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それは、それとて  作者: 明日


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113/129

摩里の車内から









白夜山から、宿へ向かう車内――。


私は片手運転をしていた。

非常に不便だ。

こういうことにも、

慣れなくてはならないのだろう。


そして問題は、金のりんごだ。


ズボンのポケットに入れてしまったのが、

完全に失敗だった。

左右のポケットが、りんごの大きさに膨らみしかも非常に重い。


カーブを曲がるたびに、ポケットの中で動く。

不快だ。

取り出したいが、片腕はハンドルから離せない。


私は、ひとりジレンマと戦っていた。


「やっぱり、右手……痛む?」


摩里が、こちらを気遣うように聞いてくる。


「えっ? あぁ……」


私は腰を少し動かし、バランスを取る。

その拍子に、ポケットの中で金のりんごが、地味に暴れた。


「あの時、一歩前に出なければ……

 もしかしたら、右手、あったかもね」


大きなカーブ。

また、金のりんごが揺れる。


「クッ……」


「だ、大丈夫?」


「あぁ、大丈夫だ。問題ない」


摩里は何かを思い返しているようだが、

こちらはそれどころじゃない。


――止まって取ればいいだろ?

――いや、止まったら負けみたいな気がする。


自問自答を、延々と繰り返していた。


「あたしは、まだ経験が足りないわ。

 あんたみたいに、あの化け物と殴り合うのは無理よ」


……えぇ?今、真剣な話?


「そ、そうか……」


「今回は、経験の差が出たわ。

 反省すること、たくさんあった」


「あぁ……私もな。今も、反省してるよ」


――なんで、こんな重いものをポケットに入れたんだ。


「怖くないの?」


摩里が、真剣な目でこちらを見る。


……これは、何かいいことを言う流れか?


「怖いさ。

 でもな、逃げることの方が、私は怖い。

 後悔するくらいなら、戦う……」


摩里が眉間にシワを寄せ、睨んできた

「ちょっと、話し方、臭くない?」


「……あんたさ。

 さっきから腕が痛いのかなって、気を使ってたけど、なんか違うみたいじゃない」


あぁ、もう、めんどくさい……!


「金のりんごがさ!

 ズボンのポケットに入ってるのよ!」


「カーブ曲がるたびに動くし、凄く不快でさ!

 片腕だから取り出せないし!」


「一回止まればいいんだけど、

 止まったら負けみたいな気がして、

 さっきから戦ってたんだよ! 自分と!」


「……はぁ?」


「こっちは真剣に、

 **あたしのせいかな**とか考えてたのに……」


「えぇ? どうしたって?」


「あんた、マジでふざけんなよ」


摩里は、完全に激怒していた。


……どうやら、盛大に地雷を踏んだらしい。



このまま走り続けても埒が明かない。

 私は道路脇の自販機の前に車を止めた。


ポケットから金のりんごを取り出し、

摩里に差し出す。

「摩里の分け前だから」


「……要らないわよ。足を引っ張っただけだし」

 そう言ってそっぽを向きながらも、彼女の手は正直に伸びている。

 ………。

 私は何も言わず、その手に金のりんごを乗せた。


 その瞬間――

「……クラッ」

 

視界が大きく揺れた。

 足元が定まらず、身体がふらふらと傾く。

「っ……」


 立っていられない。

 意識が、急速に遠のいていく。

「摩里……車、運転できるか?」

「……!? できるけど、なんで?」


 金のりんごを強く握りしめた摩里が、怪訝そうな表情で私を見つめてくる。


「すまない……後は、任せた……」


 それだけ告げて、私は必死に体を引きずり、後部座席へと潜り込んだ。


「ちょっと、どうしたのよ!」

 摩里の声が、やけに遠く聞こえる。

 ――そこで、私の意識は途切れた。








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