第1話:異世界デビューと異常気象
「おお……! なんという新鮮な空気じゃ!」
光が収まり、わしが降り立ったのは、見渡す限りの大自然――鬱蒼と茂る巨大な樹木に囲まれた、いかにもファンタジーな森の中だった。 水たまりに映る自分の顔を覗き込むと、そこには黒髪で爽やかな、18歳ほどの青年の姿があった。腰も痛くないし、膝も笑わない。体が羽のように軽い。
「素晴らしい……! これなら女の子と一日中歩き回っても疲れることはないぞ!」
わしは喜びのあまり、両腕を大きく広げて、異世界の澄んだ空気を胸いっぱいに吸い込んだ。
ゴオォォォォォォォォ……ッ!!!
「……ん?」
深呼吸をした瞬間、周囲の空気が急激に重くなった。 生ぬるい風が突風へと変わり、さっきまで晴天だった空にあっという間に黒雲が立ち込める。
「むっ……この急激な気圧の低下はなんじゃ? まるで、いわきや北茨城の辺りで、発達した低気圧が直撃した時のような……いや、それ以上の急降下じゃぞ」
生前、日々の体調管理のために気圧の変化をこまめにチェックしていたわしの感覚が、異常事態を告げていた。 よく見ると、わしが息を吸い込むたびに、周囲の空気が渦を巻いてわしの体へと吸い込まれ、逆に息を吐き出すと、凄まじい衝撃波となって木々をなぎ倒しているではないか。
「まさか……わしが呼吸するだけで、大気の魔力バランスが崩れて異常気象を引き起こしておるのか!?」
女神様が言っていた『レベル999の極大魔力圧縮』。 どうやらわしの体は、存在するだけで周囲の環境に影響を与えてしまう、歩く自然災害のような状態になっているらしい。
「い、いかん! こんなに気圧を乱高下させたら、女の子が偏頭痛を起こしてしまうではないか! そんなことになったら、デートどころではないぞ!」
わしは慌てて息を止め、体の中から溢れ出ようとする魔力(どうやらこれがオーラのように漏れ出ているらしい)を、ギュッと内側に閉じ込めるイメージを持った。 『……ふんぬっ!』と丹田に力を込めると、黒雲は嘘のように霧散し、再び穏やかな森の静寂が戻ってきた。
「ふぅ、危ないところじゃった。青春の第一歩は、まず自分の魔力を抑え込むことからじゃな……」
わしがホッと胸を撫で下ろして歩き出そうとした、その時だった。
『ギャアアアアアアアッ!!』
森の奥から、鼓膜をつんざくような巨大な獣の咆哮と、金属が激しくぶつかり合うような轟音が響いてきた。
「む? 誰か戦っておるのか?」
青春の出会いは、いつだって唐突に訪れるものだ。 わしは期待に胸を膨らませながら、音がした方向へと駆け出した。




