第60話:浮気男を追放
10月半ば。
新人戦を目前とした時期に、とある計画が実行された。
「お前はもうチームにいらない」
ある日、龍生が部室に現れると、サッカー部のキャプテンは淡々と告げた。
俺は部屋の片隅で見守る。
計画は全て俺が立てた。
龍生に反抗心を持つ彼らが、勝手に叩けばいい。
俺は龍生と同じ手段を使って、コイツを地獄に送るだけだ。
「ハッ、地球温暖化でまだ暑いからな──熱中症で頭がおかしくなったか?」
「いいや、真面目だ。このチームが勝つためには、お前はいらない。邪魔だから消えてくれ」
「ふざけんなよ。お前らじゃ、一回戦すら勝てないッ。俺がカバーしてやらないと得点も入れられないようなカス共め」
「カスはお前だ。面倒事ばかり起こしやがって。お前のせいで、サッカー部が崩壊しかけた」
龍生の顔が曇ったのが、目に見えてわかった。
同時に──なるほど、と思う。
気に食わないヤツが不幸な目に合うのを見るのは、ものすごく気分がいい。
「クソッ……クソ、クソッ! おい顧問、黙っているだけか?」
サッカー部員に混じって話を聞いていた顧問であり、俺の担任の相馬晃一は、閉ざしていた口をついに開く。
「教師がこんなことを言うのはよくないが、イジメの加害者であるお前は不要だ」
「そ、そんな──! ここにいるヤツらは、全員頭がおかしくなってんのか?」
サッカー部員は頑なだった。
龍生の話には耳も貸さず、ただ、勝ち誇ったような笑みを浮かべている。
無理もない。なんたって、一世を風靡した"盤上の支配者"である俺が、入部を希望しているのだから。
「俺はこいつらサッカー部に、全国へ行かせてやりたいんだ」
「だったら尚更──」
「たしかに、龍生にはサッカーの才能がある。ただし、性格に難アリだ。いくらプレーが上手いからって、いじめっ子は推薦できない」
バコンッ、と鈍い音が響き、部室の棚に大きな穴が空く。
そして、龍生の膝が床についた。
「ハッ……俺も、お前らのような雑魚なんかとプレーしたくない。だから、こんな部活すぐ抜けてやる……」
強がるように言う様は、俺の心の底から愉しませた。
ゾクゾクの何かが込み上げてくる。
味わったことのない感覚だったが、悪くない。
むしろ、心地がよかった。
逃げるようにして去っていく龍生の背中を見届けると、部員の一人が声を零した。
「ほんとに、龍生さんを辞めさせてよかったんですか?」
「それな。この──平野だっけ? サッカーをできるようには見えないけど」
「口を慎め! ここにいる全員が束になっても、勝てない相手だ」
「それは流石に言い過ぎじゃ……」
「平野には、龍生ですら敗北している」
その言葉に、部室が困惑に満ちる。
久しぶりに承認欲求が満たされたような気がした。
正真正銘、龍生を地獄に送りつつある現実が重なり、口元が緩んだ。




