14:『レアドロップ』の検証
「多分人類には知られてないと思うけど、ゴーレムって僕と同種なんだよね。だからこの世のありとあらゆるスライムの化身である僕も当然、ゴーレムの能力が備わってるんだよ」
ある晩、ライムが青髪をロウソクに照らされながらそんな話をしたことがあった。
「へー」
俺の返事はそんな感じだった気がする。いつもこんなふうに喋りながらベッドに寝転がって、寝落ちするのが定番だった。そのときも俺は眠すぎて、そろそろ意識を保つのが限界だったのだ。
「マスター、これから色んな魔物を倒して『レアドロップ』狙っていくんでしょ?」
「んー」
「なら万が一に備えて、ある程度の魔物の動きはシュミレートしといた方がいいと思うんだよね。スライム系とゴーレム系ならとりあえず僕が再現できるから」
「おー」
「それじゃあ今度から訓練もやっていこうね! マスター、弱いのに戦いたがるから僕も守っていくのしんどくなりそうだし、少しでも自分の身を守れるように頑張ってね!」
「ぐー」
そこからゴーレムの行動パターンと戦い方をライムからレクチャーしてもらうこととなった。
ゴーレムは体内に核を持ち、そこを壊さない限り周りの鉱物を取り込んで何度でも立ち上がる人形の魔物だ。
ゴーレムの核のポテンシャルに応じてその大きさはまちまちだが、自重に比例して攻撃力は上がり、攻撃方法も多様化する。
俺はそんなゴーレムの最上級を想定した訓練を受け続けた。
ライム自身を核とした、山のように巨大なゴーレムを最初に見上げたときは膝が笑ったよ。ただパンチを繰り出すだけで地面にクレーターができた。ただの踏みつけで大地が揺れた。
今日まで、この訓練でライムに勝ったことは一度もない。
「まったくもう、いつまで経ってもよわよわマスターなんだから! ……まあでも、今の作戦は悪くなかったよ」
その日、ライムゴーレムの首と胴体を斬り離すことに成功した時。初めてライムが褒めてくれたのが自信になった。
ライムにも通用した作戦なら、通常のゴーレムにもそれは効果的なはずだ。
それを確かめるべく、俺達はダンジョンの奥地へと向かった──。
「ギチギチギチギチ!」
巨大なカマドウマに似た魔物が、洞窟の中を縦横無尽に駆け回り襲い来る。壁も天井も奴らの足場だ。立体的な動きに、本来なら苦戦を強いられていたところだろう。
カマドウマがその屈強で鋭利な双脚で空を切り、真空刃を飛ばす。不可視の斬撃が容赦なく俺の肉体に降りかかる。
ポスン。
軽く肩を叩かれたような衝撃に少し驚く。
「うわ、くそ。またやられた」
攻撃が当たった部分を手ではたき、カマドウマを睨む。首を傾げて、何が起こったのか理解できないで固まっているそんなカマドウマを、俺は容赦なく斬り伏せた。
「ギイイイ!?」
光となって魔石になるカマドウマ。
……ふう。ある程度魔物を倒しながら奥まで進んだが、ゴーレムはまだ見かけないな。ここいらで休憩の一つでもしたいものだ。
「ライト、お疲れさまです! 今、体力回復の魔力を流しますね」
「おお、助かる」
マナルナがそう言ったそばから元気が溢れてくる。さっきまでの疲れが嘘のようだ。
魔術……とは、性質が少し違うらしい。
人類が魔物に対抗するために編み出した、魔物の力を真似た技術体系を魔術と呼ぶのだけど、マナルナは自分の魔力をそのまま相手に流し込むことで疲労や傷の回復ができるというのだ。
エルフだからというわけではなく、どうもマナルナのオリジナルで、こっちの方が魔術よりも簡単で疲れないとのこと。俺としては違いがよくわからないが、マナルナが言うには、オリジナルの方はお腹が空くらしい。なんだいつものことじゃないか。
「それにしてもそのマントの性能、かなり凄いですね……」
「ああ、俺もめちゃくちゃ驚いてる」
あのカマドウマの真空刃。避けれるものは避けて対処していたが、その度に壁や床が鋭利に切り刻まれていた。
マント自体の頑丈さと、そこに付与された魔術を軽減させる機能が噛み合ってもう敵の攻撃の威力は攻撃とすらみなされないほど弱々しいものとなってしまっていた。
頼もしすぎる。
「よし、一息ついた。それじゃあ奥に進もう」
「ライムちゃんは、待たなくていいんですか?」
「ああ、ライムは大丈夫。バケモノみたいに強いから」
今回、このダンジョンの攻略において、ライムには別行動をとってもらっている。この程度なら俺とマナルナの二人だけでも命の心配はないとライムのお墨付きを得たし、いざというときは俺が『召喚の杖』を使えばライムはたちまち手元に戻ってくる。
常に一緒に居たほうがやはり安全ではあるが、こういった場合の『レアドロップ』の検証も兼ねているので、それを後回しにはできなかった。
まあ当然の通り、俺とマナルナが倒した魔物は一体残らずレアドロップなどしてくれなかった。三十体程度倒したにも関わらずだ。
やっぱりこの『レアドロップ』はパーティーを組んでいると効果を発揮してくれない。わかってはいたことだが、がっかりだな。
もし別行動をしているライムが、レアドロップを持ち帰ってこなかった場合……。
……どうしよう。
「あ……、ライト! 前方から何か来ます!」
「おう。って、あれは……! ゴーレムだ! やっと見つけたぞ!」
松明の光の範囲外の暗がりから、ノソノソと茶色いずんぐりむっくりな魔物が現れた。間違いない。ゴーレムだ。
通路全体を埋め尽くすほどの巨体。でも、ライムゴーレムよりは全然小さい。
いける――!
