表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Night-mare  作者: せつ
PR
32/32

最終章 Night-mare

 まだ肌寒い日。しんみりとした空気が最近では多く流れている。黒い筒を片手に悠真は三年間世話になった校舎を見つめる。見渡せば同じ学年の人達が顔を真っ赤にして涙を流していた。

 今日は卒業式で、高校生最後の日だ。無事に悠真は進学も決まり、先の期待と不安を持った状態で高校を後にした。


「先輩!」


 後ろから聞こえた声にとっさに振り替える。顔を見る前に呼びかけられた相手はもう理解していた。思った以上に深い付き合いになった後輩、原松芳季だ。同じ筒をもった状態で駆け寄る彼に悠真は微笑む。


「もう、先に帰んないで下さいよ!」


「だって、もうやることないし。それにちょっと俺浮いてるだろ?」


「あれ、そんなこと気にするタイプでしたっけ?」


「お前、最近いい性格してるよ」


 他愛無いこの会話がいつの間にか心地よい時間になっていることを彼は知らない。けれど、こういった普通の出来事が、本当に大切なことなんだと、最近気付き始めた。高校生、青春の時代とはよく言うものだが、悠真にとっては違う意味で特別なものだった。


「うっわ、先輩ボタン一個もないじゃないっすか!」


「あ?こんなん半分くらいふざけで男子が取ってっただけだぞ?」


あぁ、地味に先輩狙いの人が頑張って取ったんすね…。


 忘れてはいたが、彼は女にも男にも地味にモテる。鈍感な悠真に想いを密かに寄せる男子達を憐れみ、芳季は苦笑した。それでも半分は女子から取られているわけで、それはもう本当にモテているのでは、と地味に今更考える。

 一方悠真は長くなってきた髪をそろそろ切ろうかと全くもって関係のないことを考えていた。邪魔くさそうに髪を払えば、芳季は一瞬見えたものに目を見開いた。


「先輩刺青なんかしてたんすね」


「へ?」


 首の付け根。自分では鏡を使わないと見えないその場所に黒く、独特な刺青が彫られている。今までその存在に全く気付かなかった芳季はは興味津々で見つめていた。

 しかし、悠真の記憶の中には入れ墨を彫ったことなんてない。首を傾げていると、一つだけ思い当たるものがあった。

 それは、一昨年の十月。この世界ではない場所で行った儀式。彼を、この世界と他の世界を繋ぐ証拠。


そっか、魔界との契約だ!


 ありえない、と思った。門は閉じられ、この世界と魔界と天界はそれぞれに繋がりを切ったはずなのに、それでも彼はまだ魔界との繋がりを断ち切れていない。それは、普通なら考えられない出来事だった。

 だけど、悠真は気づいた。門は完全に機能を停止したわけじゃなく、一時的に休止しているだけなのだと。それは、彼自身が門に呟いた事実。


じゃぁ、もしかしたら───。


 一つだけ、彼の頭の中に希望が生まれる。そう考えたらいてもたってもいられなくなった。


「ごめん、原松。また今度ゆっくり話そうぜ」


「え?あ、先輩!」


 走り出した彼に呆然とする芳季に心の中でもう一度謝り、彼は駅に向かう。まだ時間は昼前で、今から急げばそう暗くならないうちに着けるだろう。

 思い立った瞬間に電車に乗り込み、一息つく。一応家には友達の家に泊まるかも、と連絡だけして悠真は座ることもしないで窓から外を眺めた。




 薄暗い道をひたすらに歩く。平坦ではない道はバランスを崩しやすく、早く行きたくてもあまりスピードは出せない。それでも心なしか早足に道を進んでいく。もう、随分と来ていなかったこの場所。あの時から一度も…。それでも昨日のことのように道が理解出来た。訪れたのはたった二回のはずなのに。

 それほど彼にとっては特別で、意味深な場所だった。忘れたくても忘れられないほどの大切な場所。


「ここだ」


 やっと辿り着いた時には既に四時を回っていた。確信と共に彼はある場所に手を伸ばした。見るからに何もないその場所に、何かあると信じて。しかし、その手はやはり空を掴んだだけで、何かを触れることはなかった。

 暫く、悠真は止まった。泣き出しそうな表情を何もない所に投げかけて、辛そうに目を細める。


そうだ、例えいつか力が戻るとしても。

俺が生きている間にそうなるとは限らない。


 この世界と魔界。それは今までの経験で時間の流れが極端に違うことが理解できる。悠真が魔界に行く時、門を使わなければ同じ波動の魔力が流れる日まで彼は帰ることは出来ない。魔界にいる時間が一週間、一ヶ月、一年であっても、帰れる日は変わらないのだ。そんな常識外れない場所にある門がいつ直るのか、そんなもの彼には見当がつかない。


「はは、馬鹿だな。俺」


 早とちりしたことが恥ずかしかったのか、自嘲して座り込む。ちゃんと考えればわかることだった。そんな簡単なことが考え付かないほど彼は魔界に恋焦がれていた。魔界だけじゃない、天界にも。世界という区切りではなく、その世界にいる者達と会いたくて仕方がなかった。


「はは、あんな世界…最初は悪夢だと思ったのにな」


 行った瞬間に訳のわからない生物に襲われ、魂をくれとねだられる。知っているものは誰もいない。それどころか、知っている生物がいない世界。

 正直、もう死んでしまうんだと、何度も逃げることを諦めた。完全に諦めた瞬間、彼に訪れたのは死ではなく、紫がかった青い炎の救い。彼等と同じ妖怪でありながらも悠真を助けた紫との出会い。


