第52噺 有象無象は獲物を見て愚かな笑みを浮かべる。
殺気だった有象無象から、殺気だった有象無象へ。
我々よ、時は来た!
悪魔を討ち滅ぼし、英雄となる時が来た!数はたった二人しかし実力は未知数!
だが我々よ、慌てる必要は無い!我々の力を我々は良く知っている!
我々よ、今なのだ!今こそ我々は最強を謳い無敵を名乗るのだ!
「ウオオオオオオオオ!!」
放送局の四方を、300人の兵士が叫ぶ。
それぞれの手には剣、棍棒、盾、弓矢、松明が握りしめられており、まるでこれから城を攻め落とすような殺気が放送局を支配していた。
そしてその中、放送室の隅でウシロノとショウメンはガタガタ震えていた。
「ウウウシシシロロロノノノ」
「ショショショメメメンンン」
「大丈夫かい、少し水を渡しておくよ」
DJのオルガン・ベルノートは水を入れたコップを二人に渡そうとするが、二人は完全にびびって受け取ろうとしない。
ベルノートはコップを机の上に置き、自らも椅子に座る。
(やれやれ、完全にびびってるな。まあ無理もないか。
しかし政府も二人の悪戯を止めさせる為とは言え随分凄い対応するなぁ。
まあ人質である俺が口出しできる訳ないか)
「さてそろそろこの緊急放送も終わりを告げてしまいそうだ。
何故なら今我々の施設の外側には怖いお兄さん達が並んでいるからね。
ウシロノとショウメン達、別れの挨拶はしておくかい?…ちょっと無理?
まあ我々の放送はここまでだ、後は軍隊に任せる事にするよ。それでは、今日も元気に仕事しよう!」
施設の外側では、軍隊達が自動扉の周りに集まっていた。
「良いか、施設の中に居る奴は全員皆殺しだ。
彼等が悪魔の洗脳を受けている可能性は高い!
奴等を一気に破壊し、この施設を完全に爆破させる!
そうすれば奴等の痕跡を完全に消す事ができる!
行くぞお前達!」
「ラジャー!」
「カウントダウン開始、5、4、3…」
兵士達が突き進む為にカウントダウンを開始する。
しかしその後ろでは、トラックが放送局目掛けて高速で走っていた。
それに気付いた兵士が手を振って運転手に止まるよう伝える。
「あれは発掘部隊のトラックじゃないか、何故ここに?」
「止まれー!こっちは危ないぞー……ん?」
兵士はつい運転席を覗いて、夥しい数の右腕が詰まっているのを見て、
思わず叫んでしまった。
「うわあああああああ!!」
「何だ!?」
「腕だ!トラックに、トラックに大量の腕が詰まってやがる!」
トラックは全く速度を落とさず放送局に真っ直ぐ向かっていく。
そして勢いそのまま、自動扉に突っ込んだ。
ガシャアアアン!!
自動扉はあっさりと破壊され、トラックの窓は衝撃で全て割れてしまう。
そして、大量の右腕が蚯蚓や百足のように地べたを這って車の外にでていく。
外で呆気に取られていた兵士達も我に帰り、急いで中に侵入するが、その時にはもう運転席に右腕は一つも無くなっていた。
「くそ、まさか事故が起きるとは……おい、大丈夫か!」
兵士の一人が運転席に向かい走っていく。
運転席には発掘部隊の制服を着た男性が力なく座っていた。
良く見ると、体中に痣が出来ている。
「どうだ、無事か!?」
「……いや、死んでいる。
体中を何か強い力で絞められて、
絞殺されている!」
「絞殺、だと……?
馬鹿な、走るトラックの中だぞ?
誰が殺せるって言うんだよ…」
言った後に、兵士達は思わず辺りを見渡す。
放送局の入り口、エントランス部分は広く窓が日の光を取り入れ明るい筈なのだが、
何か闇の中でざわざわと蠢く気配を感じたからだ。
兵士達が目配せし、一人の兵士が肩に装備した通信機のスイッチを入れ、外にいる兵士達に連絡する。
「お前ら、中に入ってこい!
倒すべき悪魔がここにいるぞ!」
『了解、今すぐ向かう!』
中に居る兵士達は武器を構え、蠢く悪魔に殺意を向ける。
しかし、幾ら待っても外から兵士がやって来ない。
もう一度通信機のスイッチを入れる。
「おい、早くしろ!
悪魔が逃げてしまうぞ!」
『了解、今すぐ向かう!』
「……?」
通信をした兵士は違和感を感じ、もう一度通信をする。
「……おい、聞こえてるか?」
『了解、今すぐ向かう!
了解、今すぐ向かう。
了解、今……すぐ、向……か、』
プツッ、ツー、ツー、ツー、ツー、
ツー、ツー、ツー、
肩の通信機のスイッチが切れる。
兵士は顔を青くしながら思わず呟く。
「一体何が起きて……」
ガシャアアアン!!
不意に、放送局の外側で何かが衝突する音が聞こえてくる。
兵士達は思わず外に出て確認し、驚愕した。
外にはフロッグ隊長と同じ顔の人間が300人居る兵士達以上の数を上回る大軍で外の兵士達に襲いかかっていたのだ。
しかも彼等は皆力が強く、片手で車を投げ飛ばしたり何人の兵士を一撃で吹き飛ばしている。
悲鳴、爆音、破壊音に喚き声。
もはやそれは戦争だった。何百人の同じ顔をした怪物達が、何百人の兵士達と戦いあっているのだから。
先陣を切って戦いに挑んだ筈の兵士達は目を丸くして、この状況を見ているしか出来ない。
「な、なんだこれは!?
何故こんなに沢山のフロッグ隊長が!?」
「誰か俺の頬をつねってくれ……これが只の悪夢だと言ってくれ…」
目を丸くしてその様子を見るしかない兵士達の背後に、大量の右腕がゆっくりと這い寄り、首筋に手を伸ばした。
続くか?続かないか?
それはイドから這い出た蛙の子だけが知っている。




