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それは、それとて  作者: 明日


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新たなる力を信じて






――――――――――――

家に上がると、外の雰囲気とは違い、室内は質素で整っていた。


古い木の匂いと、かすかなお香の香りが混じっている。


「そこに座れ」

先生に指示され、私は正座する。

摩里も、私の隣で姿勢を正した。


先生は私達の前に座り、じっと私を見つめる。

視線が鋭い。

さっきの雷を思い出し、背筋が自然と伸びた。


「……緑、と言ったな」

「はい」

「まず聞く。お前、自分が“何”か分かっているか?」

「半魔……では、ないと思っています」


「不気味だな……」


私は強烈な言葉の寸勁をくらった。

先生は小さく息を吐き、私の全身をゆっくりと見た。

失った右腕にも、一瞬だけ視線が止まる。


「……歪だな」


心臓が、ドクンと鳴った。

「よくわからん存在だな……」

「……」

「自覚が無いのが、一番厄介だ」


摩里が、少しだけ身を乗り出す。

「先生、緑は――」

「黙れ」

短い一言で、摩里を制した。


「お前は、“力を借りている”だけだ。

 使っているつもりで、使われてもいる」


……な、なんだと?


私は驚愕している……!

誰に借りてるの? ……力って何?


あかん……わからん。

だが、分かったふりをするしかない。


私は真剣な眼差しで言った。

「自分の力を高めたくて、今日は先生の元へ参りました」

「力を高めるとは?」


………おっつっ!?

それっぽいことを言うんだ、緑よ。

この張り詰めた空気の中で、

知りません、分かりませんなど言えるはずもない。


「じゅ、呪符とか……ですか?」

私は無表情で聞いた。頼む、さされ。


先生は少し難しい顔をして言う。

「呪符か……使えればいいがな……」


この難所を乗り越えた私は、

摩里をチラ見した。


「チラッ」

何かに気付いたように、疑いの目を向けてくる。


摩里は鋭い。テキトーセンサーが敏感すぎる。


「あんた、前に使えなかったじゃない?呪符 それなのにさ、呪符の力を高めるの?」


先生は奇っ怪な顔をして私を見た。

「呪符を、使えないのか?」


クッ……覚えていたか。

恨めしそうに摩里を見上げると、ニヤニヤと見下してやがる。いや……待て!


あれから月日は流れた。

強敵との戦いで、私にも力が宿っているとしたら――否、宿っているはずだ。


私は摩里を余裕の目で見返し、

「先生、私は呪符を使えます……」


摩里は驚愕した。

「う、嘘よ。鍛錬もしてない奴が、力を使えるはずがないわ」


「フッ」

私は鼻で笑う。


おいおいお嬢ちゃん、人は日々進化してるんだぞ……。


「まあ……試せば分かる」

「窓際に置いてある訓練用の呪符が分かるか?」


私は窓際に視線を向けた。

「分かります……力を使えば、煙が出ます」

「なんだ! 知っているのか?」


「フッ」

私は再び鼻で笑う。

結果は分かりきっている。

摩里は、私を睨み続けている。


私は顔の前に片腕を伸ばし、構えた。

熟練の動きだ。何度練習したことか……。


二人は、私の静かな動きを目で追っている。

高まる緊張感。摩里の喉が鳴った。


私は力を込め、腹から声を出す。

優しく、はっきりと――


「滅っっ!」


五秒、十秒と時が経つ。

……三十秒、一分。


先生が口を開いた。

「……使えんじゃないか?」

「あれぇぇ……?」


私は苦笑いを浮かべた。

「えへっ」


次の瞬間――

「ボゴッ」


摩里の拳が、私の頭に振りおろされた。


「テキトーなこと言ってんじゃねーぞ! さっきから!」


私は頭を押さえて悶絶し、

「うぅぅん……うぅぅん……」

と静かに、二回、三回と床を転がる。

先生は完全に引いていた。


可哀想な奴を見る目で、傍観している。


摩里が言った。

「先生、こいつ何も分かってないですよ。

 呪符も力も。あたしが見たのは――

 打撃で破壊していました」


「呪具も無しでか?」

「はい。こいつ、馬鹿なんです」


先生は、まじまじと私を眺める。


「意味が、わからんなぁ……」

――――――――――――






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