の顔を見て察し、すぐに動いた。


一瞬の静寂が広がる。


私は口を開いた。

「黒子とは、誰ですか?」


目の前のおじいさんは、若い男の姿へと変わっていく。

顔が溶けるように、切り替わる。


「クックク……おわかりでしょう?」

「黒い女のことですか?」



不安を押し殺し、冷静に、悟られないように。


「私は、とき。そう名乗っています」

「なぜ……私に?」


「緑さんだけではありません。

 今、すべての主に挨拶に行ってますよ。

 あなたは……別枠ですが…」


叔母わらしに亜子、仁さんにも……。


「いったい何が狙いだ?

 すべての山を治めることか?」


「全部ですよ。山も……」

笑いながらお茶を飲み、私を視つめる。


……「街も」


私は刻の目を視て悟った。もう、避けられない、話も何も無いだろう。


「私の山に招待しましょう」

「遠慮しますよ」

「でしたら、街に出向きます」

こいつ……笑いながら……。


「緑さん、降りられませんよ。

 君は、そちら側についたのだから」

「真紀さん、凛さん。

 こんな場所で、鬼を呼びますか?」

二人は、鏡を持つ手が震えている。


「では、三日後。元帥山で会いましょう」


刻は立ち上がり、

「あぁ、そうだ、術師のお二人もお誘い下さい。摩里さんに……清さん」


どこまで、そして、どこから視ていたのか。

冷や汗が流れる。


目の前の存在は、私を――見下しながら。


「忘れ物……思い出せたら良いな。

 名も、生まれも、親も……何もない物よ」


……そう言い残し、刻は消えていった。


その言葉で、胸に空白が広がる。

それも、今、気がついた。

刻の言葉で、記憶を遡る。


便利屋、緑屋、緑

……字名だ


私は誰なのだろう?


まるで、何もなかったかのように。

空白で、欠片もない――。





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