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それは、それとて  作者: 明日


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109/129

血と蜘蛛








「坊や……鬼の坊や」


冷や汗が背中を伝った……。


また、あの声が響く。

物の怪を喰らい、人でなくなった存在――。


「なぜ、私を……」


言いかけて、はっとする。

なぜ、ここに入れる!?


山の主・亜子や物の怪は、この湖の側には近づけないと言っていたはずだ。


不気味な存在は、私たちに向かって、ゆっくりと歩み寄ってくる。


「坊やは、ワタシと同じだからねぇ」


「同じ? 何がだ?」


「腹が減って、腹が減ってぇ」


「蜘蛛を喰った。甘くて、苦くて……

 腹が膨れて、形が変わる蜘蛛。喋る蜘蛛」


女の背から、脚が生えた。

六本。黒く、太く、尖っている。


「可愛らしい脚が、生えた」


愛おしそうに、その尖った脚を撫でる。


「喋る蜘蛛……魔獣を食べたの?」


「らしいな。人の形が変わるほど、だと……」


「……化け物じゃない」


「何故ここに入れるんだ?」


「そうよ。近づけないはずよ」


私たちと数メートルの距離で、黒い女は立ち止まった。

張り詰めた緊張感が流れる。


「ワタシは、人だよ……鬼の坊やぁ」


いや……もう人ではない。

完全な物の怪でもない。だからこそ、ここに入れたのだろう。


「不完全だから、入れた!?」


「中途半端な存在!」


黒い女は、裂けた口で笑い、ニヤリと歪んだ笑みを浮かべる。


「坊やは、ワタシと同じさぁ」


「中途半端だと、歪だと、言いたいのか?」


少し驚いた様子で、しかし嬉しそうに黒い女は頷く。


「歪、だねぇ。ワタシと同じ」


――以前、叔母わらしに言われた言葉が脳裏をよぎる。

半分、無い。

何かを取られ、何かを吸収した存在。


……それが、私。


「あんたと、遊びたいみたいよ。行ってきなよ?」


摩里の顔から、汗が流れ落ちている。


「坊や、こっちにおいでぇ」


「無理だな。行かないよ」


黒い女は、悲しそうに私を見つめた。


「なら、せめて……ワタシが、食べてあげる」


女の脚が動いた。


摩里の前に出て、重心を沈め、拳を構える。


「――シッ」


「ガキン!」


高速で脚が襲いかかる。右から、左から。


全部は弾けない。

顔に、腕に、脚に――掠り傷が増えていく。


「おぉぉ!」


拳の連打で、黒い女の連撃を弾き返す。


横薙ぎの一閃が私を襲う。

一瞬で飛び退いた。


「ブォン」


攻撃の風圧が、私の髪を揺らす。


「シュッ」


摩里が呪符を放った。

ドンッ、と爆発し、煙が辺りを覆う。


血が滲む身体を横目で見ながら、摩里が言う。


「早めに決めないと、持たないわね」


私は、拳が痺れ、体中に血が滲む、

「ああ。ギリギリだ……呪符を当てよう」


本当に、ギリギリだ。

イワオも、すぅも呼べないだろう。

完全に鬼だからな……。


煙が晴れる。


脚が身体を覆い、守るように構えた黒い女の姿。


「摩里、私が気を引く。当てられるか?」


「当てるしかないわよ」


「忌々しいねぇ……術の女ぁ」


速い!

一瞬で間合いを詰めてくる。


尖った脚が摩里を襲う。

拳で叩き落とす。


六本の脚を揃え、一つの槍のように突き出す。


ギリギリで躱し、黒い女の真横へ踏み込む。


空いている顔面へ、拳を叩き込んだ。


「シッ!」


「グチャッ!」


――入った。


黒い女は吹き飛び、悲鳴を上げる。


「摩里、今だ!」


振り返ると、すでに摩里は動いていた。


十枚の呪符が放たれ、黒い女に貼り付く。


「――滅っ」


「ドコンッ!!」


爆風が私たちを飲み込む。

凄まじい火力に砂煙が巻き上がり、私は咄嗟に顔を背けた……。




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