「マナルナ! 援護頼む!」
「任せてください! 『風の魔力よ魔物へ流動せよ』!」
どこからともなく、すさまじい追い風が俺の背中を押して吹き抜ける。逆にゴーレムにはひどい向かい風となって襲い掛かっていた。鈍い動きがさらにモタついてるぞ!
風に乗ってゴーレムの足元へ。股下を抜けて後ろに回り込み、そのすれ違いざまに左足を『ラピッドソード』で斬りつける。太ましい脛をスパっと爽快に分断した。
「ゴオ、ゴオオ……」
バランスを崩して前のめりに倒れるゴーレムは地面に手をついて何とかバランスをとる。だけどそんなうずくまった状態は、攻撃してくれと言わんばかりの格好の的だ。
「どりゃっ!」
隙だらけの首筋に刃を走らせ、ゴーレムは頭をボトリと落としてその動きを停止させた。
「やった!」
「まだだ!」
喜びの声をあげそうになるマナルナを制してすぐさま落下した頭に駆け寄る。
頭と体を両断して体が動かなくなった。ということは、ゴーレムの核は頭にある!
そんな頭を兜割りにして、さらに細かく刻んでやった。
「ゴオォ……」
ゴーレムは断末魔を残して光の粒子となって消えていった。
橙に光る魔石を拾って、これにて目標達成。
うん、ライムゴーレムよりも格段に戦いやすかったな。ライムの修行の実用性がこれで証明された。
「すごい! 素晴らしい動きでした! さすがライトです!」
「マナルマもナイスアシスト! いえーい」
互いに手を掲げて、ハイタッチ。
気味のよい音を鳴らして、気持ちよくクエスト終了だ。
「お。二人共、そっちは片付いたんだね」
「まあね。ライムもお疲れー」
「ライムちゃん、大丈夫でした? 怪我とかないですか?」
「もちろん。ぶいぶい」
両手でピースをして答えるライム。それから俺を見て……肩をすくめるのだった。
「怪我もなければ……落とし物も見つからなかったけどね」
「そ、そうか……それは、残念だな……」
そうか。落とし物……『レアドロップ』は、なかったか……。
俺がパーティーを組んでいる以上、たとえライムが一人で勝手に魔物を討伐しようが、俺の『レアドロップ』がそもそも無効になっているのだから、ライムの方でもアイテムが落ちることはないのか。
流石はソロ専用の最弱スキル。教会の教えにさえ100年の損失と書かれる欠陥スキル……。
俺はこれからもマナルナと一緒に冒険者をやっていきたい。仲間と力を合わせて戦う一体感は、何物にも代えがたい魅力だった。
だけど同時に『レアドロップ』を極めるという目標もある。とんでもない素材や武器が出現した時のワクワク……あれをもう二度と味わえないなんて、耐え難い。
この二つは俺にとって欠かせないものとなってしまった。だけどどうしてもその性質は相反する。水と油だ。決して交わらない……。
……はあ、まいったな。
「……ど、どうしたんですか? 二人共?」
「いや、なんでもない。さ、帰るか」
「うん、そだねー」
俺のスキルが『レアドロップ』であるというのはすでにマナルナにも伝えてある。デメリットとして【ステータス1固定】になることも知ってる。
だけど、パーティーを組むとその効果が無くなるとまでは教えていなかった。別に隠していたわけじゃないが、言い出す機会がなかったんだ。それでマナルナの『貪食』スキル判明事件。
ぶっちゃけ、判明する一週間前にこんなことだろうなとは想像していた。マナルナがシスターになれなかったときは冒険者になろうと誘うつもりだったんだ。だからすっかり言いそびれたし、もう言い出せなかった。
だって言えば遠慮したと思うからな。
だけどマジでこれ、どうしよ……。
「あ、マスター。危ないよ」
マナルナとのクエストを終えたら次の日はソロで行くとか? いいやそれだと日をまたぐような大きなクエストは受けれない。俺の体力的にも……うーん……。
え? なんだって? ライム?
「どうかした……か!?」
振り向くと、ライムが口を開ける。その喉の奥には、引き攣った顔をするマナルナが見えた。……へ? こいつまたマナルナ食ったの!?
何考えてんだ!?
そう思った瞬間――床が抜けた。
一瞬にしてキモが冷える。その浮遊感に体が固まってしまった。
「かなりの下層で眠ってた魔物が起きたみたいで、なんだか僕の魔力を察知して、縄張りを荒らされたと思って攻撃してきたんだよ。まあとりあえず、マスターもここで待ってて。すぐ終わらせるから」
落ちていく最中、ライムは平然と出来事を伝えてから、俺もペロリと食べたのだった。




