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第八話 相棒



「ボルちゃんー、そこからそこまで収穫してくれる?」


「わかッたぜ!」


「俺はこっち担当するわ」


 ものすごい勢いで畑の野菜を収穫していくボルクを横目に、俺は人並みな速度で野菜を収穫する。


 叔母さんは俺らを温かい目で見守りつつ、野菜を洗っていた。

 畑仕事とは本当に大変だ。

 俺らの方が若いのに、叔母さんの方がいつも長く作業を続けている。

 本人は慣れてるから、なんて言っていたが魔力を使って肉体を強化していても、数時間ほぼ休みなしで作業している人間を慣れという言葉で片付けるのはさすがに無理がある。


 せめてと思い、一週間の休みができた俺とボルクは畑の手伝いをしていた。


「そろそろ休みましょうか」


「え、まだ半分も終わってないけど」


「いつもより早いから大丈夫よ。さ、昼食持ってきたからボルちゃんと食べてきて」


「やったぜママさん!! 行こうぜ!」


 なんて言って、俺とボルクは二人で近くの木陰に腰掛けて、仲良くサンドイッチを食す。

 ボルクの胃からすればあまりに細い食事だが、本人は叔母さんの食事であればそれで腹が満たされるらしい。


「にしてもオレっち達、謹慎とはなぁ」


「ま、勝手に魔物と戦ったからな」


 結局あの後、ミミが呼んでくれた村の人達に助けられて俺らはすぐ治療された。

 その後ことの顛末を学園に報告すれば、優男はショックで倒れ、学園長に呼び出されて自宅謹慎一週間をくらったという話だ。


 モンスターテイマーとして、まだまだ未熟な段階で魔物と戦うのはあまりに危険。

 更に言えば、俺らが自力で行ける範囲には魔物は生息していないため、こんな事件起こりようがないのだが……。


(ミミが魔術を使ったことに関係があるのか)


 特異な例として挙げられるのはそれだろう。

 イレギュラーは彼女の魔術特訓だ。

 結局、後から聞いた話では中級まで使えたそうだが、それが黒猿を誘き寄せるトリガーになったのかもしれない。


「ま、とは言え、俺たちも暫くゆっくり心を休められるからこれはこれで」


「肉体的には辛いんじャねェのか? オレっちはなんて事はないが」


「ま、大変とは思うが辛いとは思った事ないよ」


 いつも叔母さんが当たり前にしている事だ。

 これを辛いと思っては、なんだか叔母さんに悪い気がして、手伝うようになってからは辛いという気持ちが消えた気がする。


「それにボルクがいるからだいぶ楽だ」


「撫でるなー!」


 ボルクの頭をこねくり回す。

 俺とボルクの距離感も、あの事件以降縮まっていた。

 俺が彼の頭を撫でれるくらいには。


 右手のマスターライトが変化したグローブが陽光に光る。

 手の甲に紋章が刻まれて、由緒正しい何かに見えるコレは、進化の証らしい。


『それはレベルアップだ。テイマーとしてレベルがあり、十まで上がるんだよ。その度に色んな変化がある。最初の変化が石の変化。テイマーに合わせた最も扱いやすい道具に変わるんだ』


 なんて優男は俺に教えてくれた。

 次いで、


『そしてその真価はモンスターの潜在能力を引き出すところにある。もしかしたら、それでボルクは火を吐けたのかもね』


 そんな事を教えてくれた。

 陽の光に幾重にも反射して煌めくグローブ。

 美しく、とてもかっこいいと思う。

 何より俺の成長した証だいうことがすごい嬉しかった。


「けほ、けぼふ」


 たくさん食べたせいかボルクは喉を詰まらせて、勢いで火を吹いた。


 グローブの進化に伴い、俺とボルクは共鳴し、心と心を繋げ合わせた。

 結果的にボルクの火を吐く力を覚醒させることができた。


 ただ咳き込んだだけなのにボルクは嬉しそうに頬を緩ませている。

 火が吐けたことが本当に嬉しいんだろう。


「悪かッたな、なんか今まで」


「突然どうした」


「ゆッくり話せる時がなかッたから、今更になッちまッたけどよ。オレっちの態度、悪かッただろ?」


「あぁ、そんなことか」


 しおらしくボルクは目を伏せている。

 態度に棘があったのは事実だし、本人も意識して反抗していたんだろう。


 火が吐けない火龍は火龍ではない。

 そんな風習のせいか、ボルクは異常なまでに怯えていた。

 怯えた獣は牙を剥く。牙を剥いて、唸り声を上げるものだ。


 ボルクは防衛反応を見せていただけだった。

 そう思うと、可愛く見えてくるものだ。


「……辛かったんだろ。わかるよ」


「え?」


「|皆は努力しなくてもできること《・・・・・・・・・・・・・・》が自分にはできないのは、辛いよな」


 俺もそうだ。

 みんなに魔力は使えても、俺はそれが出来ない。

 何者にもなれないはずだった俺が、テイマーになれたのは間違いなくボルクのおかげなのだ。

 紆余曲折あれど、今良い信頼関係に落ち着いたのであれば、問題などあるはずはない。

 誰しもが壁にぶつかって、その壁を越えるために努力する。


 俺はどんな壁が来ても、

 折れない、

 負けない、

 屈さない。


 それこそが俺の心情だ。


 だから別に、気にしてなんか。


 と、横を見て、撫でていたボルクの体が震えていた。

 顔を伏せて、静かに泣いている。

 全く、仕方のないやつだ。


 俺は静かに背をさすった。

 ボルクが泣き止むのには数秒とかからなかったが、酷く長い時間に思えた。


「オレっちは決めたぞ!」


 突然涙を乱暴に拭って、ボルクは俺の前で胸を張った。


「オレっちは今日から正式にオマエのパートナーモンスターとして、恥がない行動をだな」


「はは、別にいいよ。今まで通りで」


「なんでェーッ!?」


 笑って流せばボルクはその場でずっこけた。

 彼からすれば一大告白。おそらくずっと言おう言おうとしていたことなのだろう。

 困惑する彼の前に手を差し出す。


「俺はお前がいなきゃ、テイマーになれない。ボルクも俺がいなきゃまだ火は吐けないんだろ?」


「ぐっ」


 そう。ボルクは俺が近くにいないと火が吐けないらしい。

 この前こっそり森で練習しようとしたら、また火が出なくなったと悲しんでいた。


「だから俺たちは相棒だ!」


「あ……い、ぼう?」


「そう! 二人で一つ。俺も戦う。後ろから指示を出すだけのテイマーじゃなくて、一緒に戦うテイマーになるんだ。どうだ? 楽しそうだろ!」


 俺の言葉にボルクはパァっと破顔する。


「いいな! それ!」


 俺の差し出した手を掴んで立ち上がるボルク。

 ここで初めて俺たちはテイマーになったんだろう。

 どこかそんな気がした。


「二人ともーそろそろ始めましょー!」


「「はーい!!」」


 家の方から手を振る叔母さんの姿に、俺たちは二人で元気よく返事した。

 先にボルクが走り出して、俺の方を振り返る。


「ほら、早く行くぞ! ゼンシン(・・・・)!」


「──────────」


 さりげない一言。

 それはこの世界にとって何でもない一言だろう。


 だが間違いなく、今、俺の心は揺れ動いた。

 認められたのだ、と。


「あぁ!」


 俺は走り出す。

 これから生涯を共にする、唯一無二の相棒と共に。







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