16:操縦せよ!巨大ゴーレム
俺が核となって、訓練の時のライムのように巨大なゴーレムを動かす。
いやライムが言うには、あれ以上に大きく強いらしい。そうでなければ、いまライムが死闘を繰り広げてるドラゴンを倒すことはできない。
何もしなければ、俺達はただただ殺されるのを待つだけだ。
……そんなの、やるしかないじゃないか。
正直、疑問がありすぎてもっと細かい説明をしっかり聞いた上で十分に考える時間を貰ってから結論を出したい。
だけどライムもドラゴンとの戦闘に集中しないと殺られるから説明してる暇なんてない。時間をかければかけるほどライムがおいつめられていく。時間なんてない。
核になると俺達はどうなるんだ? ちゃんと元通りに戻れるのか? それとも一生核のまま、ゴーレムとして生きていくことになるのか?
核になっても意識は保てるのか? ライムの操り人形みたいな感じにならないよな?
疑念は尽きない。
不安しかないから快諾は出来ないんだが……それでも、やらなきゃ死ぬなら、やるしかない。
『マスター! やろう!』
「ライト! やりましょう!」
それに、こんなに二人に後押しされて……ビビってたんじゃ男がすたるぜ。
「よし、やってやるぜ! ライム! 俺達を、ゴーレムの核として使ってくれ!」
『そうこなくっちゃ! これであのクソトカゲをボコボコにできる! 決断してくれてありがとうマスター!』
血の気が多いな。俺達の命よりも復讐心からそれを提案したわけじゃないよな……? まあいい。今更だし、どっちにしろだ!
「それで、具体的にはどうすりゃいいんだ?」
『二人には、僕の核を分けてあげるよ。それを持って、こう言うんだ! ──【カモン、ゴーレム】ってね!』
「なっ!?」
「え!?」
なん、だと……!?
思わずマナルナと顔を見合わせる。二人の気持ちは一つだった。
だ、だせえ……!!!
もっと別の呪文はなかったのか!?
『タイミングは僕が指示するから、頼むよ! 【カモン、ゴーレム】だからね! はいこれ僕の核!』
反論の余地はなかった。せめて別の呪文になんて、言い出せるはずもなかった。
ライムが言い終えた後に頭上にポンと丸い珠が現れた。白くて滑らかなそれを握りしめる。
「これがライムちゃんの核……。冷たくて悲しいのに、とても綺麗……」
マナルナもそれを両手で受け取り、愛おしそうに眺めていた。ライムの声はまだ響かない。今か今かと、緊張が走る……。
──そして唐突に、覚悟を決めさせられる。
『今だ! いくよ二人共!せーの! カモン、ゴーレム!』
「カモン、ゴーレム!」
「カモン、ゴーレム!」
唱えた瞬間、ライムの核がドクンと跳ねた。こぼさないように必死で押さえて……。
すると急激にライムの中が狭く感じるようになり、たちまちに身動きがとれないような窮屈さを覚え、息も苦しく……!?
「ぷはっ!?」
もがいた瞬間に、一気に体は解き放たれた。
何が起こったんだ……。見渡すと、そこがまずライムの中ではないことに気が付く。淡い光の中のようなライムの中とは違い、視界が岩で覆われていた。
「ふう、助かったよマスター。来てくれてありがとう」
その声に振り返ると、そこには座り込むライムの姿があった。
血にまみれていて、目は虚ろ。青髪がへにゃりとしおれて、満身創痍を体現していた。
「大丈夫か!? しっかりしろ! お前がこんなになるなんて……!」
「いてて……さすがはドラゴンだね。でも……これで、形勢逆転だね。見てよ。奴の警戒しきった顔」
ライムが指差す方向は一面が窓のように透明で、この岩の部屋がどういった場所になっておるのかをすぐに分からせてくれた。
「あれが、ドラゴン……!?」
「へへ、僕も結構頑張ったでしょ?」
窓から見えるのは赤い鱗に覆われた、巨大なドラゴン。太く強靭な二足で大地を踏みつけ、全てを粉砕するかのような剛腕。神々しささえ感じ取れた。
意識が吸い込まれる金色の瞳。だけど左目からは血が溢れ、まぶたを固く閉ざしている。
脇腹も流血が止まないでいるようだ。他にも数え切れない怪我や傷。骨折も見て取れた。
こんな小さな女の子が、ドラゴンをあそこまで追い詰めたというのか。自身もボロボロになりながら、相手にも同様にダメージを与え続けていたんだ。
身震いする。どうしようもなく、ライムを褒めちぎりたい。
だけどそれは、後でいいよな。
あのドラゴンを倒した後でな……!
