温泉、財宝を添えて
---
「な、なんだと……」
「う、嘘よ……」
狐の物の怪は、湯に入るのが好きで、日課だと言う。
いつも通り温泉に入り、身体を温めた後、整えるために水に浸かろうとした時――
川から引いている水風呂が、空だった。
私達は確認した。
手作りの石の温泉の横に、これも手作りの、空の石風呂がある。
「緑よ、見に行かせたが、石がな
邪魔しておる。われ達では入れん場所に」
私も摩里も、水風呂の水のためだけに、ここまで歩かされたことに驚愕した。
「勿論、報酬はあるぞ」
亜子は、リンゴほどの大きさの金塊を手に持っていた。
でかい……!
それを見た摩里は、
「山の王よ、私達はその依頼を
引き受けます」
やる気に満ち溢れていた。
私は小声で尋ねる。
「摩里、大丈夫なのか?」
「簡単よ。その岩を呪符で爆発させるから」
……そうか、簡単だな…
「ふん、名を聞いておこうか? おんな」
「退魔師、摩里」
「退魔師? あぁ、術師か」
どうやら、向こうも何か、知っているらしい。
報酬もある。これは仕事だ。
「その場所は?」
「ここから、しばらく小川を登った所じゃ」
摩里を見ると、彼女は強く頷いた。
「この依頼、引き受けました」
「おぉ~!」
今まで静かだった皆が、声を上げた。
「では、頼んだぞ。緑、摩里」
「「はいっ」」
こうして私達は、
財宝――金のリンゴ獲得
*ミッション・石爆破作戦*を開始した。
---
「案内しよう。緑よ、私はリョウだ」
和服の女が話しかけてくる。
その目は、黄色だった。
「リョウ、よろしく」
「こっちだ、来い」
私達はリョウについて行く。
屋敷を抜け、枯れた小川を辿る。
いつの間にか、狐に変わったリョウが先を歩いていた。
「あの報酬は大きいわよ、半分こよ!」
「分かってる。だが、温泉好きとはな……」
先を歩くリョウが振り返り、狐の姿のまま言う。
「我らも、亜子様も、湯は癒しだからね」
癒しか……人も物の怪も、近代の波に飲まれて行くのだな…
「ここから先、我は入れん。辿れば着く
任せたぞ、緑、摩里」
私達はリョウを見つめ、頷いた。
まだ先まで道は続いている。人の目では、まだ見えないな。
そこから三十分ほど歩いた。
湖の近くで、小川をせき止める大岩があった。
周囲を見渡すが、湖はとても静かだ。
「摩里、行けるか?」
「五枚も貼れば、吹き飛ぶわ」
私達は大岩に近づく。
「完全に川を塞いでるな。原因はこれだ」
「そうね。少し沈んでて、動かないわ」
「呪符を貼るわよ」
「ああ、任せた」
大岩に赤い呪符を貼り付け、少し距離を取る。
「本当に、何もいないな。動物はいるけど」
「静かね。魔獣の気配はないわ」
摩里は手を顔の前に構えた。
「……やるわよ」
「滅っ!」
叫んだ。一瞬の静寂の後…
「ドゴーン!!」
大きな音が響き、大岩が爆発した。
粉々になった石の隙間から、水が流れ出す。
凄い威力だ。
火力に、私は呆れた。
「凄いな、呪符は」
「まぁね」
水が流れるのを確認し、私達は来た道を戻る。
………………
「ひっひ、ひっひ……」
「可愛い、坊や」
その声に、一瞬で背筋が凍った。
私は叫ぶ。
「摩里っ、構えろ!!」
私の叫びに驚きつつも、摩里は一瞬で周囲を警戒する。
「魔獣とは、少し違う……不気味な気配」
「奴だ。私がぶっ飛ばされた……」
木の影から、あの時の――
長い黒髪、黒い着物、背の高い女が現れた。
口元を歪め、目を見開いて。
「……また会ったね、鬼の坊や……」
---




