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いつもクールで完璧美人な孤高の狼姫が、実は寂しがり屋で甘えん坊な子犬姫だと俺だけが知っている  作者: ゆめいげつ
第六章 狼姫のお泊りラブリゾート 後編

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第126話 「狼姫と、バスタオル」

「こんなの、現行犯だろ……」


 俺の声が虚しく木霊する。

 適度な室温、適度な湿度、適度というには大きすぎる木製の浴槽があった。

 床に壁も天井ももちろん木製で、南の島だから流石に温泉では無いがそれでも十分すぎる程に木の良い匂いがする。

 唯一外へと続くガラス扉の窓の先ではごうごうと降りしきる雨風がまるで今の俺の心のようにざわつきまくっている。


『莉子ちゃん! 私が脱がしたげるね!』

『ふふ、未来は人の服を脱がせるのが本当に好きだね』

『ぽっぽちゃん。やっぱりお揃い、だね』

『お揃いでございますね』


 すりガラスの向こう側で、咲蓮たち女性陣が衣服を脱いでいるからである。

 その楽し気な声が筒抜けで、逃げるように先に浴室に来たのに気が気じゃなかったんだ。


 ビーチの時から気になっていたが、咲蓮と斑鳩宮さんは何がお揃いなんだ……!?


「……ほう。椅子や湯桶まで木製か。流石は十七夜月先輩だ。こだわってるな……」


 現実逃避するには、風呂場に備え付けられている身体を洗う時用の小さな椅子や桶を見て評論家みたいな事を言うしかなかった。

 家族風呂、というだけあってそれなりに大きいが大浴場という程ではない。

 身体を洗う用の椅子と桶、そしてその前に埋め込みの鏡が二つずつ。そしてその背面には全員が余裕で足を伸ばせて入れる大きさの浴槽があってと、自分で言っておいてすぐに訂正するのはアレだが一般的な家庭の風呂に比べれば三倍ぐらいに大きいと言えるだろう。


 しかし同時に、こうも思う。

 三倍の大きさの浴室に、男女合わせて五人が入るのは果たして適正な人数か――。


「総一郎?」

「うおなあおぉっ!?」


 ――なんて考える暇はなかった。

 俺の、俺の俺の俺の真後ろというか真隣りに、咲蓮が立っていたからで!?


「わっ。声、響くね」

「さ、ささささ咲蓮ーっ!?」


 バスタオルを身体に巻いた、咲蓮がいたんだ。

 白い肌に白のバスタオル。

 水着の時より露出度的には少なくなっている筈なのに、バスタオルの頂点部分にある胸のふくらみと色白の肩から目が離せない。


 そんな俺を咲蓮は恥ずかし気も無く、キョトンとした瞳で見上げてきていたんだ。


「もっ、もも、もう着替え終わったのか!?」

「うん。脱いで、巻くだけだから」

「そ、それもそうだな!?」


 大変だ、咲蓮がいる。

 バスタオル姿の咲蓮と、一緒の風呂場に俺はいる。

 さっきも言ったが本当に犯罪じゃないだろうか。


 年頃の、しかも好きな女性とほとんど裸同然のバスタオル姿で風呂に入るって、大犯罪じゃないだろうか。


「もー! 咲蓮ちゃんまた一人で先に行ってるっー!」

「ふふ。よっぽど柳クンの事が好きみたいだね」

「ラブユー、でございます」

「な、あ……っ!?」

「未来先輩。莉子先輩。ぽぽっちゃん」


 罪が、増えた。

 分かってはいたが、覚悟は出来ていなかったのである。

 すりガラスの引き戸がガラッと開いて、そこからバスタオル姿の先輩方が現れた。


「駄目だよ咲蓮ちゃん! 男の子はオオカミさんなんだからねっ! ひ、一人で油断してるとガオーだよガオー! まあ、それが、良いけどっ!」

「総一郎。お揃い、だね」

「あ、あまり真に受けないでくれ……」


 両手を挙げて少し怒ってます的なポーズをする朝日ヶ丘先輩。

 その小さくて可愛い身体には似つかわしくない程の暴力的な大きさの胸がとんでもなく強調されるようなバスタオル姿だった。

 その姿のせいでいつものツッコミが出来ない。

 

