第24話:名演技(物理)と、伝説の舞台
「――我が覇道、阻む者なし! 天下布武の名の元に、魔の者よ、道を空けい!!」
わしがステージの中央で、信長公のごとく堂々と見得を切る。 観客席からは「おおおおっ! シゲオ王、かっこいいぃぃっ!」と割れんばかりの歓声が上がった。
その時である。 ステージの奥から、地響きと共に『それ』が現れた。 全長数十メートルはあろうかという、禍々しい漆黒の鱗を持った巨大なドラゴン。鋭い牙の間からは、チロチロと本物の業火が漏れ出ている。
「おおっ! リナちゃんの作った3Dのホログラム映像、めちゃくちゃリアルじゃな! 着ぐるみより迫力あるぞ!」
わしは完全にCG(特殊効果)だと勘違いし、目を輝かせた。 古代竜は、眠りを妨げられた怒りからか『ギャルルルルルッ!!』と鼓膜が破れそうなほどの咆哮を上げ、わしに向かって巨大な爪を振り下ろしてきた。
「はっはっは、迫真の演技じゃ! よし、わしも応えねばな!」
わしは台本通りに、古代竜の攻撃を(CGだと思っているので)ヒョイッと避ける演技をしつつ、その巨大な顔面に向かって、軽く素手でパンチを入れた。 もちろん、ホログラムに触れるだけのつもりだった。
ゴキャァァァァァァァァァンッ!!!
空気が爆発したような轟音。 わしのレベル999の物理打撃(※ただのツッコミ程度の威力)が顔面にクリーンヒットした本物の古代竜は、一瞬で白目を剥き、脳震盪を起こしてドスーンッ!! とステージ上に倒れ伏した。
「……えっ? ホログラムなのに、触れた?」
わしが自分の拳を見つめて首を傾げていると、静まり返っていた観客席から、地鳴りのような歓声と拍手が沸き起こった。
「す、すげぇぇぇっ!! 生きた古代竜を、余興のために用意して、しかもワンパンで沈めたぞぉぉっ!」 「これがシゲオ王の日常……! なんという圧倒的な力だ!!」
観客たちは恐怖と感動で涙を流し、一斉にスタンディングオベーションを始めた。
「あ、あれ? これ、そういう劇だっけ?」
わしが困惑している間に、古代竜が倒れた衝撃でステージの足場が半壊してしまった。 「シ、シゲオ様! 危ないです!」とヒロインたちが慌てて駆け寄ってくる。 結局、舞台はメチャクチャになり、わしが一番楽しみにしていた『ヒロインとの感動のキスシーン』は、完全に有耶無耶になってしまったのである。
「……ちがう。わしはただ、可愛い女の子と舞台の上でチューしたかっただけなんじゃあぁぁっ!」
生きた古代竜をワンパンで沈めるという伝説の神話だけが後世に語り継がれ、わしのささやかな青春の夢は、またしても幻と消えたのであった。




