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お父さんと……


柚さんからの言葉を聞いた後莉華の母さんは冗談キツいよと笑っていたが柚さんと鈴菜さんは冗談じゃないと言う顔をしていた。 その後莉華の家で夕食を食べ家に帰り柚さんに言われた事を思い返していた。



「恋、どう思う?」


「…… どうなんだろ、私お父さんなんか死んじゃえばいいって何度も思った事はあったけど本当にそうなるのかな?」


「あの感じだと本当に冗談じゃなさそうだけど…… 多分ヤクザかその道の人に頼んだのかな? でも何でそんな伝手があるのかわかんないけど話を聞いた限りだと恋と同じような環境だったじゃないかな? だけど恋はどうしたい?」


「死ねばいい」




恋の口から冷たくその言葉が出た。 だけど恋の家族でもない俺がそんな事恋に言って欲しくないと思っていた。あんな酷い奴でも親は親だ…… すると恋は。



「だけど…… だけど本当はわからない、わからないの自分の気持ちが」


「だったら明後日行ってみよう? 恋の家に。 俺と一緒に」


「うん、春季君一緒に来て……」





そしてあっという間にその日になった。学校が終わると恋と一緒に電車へ乗り隣町へと向かう。 柚さんが電話していた後藤さんとは一体何者なんだろう? 表側の人とは思えないけど……



電車を降り恋の家へ歩く。 心なしか少し早歩きになっていた。 そして家が見え始めると数台の黒い車が停まっていた。 ヤクザっぽい……



停めてある車を横切って恋の家へ入ろうとすると声が掛けられた。 ビクッとして声の方向を向くと曇りガラスから厳ついその手の人が話し掛けてきたのだ。



「お兄ちゃん達、今立て込み中なんだ、後にしてもらえないか?」


「この家の関係者なんですが……」


「ちょっと待て」



すると車の中の男が電話を掛けた。 多分家の中にいる連中と連絡でも取っているのかもしれない。 そして……



「入っていいそうだ、ビックリすんなよ?」



そうして恐る恐る玄関に入り家の中の様子を見る。 争った形跡というか踏み荒らされた後と言っていいのか…… そして奥から呻き声のような声が聞こえた。



「ひぃッ!」




そしてリビングに入ると数人の黒服を着た如何にもな厳ついヤーさんに取り囲まれ床に蹲っている恋の父親の姿があった。 そして恋の声で黒服のヤーさんの1人が俺達に気付いた。



「おお、来たか。 まったく柚の奴、俺達を慈善事業だと勘違いしてんじゃねぇのか!? 俺は後藤だ、柚の古い知人でな。 そっちがこのクズの娘さんだな?」


その声に恋の父親が恋を見た。



「渚、てめぇこれで満足か? よくも……」


「てめぇ何喋ってんだ!?」



恋の父親が口を開いたので後藤が恋の父親の顔を蹴り上げた。 恋の父親は悶絶し顔を押さえて硬まる。その頭を後藤は乱暴に持ち上げ言った。




「いいか? クソ親父、てめぇはこれからうちの事務所に毎月この子の教育費を払いに来い、そんで学校にも入れさせろ? 一月でも滞ればてめぇは海に沈む事になる。 逃げたりサツにでもチクってみろ? 必ず探し出しててめぇに生まれてきた事を後悔させてやる、わかったか?」


「ひいッ、わかった! わかったよ!」



最後に後藤は恋の父親の頭を床に叩きつけ気絶させた。 そして一仕事終わったという感じでパンパンと手を払い俺達のもとへ来る。



「本当はこんな事に俺達は関わる事じゃねぇけど久し振りの柚の頼みだ、それと渚だっけ? 後はそこの奴お前らが片付けろ。 今後の約束は取り付けた。証明書もな、俺達は退散するからよ、行くぞてめぇら」



そう言って後藤は男を引き連れ帰って行った。 本当にヤクザだったんだ…… でもこれ以上の脅しはないかもしれない。 これなら恋の父親だって。 と恋を見ると家の掃除をせっせとしていた。



「恋?」


「あ、ああ。 家の中が散らかると片付けるの癖でつい…… なんかうちのお父さんバカだよね、私もだけど。 さっさとこんなになる前に痛い目見る前に了承すれば良かったのに。 そんなに…… そんなに私の面倒を見るのが嫌だったんだ。やっぱり私って必要ないのかな」




恋は片付けていた割れたビンを血が出るまで握りしめて泣いていた。



「恋、俺が居る。 例えそうだったとしても俺が恋を必要としているんだ、それじゃあダメか? 俺みたいな恋からしてみれば緩い環境で育った奴が言っても信用できないか?」


「春季君…… ごめん、ごめんなさい! そんなつもりで言ったんじゃないの、春季君の気持ちが嬉しい。 私春季君がそう思ってくれてるなら私を春季君が必要としているならそれでいい!」


俺は恋が握りしめていた手をゆっくりと開かせ割れたビンの破片をテーブルに置いた。 恋の手の平から真っ赤な血が溢れて床に落ちる。 手当しないと…… そう思った瞬間足首を掴まれ床に倒れた。

俺の足首を掴んだのは恋の父親だった。



「このクソガキ共、てめぇらとんでもねぇ奴ら連れて来やがって…… 」


「春季君!」



恋が父親の手から俺を離した。 そしてフラフラと恋の父親が立ち上がり俺達を見下ろす。 コイツあんなにボコボコにされてたのにしぶとくないか!?



