第十五話 現れる辻斬り
ゼンシンがステルクの個別授業を受けている話はたちまち広まった。
態々野外に出かけて授業をしていても、モンスターの収集の任を解かれ、学園に出没し始めたステルクと、逆に授業から全く姿を見せなくなったゼンシン。
その二つが結びつけられるのに三日とかからなかった。
怪しんだ一人の生徒により、個別授業が特定されたちまち噂に。
それでも生徒の安全が約束された学園内で、強硬手段に出ようとするものは居らず、前と同じようにテイモンバトルを仕掛けようとしても、日中はステルクが見張っていてそれも出来ない。
そんな生活が続き、生徒間でも不満の声は上がりつつあった。
ゼンシンがステルクの授業を受けてから、一週間が経った夜。
学園内の庭園にて、二人の人影が不満を漏らしつつ、人気のない庭園を散歩していた。
「ゼンシンがステルク先生の個別授業ってどういうことだ! 絶対俺様が受けた方がテイマーの未来になるってのに」
「本当本当! ダイの悪魔奥熊を鍛えた方があのドラゴンより強くなるって」
いばりんぼうのダイを取り巻きのショウがおだてる。
いじめっ子である二人も寮に入り、ゼンシンをイジメ抜いてやろうなんて画策していたのだが、テイモンバトルでは惨敗し、寮にはほとんど居らず、接触する機会がほぼゼロ。
そんな二人の不満は膨れ上がっていくばかりだった。
「こうなったらステルク先生の授業中に俺らも乱入して、実力を示すしか……」
ダイの脳内では、如何にゼンシンより強いことを証明するか、という思考がぐるぐると巡っていた。
だがショウはそうではなかった。
「ん、おい。どうした?」
ショウはただ立ち止まり、行先を見て目を点にしている。
様子がおかしいのは言うまでもなかった。
「だ、だだだだだだだい! な、なんかいるよぉ!?」
「なんか? なんかって……」
様子のおかしいショウを訝しみ、ダイはゆっくり指差す先を見た。
そこにいたのは細身の男。
漆黒の長髪は根本でまとめられ、三本に分かれ尾を引いている。
月光が映し出す彼の姿は、まるで孤高の王子のように気高く、威容があった。
ダイとショウはその姿に見惚れていたのかもしれない。
男でもありながら美しいとも思わせるその容姿に、ただ動きを止める。
恐怖と美と強さを感じさせるその姿から一瞬も目が離せず──
己の胸に式神の札が貼られて漸く意識を取り戻した。
「「な、なんだ!?」」
「結界の術式だ。俺の島に伝わる、術だ。俺の国では魔術ではなく、陰陽術と呼んでいたが、そこはどうでもいい」
ダイとショウの胸に貼られた人型の式神。
そこに映し出された紋様が淡く光を帯びて、術式を起動しているのがわかる。
この学園での魔物操術以外の術は基本、学ぶことはできない。
だからこそこの力は元々男が持っていたもの。
「テイモンバトルだ。俺か、お前らどちらか勝たねば、この結界から抜け出すことはできない」
男の殺気を感じたと共に、ダイとショウはマスターライトを構える。
自分たちの周りに薄い透明な膜が張られていくのを感じ、男が真実を話していることを理解した。
長髪の男もまた懐に手を忍ばせ、取り出すのは──脇差。
「て、テイマーじゃないのか?」
「だ、ダイ! こいつ、最近噂の辻斬りってやつじゃあないの!?」
「こいつが!?」
生徒間で噂されている辻斬り。
夜な夜な学生テイマーを襲っては、テイマーとモンスターを無気力な状態に変えてしまうとか。
その正体は奇妙な術を使う、男だったとは。
そんな結論を出して。
ダイとショウは相手を見据えた。
「マスターライトの真の姿も知らない……雑魚を引いたか」
「ざ、雑魚だって!? 俺のベアを見ても同じことが言えるか!」
鼻で笑う男を前に憤慨し、ダイはパートナーモンスターである悪奥魔熊を呼び出す。
石の中から飛び出した三メートルの巨躯を持つ漆黒の熊は、深夜の月に向かって吠えた。
その力は確かであり、ボルクに一度負けはしたものの、ダイの戦績で言えば勝ち越している。
ベアの力が相当強いのは間違いないのだ。
そのベアを見ても顔色を変えない男を見て、ダイは顔を真っ赤にする。
「いけ!! サポートスキル強化三連だ!! ぶっ潰せ!」
「イビルレーザーだ!!」
サポートスキル強化を三回分受けたベアはその力を持って、まだモンスターを召喚していない男に向かって突進する。
ショウが呼び出したイビルアイも補助をするように後方からレーザーを照射。
絶対絶命の男はそれでも、毅然と脇差を構え抜き放つ。
そこに現れたモンスターの姿に、ダイとショウは震え、そして。
消し飛ばされる自分のモンスターを横目に立ち尽くした。
「お、俺のベアが……こんな簡単に」
「い、いびるぅ」
勝負は一瞬だった。
現れたと思った黒い鎧はベアに向かって剣を一閃。かえす刀でレーザーを撃ち落とし、飛ぶ斬撃で持ってイビルアイを撃墜させた。
彼我の強さの差は歴然。
ダイとショウに勝ち目などかけらも存在しなかった。
男が少しずつ歩を進める。
まるで刑を執行する処刑人のように。
ダイとショウは腰を抜かして、動けない。
震える体は逃げる力を失わせていた。
だがここで二人はとあることに気づいた。
──勝負がついたのに結界が解かれない。
「て、テイモンバトルは終わったぞ! さっさと解放しろよ!」
「……どちらかが勝たねば、結界は解かれない。だが」
震えながらも、自分の小さな自尊心を守るように吠えるダイに、冷ややかな視線を送りながら男は言う。
「俺が勝ったらすぐに解くとは言ってない」
「……な!」
男が脇差を構える。
しかしそこにあったのは先ほど見た脇差とは違い、鍔がなく刀身の長い歴とした刀であった。
「勝者には栄光を。敗者には代償を」
淡い紫の炎に包まれる刀は妖艶だ。
見惚れてしまう危うさを持ち、ダイは目を離せない。
だがそれは。
「捧げてもらうぞ、お前の魂を」
自らの魂を刈り取る死神の鎌と同義だと、最後の最後まで気づくことはなかった。
「「うわぁぁぁぁぁぁっっつ!!?」」
二人の悲鳴は結界内で止められる。
深夜の宿舎は静かに、夜の闇を晴らす月の光に照らされていた。




