終章
背中から冷たく固い感触がした。目を開けてもあまり変わらないほどその場は漆黒に包まれた空間。悠真は身を起こすと、頭を打ったのか痛みが走ることに気付いた。しばらく馬鹿みたいにその場に座っていた。
暗闇に慣れた瞳に映るものは見慣れた道。ここは悠真が妖怪に引きずり込まれた場所だった。冷たい感触を与えていたのはコンクリート。地球にしかないコンクリート。
「戻ってきた!?」
何かを考える前に悠真は学校に向かって走っていた。明るくなったり、暗くなったりする道を無我夢中で走る。洞窟、森と妖怪に追われながらも通った道のせいで制服はズタボロ。それは今まで悠真が魔界に行っていた証拠で。
学校に走り込み、自分の教室に向かって何人もの仮装した生徒とすれ違った。そして、やっと自分の教室の扉を開けた。
「先輩!どうしたんですか?」
「へっ?は、原松?」
二年の教室にいたのは頭だけ片手に持った着ぐるみを着た芳季だった。それどころかその教室には悠真が知るクラスメイトが芳季以外誰もいなかった。
「先輩こそ何してたんすか?この一年間行方不明だったじゃないですか?」
「い、一年?一年俺はこの世界にいなかったのか?」
「は?大丈夫ですか?頭」
顔を真っ青にする悠真は芳季の何気に失礼な言葉を聞き流して、また全速で階段を下りる。本来なら悠真の上級生がいるはずの教室の扉を開ければそこには見知った友人。
「悠真!お前、戻ってきたのか?」
「うっそ!鷹崎君!久しぶりぃ!」
信じられない光景を目の当たりにして悠真の思考は停止する。
魔界に行って、たった半日しかたっていないはずなのだが、この世界では既に一年後のハロウィン。訳がわからないまま悠真はまた走り出す。今度は学校から出て、家に向かう。
靴とコンクリートがあたり、軽い音を響かせている。考えてみれば悠真が倒れていた所に落としたはずのアリスの衣装が無くなったいた。そんなことに何故気付かなかったと嘆き、彼はできる限り速く走る。あっという間に家に辿り着き、息を切らしながらも扉を開ける。
廊下には張り手を繰り出していた母親の姿はもうなく、リビングに行くとまだ仕事から帰っていないはずの父親が真澄と一緒にテレビを見ていた。
「父さん、母さん?」
不意に振り返ると二人は悠真の姿に硬直した。死んだ者を見るような引きつった表情で悠真を見て、二人は立ち上がる。
「悠ちゃん!嘘!北朝鮮に拉致られたんじゃなかったの!?」
ずるっ
真澄の思いがけない言葉に思わず体勢を崩した。まだダメージが抜けきれないうちに今度は真也が彼に一発かます。
「真澄、帰ってきたんだからいいんじゃないか。で?お土産はないのか?」
どごっ
今度は頭を床に打ち付けた。じんじんと痛みがでこに響く。すると階段を下りる音が悠真の耳に入った。顔を上げるとすぐに二つの影がリビングに入ってきた。
「母さん、さっきからうるさ…………」
「ユーマ兄ちゃん!北朝鮮にいたんじゃ……、大丈夫?顔が死んでるよ?」
誰に会ってもそんなことを言われれば流石の悠真も相当堪える。想定外の出来事が起こり過ぎて悠真は頭痛を起こした。その場に脱力してへたり込むと静真がつんつんと身体をつついた。その度にくすぐったいのか身体をぴくぴく動かす悠真。
「やめろ、静真。この一年間のことはちゃんと悠真に聞かないとわからないだろ?おい!大丈夫か?」
透真は悠真の腕を掴んで身体を支えてあげる。彼は瞳に涙を溜めて複雑な気持ちで思いきり叫んだ。
「どうなってるんだぁぁぁぁぁああああ!!!!」
何故、このようなことが起きたのか。それを知るのは次に悠真が魔界に行った時。
とりあえず、お疲れ様です。
第一シリーズ終了です。いかがだったでしょうか?ここまでが私と友達で作った卒業小説です。私が文章で友達が挿し絵だったんですが、友達は結局表紙と一ページしか挿し絵を描きませんでした。
この先の話は勝手に私一人で進めていったんですが、あまり設定を考えていなかったので、途中で断念しました。それをこの機会に考え直して完成させたいです!
感想評価を頂けると非常に嬉しいです!よろしくお願いします!
三亜野雪子