私だって!
「おい恋、もうちょっとゆっくり歩けって!」
「…………」
「なぁ恋!」
恋はそう言うとバッと手を離しこちらに振り向いた。 そして俺はキッと睨む。
「私も確かに跡をつけるなんて非常識だったけど春季君、キスしようとしてた!」
「あ、あれはあんな風に言われて動けなくなって……」
「じゃあ私も!」
恋が澤村のように俺に近付き俺を見つめる。恋の大きな瞳が俺を捉え少し頬を赤く染めている恋の潤った唇が俺に近付く。
恋が俺の両肩を掴んで少し背伸びをして俺にキスをしようとした時恋は動きを止めた。俺から目を逸らしスッと離れる。
「私…… 何してるんだろう」
「恋……」
「ねえ、今どう思った?」
「どうって…… 凄く緊張した」
恋は俺の言葉を聞いてごめんなさいと言ってそのまま何も言わず家に帰った。 結局なんだったんだよ? 恋は夕飯を作りいつものように向かい合って食べていると携帯が鳴りメッセージが届いた。
「…… 見ちゃダメ。 ご飯食べて」
「わかってるよ」
夕飯を食べ終え恋が食器を洗っている時メッセージを開くと澤村からだった。 今日はありがとう、また遊ぼうねとさっき言ってたのにまた言ってくるとは……
なんて思っていると後ろに恋がいた。
「ねえ、今日澤村さんと何話した? もしかして春季君の家に遊びに来たいとかって言ってたりした?」
「なんでわかるんだ?」
「わかるよ…… そしたら私どうしたらいい? やっぱりいない方がいい?」
「いや、来ないように努力したけどさ」
今更澤村が来るから恋に出て行って欲しいなんて思えるはずがない。 でも恋に出て行って欲しくないなんて思ってるなんて俺、恋を引き止めてるみたいだ。
でも澤村に恋の事黙って付き合うってのもなんか違う気がする。 それは澤村に隠し事しているって事だからだ…… そもそも俺は澤村の事をどう思ってるんだ?確かに嬉しかったけど。
「私ってやっぱり厄介者だよね。 だって私がいなきゃこんな事で悩む事ないもんね」
「俺さ、最初は確かに恋の事そんな風に思った事もあったけどもう出て行って欲しいとか思ってない」
「でもそれだと春季君は澤村さんと……」
「確かに澤村にはドキッとしたけど俺もよくわかんないんだ。澤村にキスされそうになった時このまま行ったら俺と恋とのこの関係ってどうなるんだろうって思ったしさ」
行くあてがない恋と過ごしているうちに俺って恋に情でも湧いたのかな? このまま恋の事を放っておいて澤村と付き合う気にもなれないし……
「うん、そうだよな」
「え?」
「俺さ、こんな中途半端に恋の事置いて澤村と付き合うなんて出来ないよ。 なんか俺からしたら恋ってもうこの家に住む家族みたいな認識になってるのかな? なのに恋に自分が居たら邪魔かなって思われるような事したくないっていうか…… 澤村の気持ちは嬉しいけど俺ってそれに応えられる程の人間じゃないと思うんだ。 今だって恋を不安にさせただろ? だから……」
言葉を続けようとしたら恋に手で口を塞がれた。 なんだ? と思って恋を見ると恋は首を振った。
「そんな事ないよ、春季君に迷惑掛けてる事は本当だし、私こそ春季君が思ってる程いい人間じゃないもん、だって、だって…… 」
恋は何か言葉に詰まっている何か言いたい事があるようだけど言いたくないというかそんな感じだ。 そして恋は言葉を続けた。
「だけど春季君が私の事家族みたいにって思ってるって言ってくれたの本当に嬉しい。 でも私澤村さんと春季君が付き合ったら自分はどうなるんだろう?ってばかり考えて…… 自分の事ばかりしか考えてない最低な人間なの。 だから本当は春季君は澤村さんと付き合ったって何も私に思う事なんて何もないの。 ここまでお世話してくれてる春季君に酷い事してるのは私なの」
