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それは、それとて  作者: 明日


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101/129

屋上の空






---


鬼の加護、燃える呪符、鋼のシールド。

それらを手に入れたマッキーと凛さんなら、普通の物の怪ではまず歯が立たないだろう。


私は仁さんに頭を下げ、時間はかかるが鋼のシールドを用意する約束を取り付けた。

面倒くさそうな顔をしていたが。


あの化け物が偵察目的で来たこと、そして私を勧誘するつもりだったことについては、

皆の意見は一致していた。

私は大金を払い、摩里から赤い呪符を

まとめ買いした


ホクホク顔の摩里は連絡先を交換し、

「退魔師にとっても敵だからね。力は貸すよ」

そう言い残して帰っていった。


亜子や叔母わらしにも話を通さなければならない。

仁さんも同意してくれた。


「じゃあな、緑。気を付けろ」

「ありがとうございます、仁さんも」

「何か分かれば連絡する」


そう言って仁さんは頷き、マッキーと凛さんにも視線を向ける。


「真希さん、凛さんも用心を」

「仁さん、ありがとうございました」

「ありがとうございました。お気をつけて」


仁さんは手を振り、その場を後にした。


「明日まで入院だから、休みにしようか?」


そう声をかけると、凛さんは困ったように笑う。


「書類が溜まってしまうので」

「ねぇ、真希ちゃん?」


マッキーも続けて、

「出来る仕事はやっておきます」


無理はしないよう伝え、二人も帰っていった。


――さて、一人だ。


睡眠は十分。

身体は少し痛むが、初めての入院という状況に、どこか気持ちは浮き足立っていた。


朝食を終えた私は、退屈に好奇心と言う

スパイスが加わり

病院内を徘徊することにする。


割と大きな、十階建ての病院。

「ここが三階か……屋上まで行ってみよう」


リハビリがてら、階段を登り始めた。


綺麗に掃除された階段を、一歩一歩、身体の感覚を確かめながら登る。

四階、そして五階へ――。


その途中、手すりにしがみつき、項垂れている若者がいた。

半透明だ。


……見なかったことにしよう。


横目で確認した瞬間、

チラッ――目が合った。


不味い。


爽やかそうな顔立ちの半透明の青年が、ぱっと表情を明るくする。


「あ! 今、視ましたよね?」


聞こえない。私は今、真面目にリハビリ中だ。


「あー、屋上まで遠いなぁ。頑張ろう」

「絶対、視えてますよね? 目、合いましたよね?」


知らない。


「私は祐希って言います。どうすれば――」

「遠いなぁ……」


止まらず、階段を登る。


「いや、絶対聞こえてますよね?」


彼が私の肩に手を伸ばす。

だが――スカッ、と空を切った。


触れられない。

……うん、幽霊だな。


これは私の担当じゃない。完全に神主・仁さん案件だ。


それでも祐希は、独り言のように語り続ける。


「病気でした。余命宣告も受けてて」

「意識を失って……気付いたら、こうなってて」

「御臨終です、って……分かってるんですよ」

「でも、どこに行けばいいか分からなくて」


死んだことは、理解しているらしい。


そのとき――


「おはようございます」


白衣の看護師さんが、軽やかに私を追い越していった。


「あ、おはようございます」

「無理せず、お大事にしてくださいね」


柔らかな笑顔。

思わず見送ってしまう。


「……綺麗な人だなぁ」


そう呟き、ふと爽やか半透明、祐希のことを思い出して振り返った。


――――――


彼は、腰をかがめ、

非常に気持ちの悪い表情で、看護師さんの

スカートの中を覗いていた。


「……ブヒヒ……」




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