かぜのせい
亜子の依頼が終わり、数日が過ぎた。
「緑さん、コーヒー飲みます?」
「ドア、開けましょうか?」
「う、うん、ありがとう」
……おかしい。
やたら二人が優しい。
なんとも言えないむず痒さが、ここ数日、私を襲っている。
別れ際、摩里が言っていた。
「緑、あたしの先生に会わせてあげる。
その腕……力になってくれるかも……」
明日、休みを使って約束の場所へ行くことにした。
まあ、生えることはないだろうが……。
退魔師の先生、摩里の師匠には凄く興味がある。
あわよくば弟子入りを狙っている私がいた。
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当日、摩里を乗せて案内してもらう。
「わざわざ、悪いな」
「いいわ。先生も、あんたに興味があるみたいだったから」
「どんな人なんだ、その先生は?」
「私達の間では有名よ。気難しい人ではないわ。フレンドリーでもないけど」
「そうなのか……」
そんな話をしているうちに、家や店が減り、街からだいぶ離れた田舎道を走っていた。
「あっ! そこよ」
小道を抜けると、古い長屋が一軒建っていた。
玄関周りには花が植えられ、綺麗に咲いている。
私達は車から降りた。
「清々しい場所だな」
「そうでしょ。あたし、何年もお世話になったわ」
歩き出した摩里は、慣れた手つきで玄関に置かれた小さな箱を開け、塩を足元に振った。
「……? どんな意味が……」
「魔除けみたいなものよ。仕事柄、家には清めて入れって言ってたわ」
……かっこいい。
歴戦の強者っぽい。
緑屋の事務所にも設置しよう。塩なら山ほどある。
私も真似て小さな木箱を開け、塩を一掴み足元に振った。
清められた気分になり、顔を上げようとした――
頭から、大量の塩をかけられた。
「ウェッ、ペッ、ぺ……!」
「先生!?」
声のする方を見ると、
頬に少し大きな傷がある、黒髪を後ろで束ねた、ラフな格好の綺麗な女性が立っていた。
「誰が、半魔を連れて来いと言った?」
「先生、お久しぶりです」
摩里は丁寧に頭を下げたが、
先生の視線は私から外れない。明らかに警戒している。
「先生、この前話した緑です」
「初めまして。便利屋、緑屋の緑です」
「……便利屋?」
先生は眉を寄せ、少し戸惑った様子だった。
「確か、摩里が助けられたと聞いたが……半魔だとは思わなかった」
「初めて見た時は、あたしも驚きました。でも、半魔というわけでもなさそうです」
摩里の言葉を聞いても、先生の表情は硬いまま。
「……失礼をした。すまない」
「私は、風ノ 清」
先生は右手を差し出した。
私は握手をしようとして、右手を出し――
肘から先が無いことに気付く。
「あっ!」
バランスを崩し、先生の方へ倒れ込んだ。
「チュッ」
唇と唇がぶつかった。
摩里は目を見開き、両手で口を塞ぐ。
先生は速かった。
私を蹴り飛ばし距離を取り、四枚の呪符を四方に放つ。
「封」
身体が、動かない。
さらにもう一枚、呪符が飛んできた。
「雷」
そう呟いた瞬間、視界が白く染まった。
「バッ、バッ、バァァ……ずいまぜん…」
身体が痙攣しながら、必死に謝罪する。
滅せられかけた私は、本当の強者を知った。
先生は私を睨みつけ、
「次やったら、事故でも殺す」
私は殺害予告を受けた。
「ドンッ」
ケツに重たい衝撃。
「お前、マジふざけんな……」
初対面で、二人を敵に回した。
「すみません。本当に事故なんです」
謝罪を繰り返し、
なんとか家に入れてもらえることになった……。
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