「渚、てめぇは本当に疫病神だ、てめぇがいるせいで見ろ! 俺はこのザマだ! ああ、そうか、やっぱりその男騙し込んで入れ知恵されたか? だったらそいつは懲らしめてやらねぇとな」



「ダメッ!」


「どけッ!」


「あうッ」



恋の父親が裏拳で恋を思い切り殴り恋を吹っ飛ばした、父親が娘をあんなに容赦なく殴るのか!?



「恋!」



俺が恋に駆け寄ろうとすると襟を掴まれ腹に重い拳を入れられた。 あまりの痛さにくの字に体が曲がる。 ああ、痛いのってやっぱり嫌だ、だけどそんな事思ってる場合じゃない……



俺は痛みを我慢して恋の父親に掴みかかりそのまま押し倒し揉み合いになったが恋の父親の力は凄まじく馬乗りになられて俺は殴られた。 腕で拳を避けようとするがまた腹を殴られて腕が下がり殴られる。 ああ、下手したら俺死ぬ。 そう思った。 恋もそう思って家を飛び出したんだ、この時俺は初めて恋の感じた恐怖を思い知った。



だけどここで俺がやられたら恋はどうなる? コイツはどう見ても錯乱してる、恋に絶対被害が及ぶ。 そう思って床に転がっていた皿を拾い恋の父親の頭に叩きつけた。



恋の父親が少し怯み力が緩んだので俺は馬乗りの体勢から抜け出した。 だけど殴られ過ぎてクラクラする。 あっちはもう俺にまた殴りかかろうとしている…… ダメだと思った瞬間恋の父親の頭に衝撃が走り崩れ落ちた。



「私の…… 」


「え? 恋?」


「私の大切な春季君に何してくれてんだ!? てめぇーーーッ! ぶっ殺すぞぉ!?」


「れ、恋!?」



豹変した恋先程握りしめていたビンの破片を掴み父親の脚に刺した。



「ギャアッ!」



そしてもう片方の脚にも刺し破片を首筋に当てた。



「や、やめろッ、やめてくれ渚! 悪かった、俺が悪かった」



「フフッ、やっぱり私にもお父さんの血が流れてるね、こんな事でも容赦なく出来るようになったよ? 言葉遣いまで移っちゃった…… あんたみたいなお父さんでも私のお父さん。 さっきはやっぱりこんなんでも生きてて欲しいって思った、可哀想っても思った。 だけどね、春季君にこんな酷い事するならさ。死んで? お父さん」



ダメだ、恋! そう思い俺はすんでの所で恋の腕を掴んだ。



「は、春季君?」


「もういいよ。 これ以上やったら本当に死ぬよ。 俺恋にそんな事させられない、だから俺がやるよ」


「え? な、何を!?」



俺はキッチンにあった包丁を手に持ち恋の父親の目の前に迫る。



「お、おい、冗談だろ!?」


「は、春季君がそんな事する必要ないよ! やめて!」


「あるんだ……」



俺はそう言い壁際に追い詰められた恋の父親の顔に向けて包丁を振り下ろした。








だが包丁は恋の父親の頬をすれすれで擦り血が僅かに流れる。 危ない…… 俺もクラクラしてるから手元が狂ったら本当に殺してた。



「ひいぃッ、助けて」


「おい」


「ひいッ!」



俺は包丁を恋の父親に突きつけ言う。



「もう一度恋に酷い事してみろ? そうしたら今度は絶対殺す。 そしてさっきのヤクザと取り決めた約束は絶対守れ? わかったか?」


「俺が悪かった、だから許してくれッ!」


「わかったかって聞いてるんだ!!」


「わかったーーッ!」



そう聞いて俺は恋の父親を包丁の持ち手の部分で殴った。 よくわからなかったけど気絶したようだ……



力が抜けてその場にガクッと崩れ落ちた。


「春季君! だ、大丈夫!? じゃないよね…… 待ってて、今手当するから!」


「恋!」


「え?」


「その前に恋の父さんの手当してくれないか? 結構怪我してるし死んだら元も子もないだろ? お願いだ…… 」



恋はそんなのいいよと言ったけどそれはダメだ。 そうして渋々と父親の手当をして恋は俺の手当をし、家の中を一通り片付けた。



「は、春季君、私頭真っ白になっちゃって春季君にあんな酷い事したお父さんが許せなくて私…… 私本当にお父さんを殺す所だった。 私って醜いよね、やっぱりあのお父さんの娘だよね、春季君私の事…… 」



恋が言い終わる前に俺は恋を抱きしめた。



「ダメだよ恋、そんな風に考えるなよ?

恋は俺を守ろうとしてくれたんだろ? 俺の為にそう思ってくれた。 でも俺は死んでなんかいないしもういいだろ? あそこまで痛め付けたんだ、やり方は酷かったけど恋の父さんにちゃんと約束させたじゃないか?」


「う、うん」


「だから今日は帰ろう? 俺もフラフラだ」


「わ、私も帰っていいの?」


「当たり前だろ? ここは渚の家だけど恋の家はまだあのアパートだろ?」


「う、うん!」



派手に殴られた俺は電車の中でも目立ってしまったので腫れが引くまで学校を休む事にした。



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