第二十話 邂逅のノイズ
第二十話 邂逅のノイズ
帝国領の小高い丘。そこには、今や異世界全土の信仰を集める「正一位」天狐の社が鎮座している。
社から見下ろす帝国の華やかな街並みと、鏡のように静まり返る美しい湖。夕暮れの茜色と、闇夜の紺青が混ざり合う――昼と夜の境界、「逢魔が時」。
「……綺麗だな。現世のネオンとは違う、命の灯火って感じだ」
「ふふん、我の加護が隅々まで行き届いている証拠なのだ。……ショータ、たまにはこうして二人で空を眺めるのも、卒がなくて良いものだな」
コンが満足げに目を細め、隣のショータに寄り添おうとした、その時だった。
二つの月が浮かぶ夜空を、一条の光が切り裂いた。
それは願いを託すようなロマンチックな流れ星などではない。尾を引く光はどす黒く、大気を焦がす音は、まるで無数の亡者が叫んでいるかのような禍々しい不協和音。
「……っ!? なんだ、あの『ノイズ(狂気)』の塊は」
ショータの【世界の総支配人】の演算が、かつてないエラー値を叩き出した。計測不能。論理破綻。
「ショータ、嫌な気配がする……。あれは、魔王軍の魔力とも、神界の霊力とも違う……。もっと、ドロドロとした『悪意』の塊なのだ……!」
コンの尻尾が逆立ち、社の空気が一変する。
漆黒の流星は、帝都の遥か彼方――北の原生林へと、音もなく墜ちていった。
その巨大なクレーターの中心。立ち込める土煙の中から、錫杖を突く乾いた音が響く。
「ここが……新たな地か。果心居士、成政、存分にやるが良い」
かつて織田信長を討ち、家康に知恵を授けた「天海」こと明智光秀が、ついにこの世界に足を踏み入れた。
一方、魔王軍九尾の元を離れ、ショータのプロデュースを受けていたキキョウは、北の空を見つめ立ち尽くしていた。
右の脇腹が、熱い。
かつて己が小太刀を突き立てた、あの時の感触が蘇る。
「……殿?」
消えたはずの主君。呪われた魔導の主。
再会の時は、もうすぐそこまで迫っていた。
『桔梗の介錯〜戦国に散り、異界に咲く〜』 完




