第11話:辺境スローライフのつもりが、戦国式・国家錬成
学園の大会で、指一本動かさずに『圧倒的な覇王』として優勝してしまったわしは、後日、王宮へと呼び出されていた。 玉座に座る国王陛下が、畏れ多いものを見るような目でわしに語りかける。
「シゲオ殿。此度の圧倒的な武の証明、見事であった。そなたの力はもはや国家の宝。望む褒美をとらすが、何がよいか?」
(キターーーッ! 権力者からの『なんでも願いを叶えてやろう』イベント!)
わしは心の中でガッツポーズをした。 すでに学園では「触れるだけで相手を消滅させる覇王」として扱われ、普通の青春など絶望的になっていた。ならば、ここは戦略的撤退である。 空気の綺麗な田舎で、趣味の盆栽でもいじりながら、可愛い女の子たちと温泉に浸かるスローライフを送るのじゃ!
「陛下。わし……いや、俺は、静かな生活を望んでいます。ですので、どこか人が少なくて、自然豊かな辺境の土地を少しばかり頂けないでしょうか」 「……なに?」
国王が絶句した。そして、玉座の隣に立つ宰相と顔を見合わせ、信じられないというようにワナワナと震え始めた。
「そ、そなた……わざわざ自ら、未開で魔物が蔓延る『最果ての魔境』を開拓し、我が国の防波堤となってくれるというのか……!? なんという気高さ、なんという無私の精神!」 「えっ? いや、わしはただ温泉を掘って盆栽を……」 「相分かった! シゲオ殿を辺境伯に任命し、東の魔境一帯をすべて領地として与えよう!」
こうしてわしは、アリア、リナ、そして新たに加わったチヨの三人を連れて、荒れ果てた寒村へと赴任することになってしまった。
到着した村は、まさに寒村だった。 流通は死んでおり、村人は怯えながら細々と畑を耕している。これでは、美味しいお茶菓子を取り寄せることもできない。
「うーむ、これはいかん。わしの快適なスローライフのために、少しばかりテコ入れが必要じゃな」
わしは前世で読み漁った歴史書や、時代劇の知識を引っ張り出した。 そうだ。かつてわしのいた世界で、戦国の覇王や名将たちが行っていた政策を真似ればいいんじゃ!
わしは領主の館(という名のボロボロの木組みの家)に村人たちと三人を集めた。
「まずは、この村に出入りする商人からの税を撤廃し、関所を無くす。『楽市楽座』じゃ。これで自由に人がモノを売りに来るようになる」 「なっ……!? シゲオ様、それでは領主の収入が!」 「構わん。わしは美味い茶菓子が食えればそれでいい。それに、村人たちに自警団のような真似事をさせるのもやめじゃ。農民は安全に畑だけを耕せばいい。『兵農分離』じゃな」
わしは三人の配下に向き直った。
「アリアちゃんは長槍が得意じゃからな。前世でいうところの『槍の又左』、前田利家のような遊撃と常備軍のトップを任せよう」 「はっ……! このアリア、シゲオ様の御剣となり、槍の『またざ』として最前線で敵の首をすべて刎ね飛ばしてご覧に入れます!」 「チヨちゃんは、忍びの技を活かして流通の護衛と、他領からの情報収集じゃ」 「御意。お館様の影として、不穏な動きを見せる商人はすべて闇に葬ります」 「いや、殺さなくていいからね!?」
わしはただ「美味しいものを食べて、安全に盆栽を育てたい」だけなのだが、この完全なトップダウンによる中央集権的な戦国政策は、ファンタジー世界の古い常識(ギルドの独占や魔法貴族の特権)を根底からぶち壊す劇薬となってしまった。




