第45噺 渦巻く物語。
愚かな魔法使いと夢見る雌鳥から、知識求める魔法使いと若き雌鳥へ。
気を付けて、君の隣りにいるのはとても寂しがりやで甘えん坊で苦労が絶えない人なのだ。
〜コッコの別荘・キッチン〜
ダンスはばつが悪そうな顔でリンベルを見つめ、リンベルは泣きそうな顔を両手で隠しながらごめんなさい、ごめんなさいと繰り返し同じ言葉を呟いていた。
ダンスはチラッとキッチンの机の上にある黒コゲの物体に目を向ける。
「これは、何だ?」
「ごめんなさいごめんなさいそれは電気釜ですごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
「何でこんな事になった?」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
「……」
しばらくごめんなさいが続いた後、気持ちが落ち着いたのかリンベルはゆっくりと顔をあげる。
美しい顔は真っ赤に染まり、また泣き出しそうだった。
「私ね、凄い機械音痴なの。もう病気と言ってもいいくらいダメなのよ。
機械を使おうとすると必ず爆発しちゃって。
普段は使わないんだけど……本当にごめんなさい」
「何で今日に限って使おうとしたんだ」
「それは、いつもより美味しいご飯を作ろうとして……それで……」
「分かった、分かったよ」
それ以上言葉を吐き出そうならばまた謝罪しそうなリンベルをダンスは宥める。
それから再度壊れた電気釜に目を向け、こう呟いた。
「後は俺が直すよ」
「え?」
「『我は貴方の元の姿を知り、元の姿を望む者。マルファスとアミーの知識、ブエルの慈悲により貴方の姿を戻そう』」
ダンスが言葉を呟くと同時に黒コゲの物体が光輝き始める。
リンベルは目を丸くしながらそれを見つめるしかなかった。
「『我は貴方に尋ねる。貴方はもう一度我と共に生きるか、このまま眠りにつくか?』」
黒コゲの物体は更に光輝き、最早太陽のように部屋中を輝かせていた。
リンベルは瞼を閉じても明るさが見えるので両手で目を覆い隠す。
ダンスは目をそらさずに黒コゲの物体に語りかける。
「『今、貴方は我と契約した。
もう一度我とこの現世で己が使命を果たしていこう』」
パァンと何かが弾けた音がしたあと、リンベルはゆっくりと目を開ける。
そこに黒コゲの物体は無く、綺麗な電気釜が机の上に置いてあった。
リンベルは思わず息を呑む。
「!?」
「もう壊すなよ」
「ま、待って!」
それだけ言って部屋に戻ろうとするダンスにリンベルは思わず呼び止める。
「何だ?」
「お、お礼くらい…言わせてよ。
貴方、今物凄い事したんだからさ」
「…お礼なんていらない…」
「言わせてよっ!」
リンベルは立ち上がり、素早い動きでダンスの前に立ちはだかる。ダンスは思わずよろけた。
リンベルはまた顔を真っ赤にしながら小さな声で、
「……ありがとう。
電気釜を、直してくれて」
と言った。
それは本当に小さな声であったが、ダンスの耳にしっかり届いた。
「そうか……俺こそ、昨日はごめん」
「え?」
「何でもない」
ダンスはリンベルからくるりと反転し、電気釜が置いてある机の近くにある椅子に座る。
「?」
「……美味しいご飯を作ってくれるんだろう?
ここで、待ってる…何か手伝って欲しい事があったら頼ってくれ」
それを聞いたリンベルの顔から悲しみが消え、まだ涙を残したまま笑みを見せる。
「ええ、楽しみにして待っていてね!」
そしてリンベルは朝食を作り始める。
ダンスは椅子に座りながらじっとリンベルの背中を見つめ続け、リンベルはたまにダンスに手伝いを頼みながら美味しい朝食を作り続けた。
物語は渦巻き始める。
螺巻きの鶏がイドに堕ちた蛙に銃を捨てさせ、たまたま近くにいた愚かな魔法使いを事故で怪我したその時に、気付かなければいけなかった事に気付かなかったのだ。
そして渦巻く物語は混ざり合う。
それを止める事は、誰にも出来ない。
続くか?続かないか?
それは次に語る者だけが知っている。