「ふう、ここは……。うわ、ライムちゃん大丈夫!? 今癒やしてあげるから!」
マナルナも到着。
回復を受けたライムはよっこいしょと立ち上がり、うんと伸びをして、簡潔に説明する。
「ここはコックピット。ゴーレムの核である僕達の玉座だよ。今はゴーレムの頭部分だね。向こう側が透過して見えるけど、実際は分厚い岩石で守られてるから安心して。……それで、あいつが今回の敵。ドラゴンだよ。──さ、やっつけよう!」
「具体的には……どうやってゴーレムを動かせばいい?」
「念じるだけでいいよ。意識しやすいなら、足踏みしても構わない。とにかく、まずはゴーレムが動くことだけを考えて。動きさえすれば、僕がリードするから……マナルナは流石だね。既に出来上がってるんだもん。それじゃあ今はマスターのサポートお願いね!」
「わ、わかったわ!」
マナルナは出来てるのか? すげえな。
魔力操作が関係してるのかな? それに関して俺はからっきしだもんな……。
嘆いてもしょうがない。やってみるか。
念じる……歩け。歩け……。
意識を集中して、言われたとおりに足踏みも試してみる。こんなことで本当に動くのかと半信半疑だったが……すぐに実感へと変わった。
ズシィン……。
「あ、動いた……!」
「やった! 流石は僕のマスター! 自分も体を動かしたほうがイメージしやすいようだね。なら……走ってみよー!」
「え!? いきなり……いややってやるぞ! こ、こうか!?」
腿を上げてその場で走るイメージ。一人で何やってんだと思わなくもないが……これでちゃんとゴーレムのやつ動くんだもんなあ。
さっき一歩を踏み出したばかりの巨大ゴーレムが、あっという間に走り出した!
走ってドラゴンへと急接近! いや近づいて……どうする!? ライム!?
「マスター! そのまま助走をつけてぶん殴れー!」
「お、おりゃああああ!」
拳を振り上げ、打ち下ろす!
ゴーレムも全く同じタイミングで同じ動作を決行し、チョッピングライトでドラゴンの頭部を叩き割った!
鮮血とドラゴンの絶叫と、ライムの歓声が飛び交う。
「グギャアアアアアアアア!!!」
「凄いマスター! すごいすごい! 想像以上だよ!」
「ライムちゃん! 反撃がきます! 凄まじい憎悪の魔力の流動かドラゴンに渦巻いてる!」
俺とライムが二人で浮かれていると、すぐにマナルナが危険を察知した。
地上最強の魔物の反撃……。恐ろしすぎる。ただ突っ立っているわけにもいくまい。
「ライム、どうする!?」
「大丈夫だよ。ゴーレムは大きくなればなるほどその真価を発揮するんだ。……迎え撃つよ! 【アルティメットゴーレムキャノン】でね! マスター! 両手をドラゴンに合わせて!」
「そのネーミングセンスなんとかならないかなあ!?」
「ガアアアアアアア!!!」
瞬間、ドラゴンが宙を舞った! 翼を広げて俺達を見下ろし、大きく口を開けて……まるで、太陽のごとき熱量の火炎球を発射する──!?
いやこれは死ぬって! 逃げ場ないぞ!?
「言ったでしょ。迎え撃つって! マスター! 手ぇ!」
「お、おう! たのんだああああ!」
「いけー! ライムちゃん!」
瞬間、不思議な感覚に陥った。
三人の心が、確かに今、繋がったと確信できたのだ……。
三人の思いは一つ。
誰にも負ける気がしない──!
「ライム! いけえええ!」
「くらええええ! 【アルティメットゴーレムキャノン】!」
俺が手を掲げた先。ドラゴンに向けられた手のひらから、特大の閃光が放出された──!
太陽のような火炎球すら吹き飛ばし、ドラゴンも巻き込んでダンジョンを突き破る圧倒的破壊力。
──閃光が収まると、【アルティメットゴーレムキャノン】の軌跡の先から、太陽光が降り注いだ。
ダンジョンの最奥。
俺達だけが残された、この場所に、キラリと光るドラゴンの魔石。
それと、その横に佇む『レアドロップ』を添えて──。




