思考と義手と先生
呪印を刻めば、強化できる。
その言葉が、私の脳内で乱反射する……。
ただでさえサイボーグのような見た目だ。
……さっきの木製義手とは比べ物にならない。
今すぐにでも買いたい。着けてみたい。
だが……あまり食いついても、足元を見られる
表情には出さない。冷静に……。
「頑丈そうですね。着けてみても?」
「あぁ、かまわない」
先生は、義手を私の腕にはめ込んでくれた。
「カチッ」
音がして、吸い付くような感覚があった……。
「軽い……!」
手首を回し、指を一本ずつ動かす。
まるで、元からそこにあったかのように動いた。
「凄いですね……神経があるみたいに連動して動きます」
「簡単な呪は刻んである。強化と硬化だ。頑丈だぞ」
これは……普通に良い。使える。
しかも頑丈。…………だが、値段は?
探るように、ジャブを打つ。
「先生、お値段の方は?」
先生は、少し間を置いてから言った。
「今の状態で、三百万円だな」
……三百万円!?
車が買える金額だぞ……。
高い。高いが……買える。
いや、買えてしまう!
――今の状態で、という言い方。
つまり、まだオプションがある?
「……他にも、機能が?」
「まぁ……な。必要なら、呪印を刻める」
まだ、刻める……。
私は、思考の渦に飲み込まれた。
「先生、少し時間をください」
先生は頷き、奥の部屋へ戻っていった……。
摩里は、黙り込んだ私を楽しそうに見ている。
ビームは無理にしても……
やはり、爆破の呪符並みの火力が欲しい。
どうにかして、手から出せないのか?
「なぁ、摩里。爆破の呪符みたいに、義手に爆破の呪印って刻めないのか?」
摩里は少し考えてから言った。
「刻めるとは思うけど……手先で爆発が起こる。自爆よ。生身がもたないわ」
もしこの先、黒い女と同等の化け物と出会ったら……
間違いなく必要になる。
だが、自爆技では意味がない。
「自爆は……嫌だなぁ」
「今のままでも、接近戦主体のあんたには充分じゃない?」
「雷っていう呪符は? 痺れるやつ」
「あれも無理じゃないけど……身体に高圧電流が流れるようなものね」
「あたし達は紙に刻んで飛ばすの。相手に当てて起爆する。
あんたは距離が取れない。必ず手先で効果を出すことになる」
「……威力が弱いのも意味がないしな。
下手すりゃ、手足が吹き飛ぶ……」
摩里は、何かを思い出したように言った。
「焼け焦げた欠片だけが残るわよ」
それを聞いて、背筋がゾッとした。
そうこうしているうちに、先生が戻ってきた。
「どうだ、緑。決まったか?」
「はい。欲しいのですが……あと一歩、足りません」
「……ほう? あと一歩、とは?」
先生は眉をひそめる。
「爆破の呪符みたいな火力が欲しいです。
私の腕を奪った相手と、同等の敵と戦うな ら……」
「……生身がな、弾け飛ぶ」
「……ですよね」
「全身を覆う、甲冑みたいな形なら――」
「素材集めから組み上げるまで、何十年もかかる。
出来ないとは言わんがな」
うぅん……無理か?
惜しいな……あと一歩。
最高の義手を作ってもらいたい。
金は惜しまない。これは――命の値段だ。
「先生。最高の義手をお願いします」
「分かった。だが、予算は?
それに合わせて組み上げる」
私は一瞬も迷わなかった。
「……一千万円です」
………………。
二人の空気が、一変した。
「先生、あたしが手伝うこと、ありますか?」
摩里の瞳孔が、ガン開きだった。
先生は小さなテーブルに図面を広げ、
ぶつぶつと呟きながら、ペンで書き足していく……。
私は、しばらく動けなかった……。
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