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8:勝手に食べちゃダメでしょう

「畜生……! だが、約束は約束だ。作ってやろうじゃねえか! ステータスが1しかねえ赤ちゃんでも装備できる防具をよう!」


「ありがとう。信じてるよ、おじさん。それで、完成はいつ頃になりそうかな?」


「そうだな。……ざっと二週間。いや、三週間くれ。もしかしたら、もっとかかるかもな」


「意外とかかるな」


「あたりめぇだ! こんな依頼、前代未聞なんだ! 頭ン中にはもう構成は出来てるが、どこまで俺の想像通りのクオリティが出せるか……。そこが未知数だぜ」


 マジか……凄いな!

 ステータスが1しかない俺でも装備できる防具を、このおじさんは本気で作ろうとしているんだな。冗談かふざけているとしか思えない状況なのに、実際にそれでブチギレたのに……。

 やると決めたからには、すぐに職人としてのポテンシャルを最大限に活用して俺の要望に必死に答えようとしてくれている。


 いい鍛冶屋に出会えてよかった。

 なら俺も、手札を小出しにするのはやめた。この人にこそ是非とも、最高の装備を作ってもらいたい!


「ちなみに、俺が持ってるアイテムで何か他に使えそうな素材ないかな? ほらこれとか。たぶん魔物の牙なんだけど」


「……はァ!? 魔物の牙ァ!?」


「うん、五本あるよ」


「どうやってそんなもん取ってきたんだよ!? 魔物は倒したら消えるだろうが!」


「いやあ……実は俺、『レアドロップ』という固有スキル持ちでさ。魔物を倒すと稀にこういった希少なアイテムが手に入ることがあるんだけど、そのせいで【ステータス1固定】なんだよね」


「な、なんだそりゃ……? 本当か? デメリット付きのスキルなんて聞いたこともねえ。嘘じゃねえだろうな!?」


「……俺も、これまでの苦労が全部嘘だったならって、思う時があるよ」


 それを言うと、おじさんはむうと唸って、俺の失意を汲んでもう何も追求しては来なかった。

 やっぱりいい人だなあ。

 昨日の冒険者ギルドの男の人もいい人だったし、俺、この街が好きになってきたよ。


 なんであの村の住人達は、人を思いやることが出来なかったんだろうな……。まあいいけど。


「あ、あとこの緑色の鱗とかどう? めちゃくちゃ固くて、手のひらサイズだけど異様にずっしりしてるんだ。これも二枚あるんだけど」


「……わかったよ。全部置いてけ。使えそうなら、使ってやる」


「お、やった。それならライム。あれも出してくれ。なんか黒くて重い鉄球みたいなやつ。あれも二つあったよな。というか、もう全部出しちゃえ」


「いいよー。んあっ」


 ライムは上を向いて口の中に手をズボッ。

 言うまでもなく、おじさんは仰天していた。

 こうなるよなあと思いつつ、もうなんやかんやライムに吐き出させて、まとめて置いていった。


「お前らほんと……何もんなんだよ……!? もう、訳がわからねえ。死んだって三週間後にでかしてやるから、ちょっとそれまで黙って待ってろ! もうこれ以上変な情報よこすんじゃねえぞ!? 頭がパンクしちまう!」


「わかった。楽しみにしてる。それじゃ!」


 さてどうなるか。三週間後が待ち遠しい。

 出ていけというのでもうその場を後にして、これで俺の用事は完了したことになる。時計塔を確認したら、時刻は3時を回っていた。


 昼飯を食べずに動き回ってたからお腹すいたな……。

 ライムも付き合わせてたから、なんだか申し訳ない。


「ごめんライム、お腹すいたろう。ご飯にするか」


「ん? いや僕は大丈夫だよ。さっき、ひと足お先にごちそうになったから」


「え? ごちそうって……?」


 おかしいな、ライムに何か買い与えたことはない。色んな露天商の屋台をちらりと巡って来たけれど、鍛冶屋を見つけることを優先にしてたから買い物はまだこれからの予定だった。


 まさか、屋台に置いてある商品を勝手に食べちゃったか……?

