表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
それは、それとて  作者: 明日


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

114/129

温泉、完








私達が目を覚ました時には、もう緑さんと摩里ちゃんの姿はありませんでした。


 亜子さんからの依頼があると、朝早くに出かけたらしいです。


「凛さぁ〜ん、おはようございます」

「おはよう、真希ちゃん」


 昨日は遅くまで三人で起きていたのに、凛さんは朝からばっちりですね。


 朝風呂で温泉に入り、朝食を済ませてから、凛さんと露店巡りをしながらのんびり過ごしていると、あっという間に日が沈んでいました。


「緑さん達、遅いですね」


 凛さんは心配そうに時計を確認します。

「もう夕食の時間ですね。真希ちゃん、先に食べちゃう?」

「うーん……もう少し待ってみます?」


 その時――

「ピリリリ、ピリリリ」

 凛さんの電話が鳴りました。


「はい……摩里ちゃん?」


『凛さん、駐車場にいるんだけど……真希ちゃんと二人、手伝ってくれない?』


「……! 今から行きます」


 凛さんはすぐに立ち上がり、

「真希ちゃん、駐車場まで行きましょう」

「わ、わかりました」


 駐車場に着くと、摩里ちゃんが待っていました。

「ごめん……緑が急に倒れて……。とりあえず、部屋に運ぼう」


 三人でなんとか緑さんを部屋まで運び込みます。


 凛さんが右側を支えていた時、はっとしたように固まりました。


「……摩里ちゃん、何があったの?」


 凛さんの声が震えています。

「……緑さんの、右手がありません」

「……! え……?」


 摩里ちゃんは気まずそうに、ぽつぽつと話してくれました。


 亜子さんの依頼のこと。

 以前話していた、黒い女の人との再戦。


 そして――摩里ちゃんを庇って、致命的な傷を負ったこと。

「私を……庇って……」


 私達は、言葉を失いました。

 凛さんが、静かに口を開きます。


「……摩里ちゃん、とりあえず、その……傷は治ったのですよね?」

「ええ……傷痕は残ったけど……」


「顔色はいいですね。眠っているだけみたいですけど?」

「そうなのよね……」


 二人が話していると――

 ピクッ。

 緑さんの瞼が、わずかに動き、一瞬だけ開きました。

 ……!

 起きましたよね!?


「ごめんなさい……二人とも……あたしのせいで……」


 目を潤ませて謝る摩里ちゃん。

「……どうしようもないこと、だったのでは?」

「でも……あたしが油断したから……」


 ――これは。

 緑さん、気まずくて寝たふりしてますね。完全に起きるタイミングを逃しています。


 俯いて後悔する摩里ちゃん。

 私は凛さんの肘を、ちょん、と突いて、

ヒソヒソと。

「緑さん……起きてますよ。たぶん……」

「本当に……?」


 凛さんが緑さんを見つめると、

 瞼が、ピクピク。

「……! 起きてますね」

「ですよね」

 …………。


「緑は……強かったわ」

 摩里ちゃんが、ぽつりと続けます。

「あの化け物と、正面から殴り合って……打ち勝ったんだから」


 私と凛さんは、緑さんを注視していました。

 ――口元が、緩んでいます。

 摩里ちゃんに褒められて嬉しいのでしょう


 もっと言え、と言わんばかりに、堂々と寝たふりを続けています。


「あいつは……愚痴の一つも言わなかった。あたしのお陰で勝てた、なんてことも……」


 いや……もう、完全にニヤけてます。

 凛さんも気づいたようで、呆れた表情です。

「……頑張ったのですね」

「……えぇ……」

 凛さんは優しく場を整えるように言いました。


「……まずは、夕食に行きましょう。摩里ちゃん、真希ちゃん」


「そうですよ、摩里ちゃん。なにか食べないと。夕食、美味しいですよ」

「でも……まだ緑が……」


 私達は目を合わせて、声を揃えました。

「「緑さん、行きますよ」」

「……はぁ〜い……」

 ――普通に起きました。


「あんた……いつから気づいて……」

 そう言いながら、目潰しを仕掛けて――

「ぎゃあああ!」


 その後、若干の気まずさは残ったものの、

 私達は無事、いつもの「緑屋」に戻りました。


 失ったものは大きいけれど、

 守れたものがあるから――と。

 緑さんは、そう言って笑っていました。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