恋はそれでもやっぱり何か言い足りないのか何かムズムズしているように見えた。 でもコイツのそんな風にしている様子に俺はもう何も言わなくていいよと思った。じゃないと恋はまた居なくなりそうな気がしたから。 泣きそうな恋の頭を撫でた。
「え……?」
「無理しなくていいさ、だって俺も恋の立場だったらそうなるかもしれないしさ。 重要な事だもんな、そう思っちゃうのも仕方ない。一緒に住むからには俺だってそこを理解した上で恋をここに置かないとダメなのに俺こそ勝手だったよ、ごめんな。 もうこの話題よそうな? 誰が悪いと酷いとかかそういうのじゃないよ。恋だって悪くないし澤村だって悪くない」
「春季君…… そ、そんな事………… ううん…… わかった。 春季君、でも、でもそんな事言われたら好きになられちゃうよ」
「え? 誰に?」
「澤村さんに!」
恋は少し強めにそう言った。 そしてまたメッセージが届いた。 今度は涼からだった。 ふと恋の視線が気になったので涼からだよ? と画面を見せる。
「いいな……」
「え?」
「春季君が居ない時でも連絡取れるなんて」
「やっぱ携帯欲しいの?…… そりゃそうだよな」
そう言うと恋は首をブンブン振りここまでしてくれてるのにこれ以上ワガママ言えないと慌てていた。
だけど恋の気持ちはわかる。 携帯くらい持っていたいもんな、だけどもう一台欲しいなんて言ったらうちの親に怪しまれるし…… だけどハッと閃いた。
でもそれで恋に携帯持たせてやれるかわからない。涼で思い出したけどあいつ携帯買い換えて古い携帯はそのまま家に置いてたよなと思った。
涼に迷惑を掛けるかもしれないけど俺が金を出せば解決するかもしれない、それには涼に相談が必要だ、涼の親にも…… でも涼の親話がわかりそうだから協力してもらえるかもしれない。なので俺は明日涼に会う事にした。
そして次の日俺は恋と共に涼の家にお邪魔した。
「ごめん下さい、お邪魔します。涼居ますか?」
涼の母さんが出迎えてくれた。莉華の時もそうだったがコイツらの母さんってマジで美人だ……
「春季君いらっしゃい、あれ? そちらの子…… え?莉華ちゃん?! だって今……じゃないね……」
「あ、訳あって莉華から服貸してもらってるんです」
「ああ、なるほど。でも莉華ちゃんといい若い時の凛ちゃんみたいね、フフッ。お名前は?」
「恋って言います、は、初めまして」
「恋ちゃんかぁ、恋ちゃんに凛ちゃん、益々呼んだ感じも似てるわね。そんなに改まらなくていいのよ? 中に入って? 涼呼んでくるからね! あ、ところで恋ちゃんってもしかして春季君の彼女さんなのかな?」
「伶奈ちゃん、春季君って言った?」
「凛ちゃん、春季君が可愛い彼女さん連れて来たよ」
「あ、そっかぁ、伶奈ちゃんは初めましてだもんねぇ」
聞き覚えのある声…… するとこちらに向かって来たのはやはり莉華の母さんだった。涼の家に来てたのか。 てことは莉華まで来てないよな? いや、さっきのあの涼の母さんの反応、居るだろうな……
恒例の質問なので涼の母さんにはいえいえとやんわり否定したがじゃあ本当に訳ありねと涼の母さんはニコッと微笑んだ。 鋭いなぁと思ったけどそれなら話は聞いてくれるかな?と思った。
「春季君、私の為にそこまでしてくれなくても……」
「いいんだよ」
これで上手くいけば恋にも余計な心配を掛けなくて済むかもしれないしそうなれば俺も楽だし。こうして俺は恋に携帯を持たせてやりたいので涼に迷惑は承知で頼み事をする事になった。