 しまった、それは俺の判断ミスだ。ライムは魔物なんだから、商品の対価としてお金を支払うなんて人間のルールを理解しているはずもないのか。

 見た目がまるで人間の女の子なものだから、ライムが魔物であることをついつい失念してしまう。


「おいおい、勝手に置いてあるものを食べちゃだめだ。お金を払わなきゃ泥棒だからな。露店街に戻って、ライムが勝手に食べた分のお金を払いに行くぞ」


「えー、ダメだったの? タダ同然に転がってたから、ついつい食べちゃったよ」


「露天ってそういうもんだから。今度から食べたいものがあれば買ってあげるから、言ってくれよ」


「はーい。ごめんねマスター」


 でもさあ。とライムは言葉を続ける。見た目通りの子供らしく、可愛らしい言い訳でもするのかな。よしこい。頭ごなしに口を閉じさせるのは不平不満が募るしな。聞いてやろうではないか。


「なんだ?」


「でもこいつ、多分売物じゃなかったと思うんだよね。道の端っこに倒れてたし、近くに奴隷商もいなかったから奴隷じゃないし。うん、やっぱり普通に浮浪者だったよ」


 …………はい?

 いまライムはなんて言った? 倒れていた? 奴隷じゃない?

 普通に浮浪者……?


「え、何食ったの?」


「何ってそりゃ──」


「やめろ言うな! 聞きたくない!」


 そういえばさっきのライムは何かおかしかった。アイテムを全部出せって言ったのに、なぜか口から一つ一つ取り出していたんだ。

 ヘソからなら一気にどばーっと取り出せるはずなのに!


 ──まさか!


「ライム! ちょっと腹見せろ!」


「わ! わ! マスター! いきなり、きゃ!」


 問答無用で上着をめくる。すぐに白いすべすべの肌が見えて……そして、想定していたものとはいえ、あまり見たくないものまで見えてしまった。


 ヘソから、人の手が、生えてる。


「もう! 恥ずかしいよマスター! ちょっと詰まっちゃったから隠してたのにー!」


「バカ! 出せ出せ出せ! お腹に人間詰まらせる奴があるかーッ!!!」


 ライムのヘソから生える手を取って思い切り引っ張る。ライムは顔を真っ赤にして抗議するも、しぶしぶといった様子で、お腹の力を緩めてくれて、その人間をずるんと取り出すことに成功した。

 まだ形がある……よかった……。


 それに、よくよく見ればこの人、耳が長く銀色の髪をしている。

 俺の知識が正しければ……エルフだ。ライムに食われてたこの子は、エルフの女の子だ。背丈は俺よりも低いが、もしエルフなら見た目で年齢はわからない。もしかしたら倍以上は上かもしれない。


「う、ぐ……」


「あ、息をしてる……!?」


 しかも生きてる!

 すぐに抱き起こすと、間もなく、彼女の目は開かれた。

 長いまつげから覗く金色の瞳が印象的な子だ。顔だちもまるで彫刻のように左右対称で、奇麗だった。思わず見とれていると、ぽつりと、彼女の口が開かれる。


「……おなかが、空きました……」


 その発言を裏付けるようにぐうとなるエルフの腹の虫。

 このエルフは、空腹で倒れていたのか……。

 ライムが食べちゃったお詫びもあるし、俺も腹が減ってるし、ちょうどいいな。


「それなら、俺がごちそうするよ」


「え……ほ、本当ですか? ありがとうございます……はあ、助かった……」


 こうして唐突に、名も知らぬエルフの少女と少し遅いランチへと向かうこととなった。

 この街に来て俺は、誰かの優しさに触れる喜びを知った。だから俺も他人に対して、そういった親切が分け与えられる存在でありたい。空腹エルフを助けるのも、俺にできるささやかな親切だ。


「マスター! 僕も食べ損ねたせいでお腹すいた! 僕も行く!」


「もちろんだ。いくよライム。ただし、マジでもう人間は食うな。本当に。ダメ、ゼッタイ」


「ふんだ! 知らない!」


 なぜかライムはぷりぷり怒って、つんとした態度をとってくるのだった。

 いやでも人間食べさせたくないし……仕方ないだろ。

 ニンゲン、クウ、ダメ、ゼッタイ。

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