先生は変態さんですか?
その瞬間の俺の頭は素早かった。
非力な女子になってる今の俺では逃げるのはほぼ不可能。その上、逃げようとしたら肯定してるのと同じだ。つまり、ここは逃げるより誤魔化す必要がある。だがこいつが何で俺を深月でないと判断したか分からない以上、迂闊なことは言えない。
つまり、話を逸らすのが手っ取り早い。
「……っひどい、先生、いくら私がちょっと長く休んでたからって分からないなんて……それに、この体勢恥ずかしいんですが……」
だが、とりあえずこれで離して言い訳し始めるだろうと予想した俺は甘かった。
担任は鼻で笑って、俺の腰を抱いたまま机の傍まで寄ると、俺の身体を机に押し付けた。
「何……い、いたっ!先生、痛い!」
そのまま両手を掴んで後ろに回され、片手でがっつり押さえつけられた。ちょ、のしかかられてるせいで肩とか腕とか諸々痛いんですけど!?っていうか地味に胸でかいから苦しいんですけど!!
「ちょっと待て」
「こんな状態で待つとか無理!」
なんとか抜け出そうにもあの非力な深月に似ている訳で。女子の平均よりも体力がないっぽい俺が、大の男に上から体重を掛けられて動けるはずもない。っていうか暴れたせいでさらに体重かけられて死にそう。
「ぐふっ……うぅー」
「ほらほら、逃げられないんだから暴れんなー」
なんか後ろでにやにやしてる気配がするのが腹立つ。
「とりあえず縛るぞ」
「は!?」
しゅる、という音に振り向けば、思ったとおりにやにやしてる担任がネクタイを解いていた。
「うわ……変態」
「……深月じゃねえって分かっててもちょっとくるな……」
さすがにそれはねーわっていう気持ちを全面に押し出して心底嫌そうに言えば、少し悄然としたようにネクタイを指でいじる。
本気で落ち込んだのか、腕の力が緩む。今なら逃げれるかもしれない。
机に上半身を押さえつけられているせいで浮いた足を、少し前に出す。そしておもいッきり後ろに下げた。
「いっ!?」
狙い通り、担任の脛にクリーンヒットしたらしい。
が、それでむしろ体重をかけられてしまい、逃げられなくなってしまった。……こいつ重心右足に寄せてたのかよ!
「ってえな……お前、予想以上のじゃじゃ馬だな」
やっぱ油断禁物だなとかぶつぶつ言いつつ、止める暇もなく腕を縛り上げられる。
「いた……もうちょっと緩めてく」
「だーめー。反抗してなきゃもうちょっと緩めてやってもよかったけどな」
いやあの状況で抵抗しないとかありえないだろ。
「ほれほれ、こっち向け―」
「いたたた、痛い痛い!」
おい!こちとら女子なんだからもうちょい優しくしろや!しかも俺に似た美少女とほぼ同じ顔の美少女だぞ!
ぎっちり締められた腕を下にして、机に転がされる。下敷きになった腕が痛い。
「先生、痛いんですけど……」
「あー?じゃあ……こっち」
「え、ちょ、うわっ!」
無理やり立たされたかと思ったら、柔らかいものに勢いよくぶつかる。
「ここならいいだろ?」
どうやら端にあったソファに仰向けに転がされたらしい。
っていうか状況がもう既によくない。