 何故なら今にもバスタオルがずり落ちそうなぐらいに膨らんだ朝日ヶ丘先輩の胸部によって気が気じゃなかったからである。


「おやおや妬けてしまうね。柳クン、ボクの未来を誘惑するなんて覚悟は出来てるのかい?」

「がおー」

「え、冤罪ですよ……!?」


 それを楽しそうに、十七夜月先輩が前かがみになりながら俺を見上げてくる。

 この中で一番細い身体だが背が高くスタイルも良くて、漆黒の髪と瞳とは正反対な肌の白さだ。

 確実に、それこそ咲蓮以上にあの際どすぎるV字水着からバスタオル姿になって露出度が極端に少なくなっている筈なのに、俺の胸はドキドキしっぱなしだった。


「柳様。入浴とは、疲れを取るのが主な目的でございます。そんなに視線を右往左往させていてはお目目様が疲れてしまいますよ。私の身体でお休みくださいませ」

「休むの?」

「休まりませんよっ!?」


 ヌッと俺と十七夜月先輩の間に挟まるように現れた斑鳩宮さんが俺を見上げる。

 長い銀色の前髪で半分隠れた顔からつり目がちな瞳が無表情に俺を見つめていた。

 もちろん先ほどまで着ていたマリンスポーツ用の全身のラインがピッチリ浮き出ているウェットスーツではないのだが、しっかりと巻かれたバスタオル姿のその膨らみと余白が俺に妙な想像を掻き立てるのだ。


「うんうん。総一郎くんもやっぱり思春期の男なんだね……!」

「分かってるならこの状況なんとかなりませんかね!?」

「あっはっは。そうはならないのはキミが一番知っているだろう?」

「うぐ……」


 分かったようにドヤ顔でその大きな胸の下で腕を組む朝日ヶ丘先輩は本当に目の毒なのでやめてほしい。

 そして俺の悲痛なツッコミも十七夜月先輩によって完封されてしまった。


 突然の大雨でずぶ濡れの俺達。

 そして逃げるように辿り着いたのは家族風呂で、しかも俺は朝日ヶ丘先輩の半裸を見てしまった。

 その贖罪として俺も、素直に服を脱いで入浴を決意したからである。


 ……いや、そもそも俺が脱いで……贖罪に、なるのか?


「総一郎。総一郎」

「……ん?」


 ふと頭の中に浮かんだ疑問が、咲蓮によってかき消される。

 灰色のウルフカットの美少女がするバスタオル姿の上目遣いは殺人的だった。

 咲蓮はジッと俺を無表情で見上げているが、付き合いの長い俺にはそれが何かを期待している瞳だという事が一発で分かる。


 それこそ咲蓮が俺の名前を連続で呼ぶ時は構ってほしい時のサインでもあるので、二重の意味で楽しんでいる様子だった。


「総一郎の背中。流したい」

「んんんっ!?」


 ただそれが、いつも通り過ぎたんだ。

 いつも通りのやり取りで、いつも通りじゃないこの浴室というシチュエーションを一瞬だけ忘れさせてしまって――。


「あっ! 私もーっ! 私も男の子の背中洗ってみたーいっ!!」

「おやおや。未来は洗われる方が好きな筈なのに、仕方ないね。じゃあボクも可愛い後輩の為に、一肌脱ごうじゃないか」

「お任せくださいませ柳様。専属女執事として培った洗体技術、お嬢様のお墨付きでございますよ」

「は、はいぃーっ!?」


 ――それにまさか先輩達まで乗っかって来るとは、思いもしなかったんだ。

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