「そうだ、考えてみれば俺が魔界に行って、紫ちゃんに会えたのは…全て柳龍一がきっかけだったんだ」


 その出会いがなければ紫が悠真を助けることはなかった。彼はもしかしたら魔界で死んでいたかもしれない。あの時はまだ魔力の使い方も知らなくて、一人では彼は魔力を出せも出来ない。あの世界が魔界だと知らずに人生を終えていたかもしれない。


「はは、本当俺だせー」


 一人だと何も出来ない。今も魔界のこと、天界のことが何も分からない。そんなこと当たり前なのだが、それが無性に無能な気がしてならない。


「会いたい」


 相変わらず魂を求めてくる形状もわからない妖怪がうじゃうじゃいるあの世界に。

 面白いことが好きで、陽気に笑いながらも何よりも魔界のことを考えている魔王がいる世界に。

 抜殻茶が好きで、にこにこと清楚な雰囲気だが、おそらく誰よりも強く残酷な魔王のお付がいる世界に。

 無愛想だが、誰よりも世話好きで、その優しさ故に負わなくてもいい闇を背負う、心優しき妖怪がいるあの世界に。


「今すぐ、行きたいのにっ!」


 強い欲望。純粋に望むそれは、人が持つ最大の能力。そして、彼のそれは何よりも強い───魔力。

 暗くなったはずのその場所に淡い光が灯る。驚愕を隠せない表情で顔を上げればそこには見覚えのある扉が姿を現した。その光は次第に強くなり、ゆっくりと扉を開いていく。まるで時が止まったかのように静かに彼は扉の中に入って行った。




 目の前に広がるのは雲で覆われた空。昼間とは思えない暗さだが、夜とも思えない明るさを保つそれに悠真は心を震わせた。そして確信する、確かに来たのだと。

 身を起こせばそこは霧が立ち込める森の中。悠真の体には毒にしかならないが、今はそれでも感動を覚えてしまう。立ち上がり身体についた土を払うと周囲を見渡した。しかし、辺りにある木が大き過ぎて目標の物が見つからない。仕方なく歩きやすい方へ適当に足を進めた。

 木々の隙間から覗いた光を頼りに歩けば、見慣れぬ場所に辿り着く。魔界には似合わない澄み切った湖。家一軒程の大きさのそれはあの城からでも見た覚えはない。


「湖?」


 彼の頭に過るのは、大切な人の哀しい記憶。無くなったはずの存在。だけど、確かに目の前にある。もしかしたらここは魔界じゃないのか、と不安を抱いた瞬間だった。


「お前がいなくなった後、溢れ出したんだ。龍一の贈り物かもな」


 響いた言葉に身体を震わせた。振り返ればずっと会いたかったその人物が、木の枝の上に座っていた。


「何て顔してるんだ?お前」


「紫…ちゃん?」


「だから、ちゃん付けするな」


 変わらない態度に感動を覚えた。姿も、声も、言葉遣いも、態度も、確かに一年ずっと思い続けていた人物。歓喜が込み上げ、思わず涙する。

 走り出した時には紫は木の下に降りていて、何も考えずに彼に飛びついた。これには予想もしてなかったのか、紫はそのまま倒れて、地面に沈む。


「お前、変わってないな」


「ごめん、でも、俺…もうここに来れないと思ってたから」


 涙声の彼に苦笑して、紫は身を起こす。悠真も涙を強引に袖で拭って、顔を上げて、下手くそに笑った。


「俺は、いつか来ると思ってた。お前なら、な」


「俺、そんなすごくないけど」


「いや」


 充分すごいだろ。苦笑で呟いた紫の言葉に首を傾げて、また笑う。透き通った湖に視線を向ければ、いつの間にかそこには見慣れた三人が佇んでいた。

 先ほどと同じように走り出した悠真を見つめながら紫は空を眺める。毎日変わることの曇り空。どんよりとした魔界に一つ現われたのは、綺麗な湖。




まるで、あいつのことを世界に知らせているような…。




 そこまで考えて、彼は失笑する。今ではすっかり慣れてしまったあの騒がしい四人の元に、ゆっくりと歩み寄る。

 いつまでも、変わらないこの風景に幸せというものを感じながら───。






純粋な力。


純粋な心。


何よりも世界に影響を与え、何よりも世界に幸福をもたらせる存在。


いつからか、そう定義が変わる。




それが、“Night-mare”










えっと、何気に謎残したまま終わってしまいました。力不足ですね。

悠真が魔界に来てまた歪みが起きないのかとか、どうして門が反応したのかとか、あはは。


一応設定的には、門が反応したのは、彼が門の魔力と同じ波動の魔力を自ら発動させて、無意識に力を与えたからです。それにより、門は「人を魔界に送った」という判断ではなく、魔界の魔力と同じ魔力を持っていたため「魔界のものを魔界に戻した」という考えで魔界に送られたわけです。

それでも少しばかり歪みが起こる可能性はありますが、門の力を封じるほどの影響は出ない。


という感じです。私もちゃんと細かい場所まで設定を考えていなかったのもあり、矛盾が生じている気がしますが、わからないことがありましたらお気軽に申してください。

では、約2年の連載でしたが、ここまでお付き合いして頂きありがとうございます。

できれば一言下さると嬉しいです。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ネット小説ランキング>サスペンス部門>「Night-mare」に投票 ネット小説の人気投票です。投票していただけると励みになります。(月1回)
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