呪具と現実
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……意味が、わからんな。滅するか?
正直な感想は、それだった。
目の前で床を転がり、悶絶している男。
馬鹿なのか、演技なのか。私は一瞬、判断に迷った。
術の基礎も知らず、呪符の理も理解していない。
力の流れを感じ取る素振りもない。
それなのに――生き残っている。
「呪具も無しでか?」
そう確認せずにはいられなかった。
摩里の答えは即座だった。
「はい。こいつ、馬鹿なんです」
……身も蓋もないが、否定できん。
打撃で“壊す”。
それも、霊的干渉を受ける存在を。
退魔の型も、術式も通さず、結果だけを叩き出すやり方。
それは――
術者でも、武人でもない。
(異物だな……)
半魔と呼ぶには違和感がある。人の枠にも収まらない。では、何か。
――空白だ。
何かが入るための“器”だけが、先に在る。
失った右腕に、再び視線を向ける。
あの欠損は代償だ。
本来なら、命を持っていかれている。
それ以外の説明が思い浮かばない。
摩里を見やる。
あの子は、まだ気付いていない。
だが、この男の傍は――危険だ。
守る者としては、
頼もしくもあり、最悪でもある。
だから、せめて。
目の届く場所に置くしかない。
私は静かに、結論を下した。
この男が何になるのか。
それを見届ける義務だけは――
どうやら、私に回ってきたらしい。
……まったく。
面倒なものを、連れてきてくれた。
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しばらく転がり続ける私を、哀れみの目で眺めていた先生。
……よし、ここだ!
「先生、いや……師匠。私に、力を……」
「いや……無理」
目をそらされた。
秒で!?
なにか、こう……あるだろう?
「視る限り、お前は力を使えん」
「そんな……! 馬鹿な」
一番、聞きたくなかった言葉だった。
何が使えないのかは分からないが、とにかく使えないらしい。
「そ、そうなのですか……」
落ち込み、崩れ落ちる私に、摩里が追撃する。
「当たり前じゃない。普通に無理よ!」
ニヤニヤしながら。
私はいったい、何をしにこんな場所で……。
……あれ?
何しに来たんだっけ?
立ち上がり、素直に聞いてみた。
「摩里、今日、何しに来たんだっけ?」
「……はぁ」
深いため息のあと、摩里は先生を見る。
「先生。こいつの義手、作ってくれませんか?」
「まぁ……作ってやらんでもないがなぁ」
……私は、義手を作りに来たのか。
先生を見つめ、私はしっかり頭を下げた。
「お願いします」
「ちょっと、待ってろ」
先生は奥の部屋へ歩いて行った。
小さなテーブルに座ると、摩里がお茶を入れてくれる。
「先生は一線は退いたけど、呪符や呪具の作り手としては、日本一よ」
「……なん、だと」
私は口をパクパクさせながら想像した。
義手からレーザービームが出る姿を。
最強じゃないか……!
イワオにも勝てるかもしれない。
いや、やっぱ無理か。
だが、強くなれる。ビームがあれば。
しばらくして、先生が木製の義手を持って戻ってきた。
掌に、仕込みナイフ。
「シュコ、シュコ」
「掌の部分から仕込みナイフが出る。自在に操作できるぞ」
…………。
盛大に、しらけた。
あんなのなら、普通の義手でいい。
説明する先生をよそに、私は小声で摩里に言う。
「……いらねぇ」
「お前、一回死ねよ」
「ガハッ」
肘が腹に叩き込まれた。
だが、本気でいらない。
「先生、あの……もう少しこう、近代的な義手と言いますか……」
先生は少し考えてから言った。
「あるにはあるが、値が張るぞ。
見た目で判断したのだがな……金はあるのか?」
「大丈夫ですよ。こいつ、金はありますから」
「そうか。部品が高い。安くはできんぞ」
まぁ、小金持ちではある。
次に出てきたのは、機械の腕だった。
複雑に組み込まれた金属。
指や関節も精巧で……なんかもう、それっぽい。
「これは凄いですね、先生……。
ビーム、出ますか? ナイフの代わりに、掌から」
期待を込めて聞いてみる。
「出るわけないだろう。……馬鹿なのか?
“呪”を刻めば強化はできるが、ビームなど出ん」
摩里は、ため息混じりに笑っている。
呪? 強化?
私の思考を察したのか、摩里が説明した。
「呪って、呪符に書いてあるでしょ。あの文字よ。
それを金属に刻んで、力を強化するの」
「あの、びっしり書いてある赤い文字?」
「そう。それ。力を込めて刻むから、呪印って言うのよ」
……え。
………格好よくない?




