第79話:勝ち組と負け組
大学卒業後、俺は大手ゼネコンに入社した。
父さんは心から祝福してくれて、妃菜は「よかったね、よかったね」と涙を流していた。
「いってらっしゃい、ひーくん!」
同棲中の妃菜は、朝早い俺を毎日見送ってくれる。
いつの間にか『いってきますのチュー』が日課となっているが、何回しても恥ずかしい。
ある日、いつものようにニュースに耳を傾けていると、聞き覚えのある名前が聞こえた。
『日向龍生』
その名前を聞き間違えるはずがなかった。
なんたって、俺を苦しめたクズ男の名だから。
気が付けば、妃菜も手を止めてニュースを見ていた。
『警察によりますと、昨日、菊池冬美さんが日向容疑者に殺害されたとの事です。なお、日向容疑者はその後自殺し──』
ニュースには、二人の高校生の頃の写真が映し出された。
古傷を掘り返すような、気色の悪い感覚が腹の奥で芽生える。
殺されたとか、自殺とか、全て過去の過ちが今返ってきただけにすぎない。
ざまぁみろ。としか思わないが、思い出したくないことを思い出すのは気分が悪かった。
彼の名前を見たせいか、夢に龍生が現れた──
◇
「おい……」
力のない龍生の声が頭の上で響く。
思わずはね起きると、彼は椅子に縛られたまま身動きが取れない状態だった。
「大手企業に入社して、調子に乗ってんのか?」
「お前は冬美を殺したそうじゃないか」
「違っ──あれは俺が殺されたんだッ!」
変だ。
夢のはずが、まるで龍生に感情があるように思えた。
「あれは……冬美が家に誘ってきたんだ。そこで俺が刺されて……」
「嘘はやめてくれ。ニュースではお前が殺して、そのまま自殺したって報道されていたぞ」
「そんなバカな──!」
龍生の顔が歪んだ。縛られた腕が椅子の脚を軋ませる。
「じゃあ聞くが、お前、俺が高校の時に何をされたか覚えてるか?」
「……」
「冬美に浮気させて、ファウルをしてまでサッカーで勝って──」
「あんなの、悪ふざけだろ……」
「悪ふざけ、ね」
俺が龍生の肩を掴むと、「なんだよ」と体を震わせた。
「お前が今まで散々悪いことをしてきたから、誰もお前が被害者だなんて思わねぇよ」
「黙れ」
「やだね」
「黙れ黙れ!」
龍生が体を動かすと、椅子に縛られているので反動で倒れる。
「……ッ」と情けない声が零れた。
「なあ、龍生? お前は負け組なんだよ」
「……クソォ」
「さっさと地獄に落ちろ!」
俺が蹴り飛ばすと、龍生は底なし沼に落ちるように、奈落へと落ちていった。
◇
「ひーくん……」
「妃菜?」
「うなされてたから……」
「もう、大丈夫だ」
龍生の姿はもうない。
きっと、地獄に落ちたに違いない。
俺は妃菜同じベッドで、眠りについた。今度は龍生が現れることはなかった。




