第125話 「狼姫と、脱衣所の囁き」
「なっ、ななななっ、なんで脱いでるんですかああああああっ!!??」
俺の叫びが脱衣所の入り口で木霊する。
何を隠そう、何も隠していない状態の朝日ヶ丘先輩が水着を脱いでいたからだ。
学園の生徒会長でアイドルの、金髪碧眼色白の小柄だけどとても大きな胸とその裸が、バッチリと俺の目に映ってしまったんだ。
「だ、脱衣所は脱ぐところだよーっっ!!??」
と、その場にしゃがみ込んで両腕で大きな胸を抱きしめて隠す朝日ヶ丘先輩。
その言い分はごもっともなのだが、今この場この瞬間においてはその通りじゃなかった。
「み、水着を着てるんですからそのまま入れば良いじゃないですか!? 俺もいるんですし!!」
と、叫ぶ俺。
混浴で貸切、そして水着とくればそのまま入ったって何も問題が無い筈だ。
ましてや男の俺が混じるんだからそれが当り前だと強く主張する。
「だってさっきビーチで砂に埋まったし、海にも入ったじゃん! 水着を着たままだと砂や海水でちゃんとお肌のケアができないもんっ!!」
「今はお肌のケアより温まる方が先だと思いますがっ!?」
「どっちも大切なんだよっ!!」
しかし朝日ヶ丘先輩も主張を曲げなかった。
確かに俺と朝日ヶ丘先輩はつい先ほどまでビーチで砂風呂に入っていたし、海に落ちたり波打ち際で水をかけられたりしていた。
だから全部脱いで内側も洗おうというのも間違いでは無いだろう。
ただしかし、ここに俺がいるのが大問題だった。
「お、俺がいるんですよ!? 朝日ヶ丘先輩はそれで良いんですかっ!?」
「だ、だから総一郎くんが入ってくる前に脱いでバスタオルを巻こうとしてたんだよっ!!」
「バスタオルを巻く前の思考から考え直してくださいよっ!?
年頃の男女がタオル一枚で同じ風呂に入るなんて問題も問題、大問題である。
その裸を見られなきゃセーフ理論は、流石に駄目だと思った。
朝日ヶ丘先輩、俺だって男なんですよ……。
「まあまあ二人とも。脱いでしまったのは仕方ないし、このまま平行線だと風邪をひいてしまうよ?」
「うわぁっ!?」
「り、莉子ちゃんっ!」
脱衣所の入り口で尻もちをついていた俺の両肩にそっと手を置いて、十七夜月先輩が耳元で静かに囁いてきた。
朝日ヶ丘先輩に必死で完全に意識から抜けていたので、思わず俺の身体がビクッと跳ねてしまう。
「ところで柳クン。ボクの大切な未来の裸を見て、他に言う事は無いのかい?」
「は、裸って……確かに、上は、その……すみません……」
「こ、興奮しちゃった……?」
そこを逃がすまいと十七夜月先輩が優しく上から体重をかけてきて、聞いてくる。
そして朝日ヶ丘先輩は何故この状況でそんな事を聞けるんですか……?
前には半裸の朝日ヶ丘先輩。
後ろからは水着姿の十七夜月先輩に挟まれている。
「さっきキミは、ボクも幸せになるべき。そう、言ったね?」
「な、何を……?」
そんな極限状態で言葉に詰まる俺に。
十七夜月先輩が、俺にだけ聞こえるような小さな声で――。
「喧嘩両成敗。ミンナで仲良く脱げば、この場は丸く収まると思わないかい?」
――甘くじっとりと、悪魔のように……そう、囁いてきたんだ。




